第四話 俺、この戦いが終わったらティアラと○○するんd――
どうも、IKAです。
更新が遅くなって本当にすみません。
今回から第二章に入ります。
新たな村で出会う新たな少女。
春雅はハーレムを広げられるのか!?
俺が異世界に超強制的に飛ばされてから、一週間が経過した。
俺/春雅 翔夜。
妹/春雅 燐虎。
エルフ族の少女/ティアラ・アルヴ・エルフ。
この三人で旅を始め、森を進むこと四日でようやく次の村にたどり着いた。
『第二の村/京江都』。
俺達がいた世界の京都によく似た景色が広がる、古き良き町並みがある場所だ。
最初に訪れた村/ミズガルズと同様にヒューマンの領地の一つだが、多種族の通行は不可能とされている。
理由は、この村には古くから代々伝わる寺が多く存在し、小さな争いでもあろうものなら崩壊し、大きな戦争の火種になりかねないための処置である。
間違えないでもらいたいのが、これはあくまで処置であってこの村のヒューマンは多種族を嫌っているわけではないのだ。
「ティアラには一応これを被っていれば大丈夫だな」
俺はティアラに深めで茶色いフードマントを渡して羽織ってもらった。
エルフ族は尖った耳以外、これといってヒューマンとの容姿の違いが少ない種族らしい。
他の種族は尻尾があったり、角があったりして隠しづらいのだが、エルフだけで言うのならフードをかぶるだけで充分に隠せる。
幸いなことにフードマントはこの村の衣装屋で販売されていたので、ここに来るまでに得た金貨で購入した。
色んな色があったのだが、茶色を選んだのはこの村の風景に溶け込むためだ。
‥‥‥本当はもっと女の子向けの色を選ぶべきだったのだが、本当に残念だ。
それでもティアラは嬉しそうに微笑み、俺に感謝を告げた。
「私のためにわざわざ買っていただき、本当にありがとうございます」
「そんなに畏まらなくていいって。
むしろもっと可愛い物にしなかったからこっちは謝りたいくらいだ」
「いえ、そこまで想ってくれただけで私は十分です。
翔夜さんからもらった物、一生大切にしますね」
「お、おう」
そこまで大事にしてもらわなくても構わないんだけどな。
まぁ喜んでくれたのならそれでいいか。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「なんだ?」
「前々からずっと言いたかったんだけどさ」
「おう」
妹の燐虎は大きく息を吸い込み、そして左人差し指をビシッと俺に‥‥‥正確には俺と俺の左腕に抱きついているティアラに向けて指して言った。
「二人ともくっつき過ぎじゃないの!!?」
燐虎は眉を顰め、頬を膨らませて如何にも怒っていると表現しており、どうやら俺とティアラの距離感が気に食わないらしい。
そんな燐虎にティアラは冷静に返答する。
「私はもう翔夜さんのものです。
愛する者の傍に寄り添うのは当然のことではありませんか?」
「愛するって‥‥‥ティアラちゃん、お兄ちゃん“みたいなの”が好みだったの!?」
「おい」
失礼な言葉に俺はツッコミを入れずにはいられない。
しかし燐虎は俺のツッコミはスルーしてティアラに言い続ける。
「お兄ちゃんは馬鹿だし変態だし危険だよ!?」
俺のことを悪いように言いたい放題。
イライラするな‥‥‥こんなことを聞いてティアラが引いたらどうすんだよ!
「私は馬鹿で変態で危険な翔夜さんを、愛おしい存在だと思ったんです」
「ティアラ‥‥‥」
嬉しいさのあまり、彼女を見つめてしまった。
‥‥‥ん? ちょっと待てよ。
ティアラも俺のことを馬鹿で変態で危険だと思ってたのか?
