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ニートな俺の次の職業  作者: IKA
第一章 ニートの旅は前途多難
4/5

第三話 主人公は羞恥心を捨てるべし

どうも、IKAです。


今回は真面目な彼の姿ばかりかなって思います。


もちろん、次回からはいつも通りの彼が待っていますよ!

「はぁ‥‥‥」


「大丈夫ですか?」


「きつい‥‥‥けど、ここで立ち止まるわけにはいかんしな」


 俺達は武器の性能、技の種類を確かめたりなどで三日かかってしまった。


 妹の燐虎は初日である程度の技を身につけたのだが、体力のない俺はすぐにバテてしまい、一番最後に終了した。


 魔法使いと言う職業を少し甘く見ていたと反省している。


 魔法はゲームで言うところのMP/マジックポイントを消費することで発動出来る。


 MP量はゲーム画面があるわけでもないので分からないのだが、俺の体感だと『精神力』を消費している感じだ。


 脳内でイメージしたものをハッキリと具現化させるのが魔法なので、肉体的と言うよりは精神のほうが疲労してしまう。


 そして精神の疲労は比例するように肉体にも疲労感を与えてしまう。


 よって何年も引きこもりをしていた俺の身体はすぐさま燃料切れになってしまう。


 ただ、やはり魔法の種類によってMPの消費量が違うことが分かり、大技となるような大魔法の発動にはそれ相応のMPを消費するが、俺が初めて使った<ファイアー・ストライク>は魔力消費量が少ないタイプの魔法だと言うのがわかった。


 俺は他にも様々な種類の性質を持った攻撃魔法と防御魔法が備わっていることを知った。


 他にもあると今後は楽なのだがと思ったが、ティアラが言うにはまだ初めて魔法を使ったばかりの俺達では『レベルが低い』らしい。


 まぁ確かに、最初っから必殺級の魔法が使えたRPGなんてクソゲーだからな。


 特定の敵を撃破することによって、武器の性能をあげる者や俺自身の能力値を上昇させるマジックアイテムがドロップするらしいので、現状はこれで納得しておくとしよう。


 そして戦える程度の魔法を習得した俺は実践も軽く経験し、ようやく旅に出る準備が整った。


 そんな三日目の夜、この日は冒険直前と言うことで体力回復に務めて休むことにした。

 

 草原より少し先に進むと森に入るのだが、俺達は草木が少ないところで焚き火をして野宿をする。


 食料はそこら辺にいる動物を狩ることで補っていた。


 食事を終えると妹は大量に集めた落ち葉を布団代わりにして眠っている。


 俺は淡々と焚き火を眺めていた。


 ニートな日々を送っていると、自然と夜型の体質になってしまう。


 だから俺は昼間よりも夜の方が目が覚めてしまう。


 そんな俺を心配してか、または眠れずか、ティアラは俺の隣に座って声をかける。


「眠れませんか?」


 こういうシチュエーションで女子と会話をする日がくるとは思わず、俺は心が弾む。


 だからといえ声量はなるべく下げ、眠っている動物や燐虎を刺激しないようにする。


「いや、夜遅くまで起きることが習慣だったんだ。

 結構長いことそうしてきたから、今更治そうにもできなくてな」


 苦笑交じりにそう言うと、ティアラはほんのりと笑みを零してくれた。


 そして俺と同じように焚き火の揺れる炎を眺めていた。


 しばらくそうしていると、炎はゆっくりと燃え尽きて灰と煙だけがその場に残る。


 灯りを失った森は驚くほど暗く、互いの距離を理解することもできない。


 ‥‥‥だが、ティアラの瞳だけなら理解出来る。


 なぜならティアラの瞳は、まるで暗闇に潜む猫のようにエメラルド色に光っていたから。


 その瞳は真っ直ぐブレることなく俺の瞳を見つめている‥‥‥つまり、しっかりと肉眼で俺を捉えているんだ。


「エルフは夜目が利くのか?」


「ええ。

 森の中に住んでますから自然とそう言う眼になるんです。

 もっとも、私達エルフ族の眼は特殊ですけどね」


「そりゃ、色々と助かるな」


 俺や燐虎の眼をもってしても、暗闇の森を見ることはできない。


 特に冒険前夜の俺達はレベル不足の初心者だ。


 そんな状態で敵が平気に出現する森奥にいるのだから不安は多い。


 そこにエルフのティアラがいてくれるのは、ありがたいことこの上ない。


 ‥‥‥だけど、ティアラが一緒にいてくれるのは今日までだ。


 明日になれば彼女はエルフの村に帰るだろう。


 くそ、フラグを建てることもできなかった。


 エロゲだったら三日あればイベントをいくつ経験出来ると思うんだよ畜生。


「どうかしましたか?」


「え?

 ‥‥‥いや、別に」


 どうやら表情に出ていたようだ。


 反省反省‥‥‥。


「‥‥‥」


「どうかしたか?」


 次は俺がティアラを心配してしまった。


 声が聴こえたわけでも、表情が見えたわけでもない。


 ただ‥‥‥何となく気になった。


 勘と言えばその通りなんだが、ティアラが遣る瀬無いような表情をしている気がした。


 妹が眠っているし、そろそろティアラのことに関して深く聞いてみるかと思っていると、彼女から先に口を開いた。


「あなたは優しいですね」


「え?」


「私のこと‥‥‥ある程度のことは察してますよね?」


「‥‥‥ああ」


「それなのに何も聞かない。

 それどころか、話題に触れないように気を使ってくれる」


「べ、別にそう言うつもりじゃ‥‥‥」


 ティアラに言われると何だか照れくさい。


 気を使ったのは俺の個人的な理由であって、ティアラのことを思いやったじゃ断じてない。


 誤解されるとマズイので俺は言った。


「お、俺は単にそうした方がモテるからやってるだけだよ。

 ほら、女ってそういうのに弱いだろ?」


「ふふ‥‥‥確かにそうですね!」


 ティアラは嬉しそうに、そして面白そうに笑った。


 これで誤解はある程度解けたんじゃないかな?


 笑いが収まるとティアラは再び話す。


「もう気づいてると思いますが、私の両親は亡くなっています。

 三年前、龍族との戦争によって‥‥‥戦死したんです」


 予想通り‥‥‥そして、当たって欲しくなかった答えだった。


 真実はいつだって残酷だと言うのは、どこの世界でも変わらないんだな。


 推理なんてものはするもんじゃない。


 ましてや他人の残酷な真実を知るための推理なんて、何の意味があるっていうんだ。


「その時の私は、何もできなかった。

 ただ両親が命懸けで戦う姿を、見ていることしかできなかった」


 もうやめろ‥‥‥話すのをやめろ。


 それ以上、お前はお前自身を責めないでくれ。


 他人にそういう事をなんで話すと思う?


 それは、他人に話すことで自分自身がどれほど惨めかを思い知らせるためだ。


 自分を傷つけないと気がすまない‥‥‥だから、他人を使ってでも傷つける。


 見ず知らずの俺達にすら優しいティアラだ。


 他人を使ってでも‥‥‥なんて無責任なことをすれば、罪悪感で更に自分を苦しめる。


 それを分かっててあえてやっているのを、俺は知っている。


 気持ちが分かるから。


 理解できる人だから。


 ‥‥‥なのに俺は、言葉が見つからない。


「あなた達を見つけた時、私が守れなかった両親を思い出しました。

 あの時は守れなかったけど、その分‥‥‥あなた方は守りたかった。

 私の勝手な想いですけどね」


 暗闇でも、ティアラの表情がハッキリと分かる。


 きっと目尻に涙を浮かべ、切ない顔で笑っているだろう。


 やめろ‥‥‥俺がお前にその話題を出さないようにしていたのはな!!