‥‥‥こ、細かいことは、き、気にしない方がいいよな。
とにかくティアラが俺の左腕に抱きついているのが幸せだ。
「それとも燐虎さんは私と翔夜さんの関係に嫉妬してるんですか?」
「実の兄妹でそれはないよ」
「ではどうして怒っているのですか?」
「別に~!」
「???」
燐虎はそっぽを向いてズカズカと歩き出した。
なぜそんなにイライラしているのか、俺とティアラはさっぱり分からず、とにかくはぐれないように共に村を歩き出した。
――――――冒険出発初日、俺はティアラに想いを告げた。
それ以来、ティアラは俺の側に寄り添うようになり、こうして腕に抱きついてくるようになっている。
そして俺のことを『あなた』から『翔夜さん』。
燐虎のことを『妹さん』から『燐虎さん』と呼ぶようになり、親近感が増している。
「翔夜さん、この村のことを改めてご説明いたします」
「ああ、頼む」
知識を豊富に持つエルフ族のティアラは、仲間にいて一番活躍している。
この世界のマップは、彼女の脳内に全て把握されており、どの道を進めば近道か・安全かを考えてくれる。
そして全種族の情報を――――――本人曰く全てではない――――――有しており、少なくとも旅で困ることは彼女のおかげで一つもない。
その上ティアラは料理が得意。
ほんとに嫁にしたい。
もう一度言おう、嫁にしたい。
こんなに嫁にしたいと思える美少女も少ないと思うが(というか3回も言ってしまった)。
「この京江都はヒューマン、それも職業/『神巫姫』『隠暗殺者』『侍武士』と言った『和系職業』のヒューマン中心の村です。
武士が村の治安を取り締まり、隱暗殺者が高額の依頼料を受けて暗殺を受け持つと言った村です」
「表面上の平和に、影の暗躍ね‥‥‥」
まるで時代劇の中にいる気分だ。
村の雰囲気に合わせたヒューマン達の衣服。
和服を着ている人が目立ち、冒険者であるヒューマンは戦闘用装備の姿だから判別がしやすい。
冒険者がまるで観光客に見えてしまうのは不思議な気がするな。
‥‥‥だけど、こういう村だからこその衝突もある。
職業についてティアラからいくつか説明を受けたんだが、職業を決める要素の一つとしてその人物の性格は色濃く反映されるらしい。
魔法使いである俺は思考派な部分が色濃く反映されているとティアラは言った。
燐虎は逆に勝ち気で超積極的で行動派な面が色濃く出たと言える。
そしてこの村のヒューマンの職業/武士は短期さと行動派な面が色濃く出るのだそうだ。
この村の治安を守るとはいえ、そんな面が濃く出ているということは‥‥‥。
「おいてめぇ!
いい加減にしろよっ!!」
思考をかき乱すほどの男性の怒声が俺達の耳に響く。
その方向を見ると、近くの和菓子店のテラス席で腰に刀を携えた如何にも武士のヒューマンが、武器も何も持たない無職のヒューマンの女性に対して怒鳴っていた。
怯え切った様子の女性ヒューマンだが、その光景を誰も止めようとはしない。
むしろ面白おかしく外野として、見物人、野次馬として一定の距離を取りながら囲っていた。
こうやって自分だけ無傷で眺める情景は、どこの世界でも同じなんだなって思うと少し残念に思う。
‥‥‥いや、むしろこういう世界だからこそ、こう言った情景を見てしまうのだろう。
『力量差』と言うのが目で見ただけで分かってしまい、自分の実力のレベルが一目でわかってしまう。
そんな完全実力社会の有様が、武器と戦いが誰にでも与えられてしまうこの世界の真理なのかもしれない。
「翔夜さん、止めますか?」
今にも背中にかけてある弓に手を添え、いつでも矢を放つ用意ができているティアラは真剣な表情でそう聞いた。
ティアラ自身、こういった完全実力社会の情景を嫌に思っているのだろう。