 お前に、そんな顔をさせたくなかったから!


 お前のそんな顔を見たくなかったからなんだよ!


 伝えたい。


 この想いを。


 この想いを、言葉にして伝えたい。


「‥‥‥そうか」


 でも、俺は言えない。


 いや、言えなかった。


 悔しかった。


 苦しかった。


 でも、俺に分かるのは一つだけだ。


 俺が今、どんなに努力しても、どんなに思考回路の中に閉じこもっても、どんなに広い図書館の本を全て読んだとしても、今持てる全ての言葉を総動員させたとしても‥‥‥。


 ――――――ティアラを笑顔にさせる言葉は見つからない――――――。





*****




 翌朝になり、燐虎は気合を入れて日課にしていた走り込みに出て行った。


 戦えるので心配はなく、俺とティアラは平気で野獣を野に放った。


 俺は朝は弱いので木陰に隠れ、のんびりと周囲を見ました。


 その間であっても俺は魔法の杖/<マジカルズ・ロッド>を肌身は出さず持っている。


 いざという時に持っておくことは街や村を出たら鉄則と言うティアラの教えを守ってのことだ。


 そのティアラは今、昨日のうちに捉えておいたウサギを三匹ほど解体して再びつけた火の上で焼いていた。


 この森に生息するウサギは『チーズ・ラビット』と呼ばれ、文字通りチーズのような濃厚でミルキーな味がする。


 それをその場で捕まえて焼いて食べることができるのは、冒険の醍醐味とも言える。


 まぁ、最初の頃は燐虎が「ウサギちゃんを殺しちゃやめえええええ!!」と号泣しながら嫌がっていたが、今ではおかわりするほど平気で食べている。


 ‥‥‥いや、平気というわけではないのだろう。


 命のありがたみを今一度感じ、改めてしっかりと食べているのだと俺は思う。


 それくらい、あいつは優しいからな。


「それにしても‥‥‥今日は妙に騒がしいな」


 雲一つない快晴の空を見上げながら、俺はふと呟いた。


 空には様々な種類の鳥獣族が飛び回っており、普段は三種類ほどの草食の鳥獣族を目撃する。


 だが、今日は今朝から随分と多くの鳥を目撃している。


 ティアラは「天候が悪くなる予兆かもしれませんね」と言っていたが、俺はそれとは違う胸騒ぎを覚えていた。


 確かにティアラの言う通り、天候が原因だと言うのも考えられる。


 俺達のいた世界でも、雨の日や霧の濃い日は鳥が気圧などを理由に低空飛行する。


「それくらいのことならいいんだけどな」


 きっとこの胸騒ぎは、この世界にまだ馴染めていないからなのだろうと俺は無理やり自分を納得させることにした。


 なぜなら今、悩みを多く抱えきれないからだ。


 ‥‥‥ティアラのことを、今だに気にしている。


 昨晩、結局俺はあのあと何一つ言うことができず、気づくと互いに眠りについていた。


 起床してからティアラの態度は普段と変わらないようだが、俺は気にしてしまう。


 自分の不甲斐なさを気にせずにはいられない。


 ホントに情けない。


 膨大なるエロゲを経験してきたこの俺が、よく見るイベントで何も声をかけてあげられないなんて。


 あの状態だったら色んな選択肢があったし、その中からどれを選ぶのがベストなのか熟知している。


 なのに俺は、どの選択肢も選ぶことはできなかった。


 これからハーレム帝国作り&魔王(エロゲ的)攻略に行くと言うのに、どうしてこんなところで積んでいるだ。


「ほんと‥‥‥ダメだな、俺」


「な~に辛気臭い顔してんのお兄ちゃん」


「‥‥‥‥‥‥いつからそこにいた?」


「結構前」


「なんで声をかけない?」


「なんとなく」


「んじゃなんで今声をかけた?」