弱肉強食なんて強者が作り上げた勝手な世界だ。
弱者は否応なく受け入れなくてはならず、そして歯向かえば強者による鉄槌が下される。
それが例え、善意の行為であったとしても‥‥‥。
「ティアラ、野次馬達に掠らせずにあの武士を狙えるのか?」
一応程度の確認を取ると、ティアラは余裕の笑みをこぼし、添えていた手で弓を握った。
「その程度のこと、目を閉じてもやれますよ」
そう言ってティアラは左手で弓を握り、右手に意識を集中させる。
すると緑色の光が細い一本の矢となって彼女の右手に収まる。
そう、ティアラの放つ矢は魔力のみで構築された特殊な矢だ。
彼女の放つ矢には付属効果があり、直撃した相手に付属としてバッドステータスを与える。
俺と燐虎がドラゴンに襲われた際、ティアラが放った矢には瞬時に効果が出る神経麻痺の毒、時間差で効果が出る死毒の両方が付属効果として放たれていた。
これがエルフ族の持つ魔法。
破壊力を重視するのではなく、様々なバッドステータスを与えることで敵の長所を奪い、短所をより明らかなものとさせる戦い。
それを確実にさせるのが、エルフの持つ視力だ。
エルフ族は五感の中でも聴覚・視覚・触覚の三つが飛び抜けて鋭く、周囲の空間を把握することに長けている。
これを利用し、弓から放たれる矢は百発百中のものとさせている。
だから俺は迷いなく彼女にこの場を託せる。
たった一撃で被害者を出さずに相手を倒すことを『確実』にさせるティアラを、俺は信じた。
「武士の方が死んでしまわないように詠唱魔法は使用せず、この魔力矢のみで制圧します」
「ああ、頼んだ」
俺は彼女の隣で、彼女の真価を見つめることにした。
ゆっくりと深呼吸し、矢をゆっくりと引く。
一切のブレもなく、一切の迷いもなく、狙いを定めた瞬間――――――
「射てっ!!」
彼女は矢を放った。
矢は大気を貫き、疾走音を流しながら一直線に野次馬の中に進む。
そこからの光景に俺は目を見開いた。
矢は野次馬全員の足の下を通ったのだ。
それも動き回る野次馬達の動きに合わせた速度で進み、数センチと言う隙間を紙一重で通り抜けていったのだ。
「そして、ここで!」
ティアラは矢を握っていた右手の人差し指を上に曲げる。
すると矢はその軌道を一気に上向きになり、武士の武器である刀に直撃した。
武器には当然、耐久力が存在するわけだが、ティアラの放った矢は魔力と言う鋼を上回る硬度を持った矢だ。
それが魔力を一切通さず、何の変哲もないただの刀程度の耐久力を一気に上回って破壊した。
破壊の衝撃で武士の男性はその場で尻餅をつき、野次馬を含めたその光景を見た全員が驚きのあまりにフリーズした。
その隙に俺はティアラにあるお願いをする。
「ティアラ、その弓をちょっと貸してくれ」
「え?
は、はい、どうぞ‥‥‥?」
頭に疑問符を浮かべつつもティアラは俺にエルフ族に代々伝わる神聖な弓/<天駆ける疾風の隼弓>を受け取る。
初めて握ってみた思ったのだが、この武器は重さというものがまるでない。
それこそ、風に浮いているかのような軽さ。
重みがないにも関わらず、安定した弓矢を放つことができるティアラに改めて‥‥‥というか、もう何度目になるかわからないほど驚かされた。
「サンキュ‥‥‥いや、ありがとう。
あと、さっきの一撃、最高だったぜ」
そう言って俺は走り出し、野次馬の中に飛び込む。
人ごみだったが、先ほどの弓矢に驚いて呆気に取られていたから通り抜けるのは思いの他楽だった。
右手で弓を持ちながら左手で人ごみを掻き分け、俺は武士の男性の前に到着すると、すぐさま男性に怒鳴られていた女性に声をかけた。
「お怪我はありませんか?
すみません、まだまだ未熟な冒険者なもので‥‥‥。
もしお怪我をされていたら是非ともお詫びをしたいのですが、どうでしょう?」
俺はできる限り優しく声をかけ、更に弓矢を放ったのは自分であると言う嘘を信じ込ませた。
目的の一つは、ここにいた誰もが弓矢を放った本人を知ろうとするからだ。
もしティアラが弓を持ったままであれば皆に囲まれ、エルフ族であることがバレてしまう。
それと、もう一つ――――――。
「おいお前!
俺のことを無視してんじゃねぇよ!!」
武士の男性の標的をここにいる女性とティアラではなく、俺に向けてもらうことだ。
彼は俺の計画通りに俺に殺意を向け、今にも拳を振るうほどの雰囲気を醸し出していた。
まぁ武器も持たないコイツなんて俺の相手じゃないから、俺はこれと言って恐怖心はない。
それに、俺は素手での相手だったら妹と何度もやられまくって‥‥‥いや、やりまくっているから何の問題もない。
俺は頭が沸騰した彼に対して冷静に言葉を返す‥‥‥振りをし、彼女の方に視線を向け続ける。
「よかった‥‥‥お怪我はないようですね。
‥‥‥ああ、次いでにそこの武士。
悪いが俺は男に興味ないんだよ。
お前みたいな頭が悪くて男としても最低なやつの相手なんて、本当はしたくないんだよ」
「んだと!?」
俺は恐らく血管が浮き出るほどにブチギレているであろう男性を本気スルーし、彼女をそっと起き上がらせて店の椅子に座らせる。
そして無事が確認できたところで彼のほうを向いて会話を始める。
「今の状況を見てまだ理解できないか?
お前の相手をしてる暇があったら、一刻でも早く彼女を安全な場所に連れて行きたいんだよ。
そもそも、俺はお前みたいな男と会話するだけで虫唾が走るんだ。
つかもう虫唾と鳥肌が混ざって今にも発狂しそうなんだどうしてくれんだよ。
そんな状態にも関わらず、“わざわざ”“お前みたいな奴と”“特別に”“会話してやってる”こっちの身にもなれよ」
最後の一行の部分部分を強調して皮肉めいていうと、彼は遂に沸点が限界を超えたようだ。
「このガキ‥‥‥さっきから聞いていれば言いたい放題言いやがって!!」
そう言って彼は右腕を振り上げ、駆け足で俺に迫ると勢いがついた鋭い拳を俺の顔面めがけて振るってきた。
その表情は怒りが交じりつつも、勝ち誇ったかのように視える。
今にも殴られてしまいそうな光景に野次馬達や彼女も目を見開いてこちらを凝視した。
「――――――だから強者は嫌いなんだ」
そう言っては空いている左手を背中に回す。
背中には縮ませてある魔法の杖/マジカルズ・ロッドをを掴み、瞬時に前に突き出す。
「ぬっ!?」
「戦いってのはな、頭を使わない時点でそいつの負けなんだよ」
そう言って俺は彼の腹部に杖の宝石部分を突きつけ、口早に詠唱した。
「――――――全てを焼き尽くせ、炎の弾丸。
――――――<ファイアー・ストライク>」
杖の宝石部分が紅い炎で燃え上がり、そして本来ならば炎の弾丸となって放たれて爆発するところなのだが、彼の腹部にくっついているのでその場で炎が爆発し、彼を遠くの木まで吹き飛ばした。
大木に背中から叩きつけられた男性は鈍い悲鳴を上げ、全身の激痛と衝撃に耐えかねて意識を失い、その場で倒れたのだった。
「‥‥‥やっと虫唾が取れたな」
俺は杖を再び背中に戻し、全身を摩りながらその場を足早に去ったのだった――――――。
*****
「カッコよかったですよ、翔夜さん」
「お前も美しい弓捌きだったよ、ティアラ」
「やだ、翔夜さんったら~」
「なんだよティアラ~」
「‥‥‥」
お昼になり、俺達はとある和料理店に訪れていた。
そこでイチャラブする俺とティアラを冷ややかな目で眺め、ざるそばをすする妹が正面に座っていた。
そんなことはさておいて、やはり美少女と隣に座って食事とは至福の極みですな。
「翔夜さん、あ~ん」
「もぐもぐ‥‥‥うまい。
ほら、ティアラもあ~ん」
「や、やだ恥ずかしい‥‥‥。
‥‥‥あ、あ~ん‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
ふむ、最高ですな。
これが俺の理想としていたハーレム生活の一端。
まだまだこれから増やして行き、この食事をさらに盛り上げて行きたいものだ。
「あ、翔夜さん。
ご飯粒が頬についてますよ」
「そう言うティアラも鼻についてるぞ」
「あぅ‥‥‥お恥ずかしいです」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
照れる顔も可愛いですなぁ~。
さてさてこのまま近いうちに結婚もありえるな~。
「翔夜さん、デザートは何にしますか?」
「そうだな‥‥‥。
ティアラは甘くて美味しそうだな」
「や、やだ、夜にはまだ早いですよ!」
「何言ってるんだ。
夜のデザートはいつでもいいだろ?」
「で、でも、こんな客が多い中でデザートだなんて‥‥‥」
「ほら、素直になれよ。
お前も本当は望んでるんだろ?」
「で、でもでも‥‥‥」
「ほら、ティアラ」
「あぅ‥‥‥翔夜さぁん‥‥‥」
「ティアラ‥‥‥」
「翔夜さぁん‥‥‥」
「いい加減にせいやああああああああああああああ!!!!!!!」
「ゴブァァァァッ!!!!!」
い、妹の必殺拳が、俺の懐に直撃‥‥‥だと‥‥‥。
お、俺の身体の耐久度の限界まで持って‥‥‥いかれ、た。
「ぐ‥‥‥ぉぉ、お前、なんてことぉぉ!」
「お兄ちゃんがあまりにも不抜けてるから私が妹としてそのへし折れた根性を叩き直しただけだよ!」
「た、叩き直すっていうか、叩きすぎて凹んだ気が‥‥‥」
「翔夜さん、大丈夫ですか?」
「ティアラ‥‥‥っく、どうやら俺はここまでかもしれない」
今まで、色んなことがあったな。
出会いと別れ、今思い返せば全てが意味があったと思える。
「全て‥‥‥お前のおかげだ、ティアラ」
そう、君に出会えたから。
ティアラに出会えたから。
感謝してる。
だけど‥‥‥ごめん。
「最後まで、一緒にいたか‥‥‥った」
「翔夜さん!!」
「愛してる‥‥‥ティアラ‥‥‥」
「私も愛してます!
だから死なないで!!」
「大丈夫‥‥‥俺は、お前の中で、ずっと生きるから‥‥‥ガクッ」
「翔夜さぁぁあああああああん!!!!!」
「えーなにこの茶番ー」
俺は目を閉じ、そっと息を引き取っ――――――――――――。
<BAD END‥‥‥?>
「まだ続けたいのお兄ちゃん?」
「いや、そろそろいいかな」
「私はもう少し続けたかったんですけどね‥‥‥」
「ティアラちゃん、本当に性格変わったよね」
「気のせいですよ。
ほら、デザートのあんみつがきましたよ」
そんなこんなで茶番が終わり、俺達三人は和服の女性店員がもってきたあんみつに手をつけた。
口の中に広がる素朴な甘みは茶番で疲れた身体を癒してくれる。
甘いものが大好きな女性陣は二人とも、幸せそうな表情であんみつに酔いしれていた。
「‥‥‥さて」
女性陣が味わって食す中、俺は一気に掻き込んで席を立った。
「悪い、ちょっと一人で散歩してくる。
二人はゆっくりと食べてな」
「はい、お気をつけて」
「いってらっしゃ~い!」
『いってらっしゃい』‥‥‥か。
そんな言葉、久しぶりに聞いたな。
俺は懐かしさと切なさからくる鈍い心の痛みを無理やり抑え込み、店を後にした。
*****
――――――この世界では何度も見て理解したが、完璧な実力社会だ。
実力とは、権力や地位だけでなく戦闘能力と戦闘実績もその一つとされている。
戦闘能力とは、技や魔法の種類とその性能と威力。
戦闘実績とは、勝敗とは関係なく遭遇・戦闘を行ったモンスターや種族の数と種類のことを指す。
様々な要素から生まれる格差は、ダンジョンに出るよりも村や町にいる方が圧倒的に視える。
それは単純なことを言えば、職業を得ているか否かの二択だけでも圧倒的だ。
先ほどの件のように武器を持った者は自分より力がない存在を甘く見て、力で抑えつけようとする。
そこに老若男女は関係なく、弱者か強者かの二つしか存在しない。
この村には治安維持を目的とした組織が存在するというが、その場の解決しかできない組織では根本的な解決なんてできやしない。
また何度もさっきと同じことが繰り返される。
誰が悪い?
いや、誰もが等しく悪くないんだ。
そして誰もが等しく悪いんだ。
ただ考えて、立ち止まっているだけの俺自身も‥‥‥。
都合のいいことばかりが世界じゃないのかもしれない。
俺の考えていることは所詮、何もできない人間の戯れ言に過ぎないのかもしれない。
‥‥‥それでも、何かを願わずにはいられなくて、この理不尽を否定したい。
さっきの件で俺が自分から首を突っ込んだ理由は、そう言う想いをぶつけたかっただけなのかもしれない。
これからの旅で、こういった光景を当たり前のように見ていくんだろうな。
そしていつかはそのことにも慣れて、何の変哲もない日常となっていく。
そんなの――――――。
「あの‥‥‥」
「え?」
考え事をしながら歩き、人気の少ない裏道を歩いていた俺を背後から呼び止める女性の声。
聞き覚えのあるその声に反応して振り向くと、そこにいたのは先ほど武士の男性の襲われかけていた一人の女性だった。
黒に近い紫の長い髪を一本に結び、細い目をしており、その瞳は日本人のような黒い瞳をしていた。
彼女の髪色に合わせたような紫の和服にはどこかで見たことのあるような花が模様となって飾られており、先ほどよりも気品と美しさを兼ね備えた姿に見える反面、別世界にいるはずなのに一瞬だけ自分がいた元の世界に戻ったのではないかと錯覚してしまう。
その錯覚は胸をキリキリと痛めつけ、俺は目線を逸らして彼女の顔だけを見つめて話す。
「俺に何か用ですか?」
「あ、あの、先ほどは私を助けていただきありがとうございました。
私はこの村で文化系職業/著者をしているヒューマン/紫咲 紗織と申します」
複雑な想いに迷う俺の前に現れたのは、蝶のように美しく、蜂のように鋭い“何か”を持つ少女――――――紫咲 沙織だった。
「それにしても胸デカイな」
「え?」
一方、その頃、和料理店にいる燐虎とティアラは――――――。
「はっ!?」
「ど、どうかしましたか?」
「お兄ちゃんが空気読めないことを言った気がする!!」
「凄い直感ですね‥‥‥」
一人で外に出た春雅 翔夜の邪な心を読み取っているのだった――――――。
というわけで第四話でした。
今回、三人が訪れた村は京都と江戸を混ぜた名前にしました。
なので風景・服装・職業もそのイメージに合わせたものとしています。
名前もファンタジーにも関わらず漢字を使用しています。
名前も場所ごとに違うのがこの世界の特徴と言えます。
最後に名乗った紫咲ですが、職業がティアラの説明にないものでした。
この説明も次回にしたいと思います。
では次回、なるべく一定のペースで投稿できるように努力いたします!