「なんとなく?」


「チェストォォォオオオ!!!」


「ンギャッ!!」


 背後にいた我が妹/燐虎に俺は哀情あいじょうを込めた鉄拳を放った。


 燐虎は両手で頭を抑えてしゃがみこむと、涙目で俺を見つめる。


「痛いよお兄ちゃん!」


「すまん、わざとじゃないんだ。

 悪気があったんだ」


「それをわざとって言うんじゃないの!?」


「おっと間違えた。

 すまん、悪気はなかったんだ。

 わざとやっただけだ」


「それは完全に悪意があってやったってことだよね!?」


 うん、気分が良くなってきた。


 ただまぁ、こうやって賑やかにしていれば、悩んでいる余裕もなくなる。


 それは今の俺には救いなのかもな。


「もう、お兄ちゃんが考え込んでるから心配してあげたのにぃ~」


「心配って‥‥‥。

 盗み聞きしてただけだろ?」


「うぅっ‥‥‥」


 返す言葉もないってか。

 

 全く考えの甘い妹だな。


 俺とは違い、あんまり考えないタイプだからな‥‥‥。


「‥‥‥でも、心配してるのはホントだよ?」


「‥‥‥」


 燐虎はティアラが料理を続けている中、俺の隣に体育座りで座って口を開く。


「お兄ちゃん、ティアラちゃんのことで悩んでるんでしょ?」


「へぇ、どうしてそう思う?」


「だって、お兄ちゃんがティアラちゃんみたいな人を放っておけないの、知ってるから」


「‥‥‥」


 人ではなくエルフだがとツッコミたくなった心を抑え、燐虎の言葉に耳を傾けた。


 コイツもコイツなりに思うところがあるのだろう。


 まぁ、元から人懐っこい性格の燐虎だからな。


 ティアラの事情を少なからず知ってしまえば、俺が心配しているのを察するのは難しくないだろう。


「お兄ちゃんは私なんかより何倍も考える人だから、きっと悩み込んでると思うんだ。

 ‥‥‥でもねお兄ちゃん?」


「ん?」


 燐虎は自信に満ちた笑で俺を見つめて言った。


「お兄ちゃんなら‥‥‥ううん。

 お兄ちゃんだからこそ、ティアラちゃんの心の支えになってあげられるんじゃないのかな?

 ティアラちゃんの心を誰よりも理解できる、この世界でたった一人の存在のお兄ちゃんだからこそ、ティアラちゃんに言ってあげられる言葉があるんだって、私はそう思うよ」


「燐虎‥‥‥」


 燐虎の言葉に雑念は一切感じられない。


 真剣な眼差しで伝えた彼女の持つ真実だ。


 俺にしかできないことがあって、俺だからこそできることがある。


 燐虎は妹としてそういった。


 他人じゃ絶対に言えない、兄妹と言う間柄だからこそ心を込めて、相手の気持ちを考えて言った言葉だと思った。


 ‥‥‥ほんと、ありがたいことだな、妹がいるっていうのはさ。


 こうして立ち直らせてくれる存在なんだって改めて兄妹と言う絆に感謝だな。


「‥‥‥うっせ。

 お前に言われるまでもねぇんだよっ!!」


「わ、わぁっ!!?」


 俺は右手で燐虎の髪をぐしゃぐしゃと適当に撫でる。


 ありがとうは照れくさい関係なのがまた兄妹と言うものだ。


 だから俺は、こうやることでしか感謝を伝えられない。


 そして俺は手を離して気合入れて立ち上がる。


 もう迷わない。


 決断した。


「まぁ見てろって燐虎。

 エルフだろうが魔王だろうが、全員まとめて攻略してやるよ!」


 そう言って俺はティアラのもとに駆け寄る。


「うっ‥‥‥ぁぁ‥‥‥」


 しまった。


 直射日光は俺の強敵だっ‥‥‥た‥‥‥ガクッ。





*****




「大丈夫ですか?」


「最高だ」


「え?」


「いや、何でもない。

 まだ怠い、このままにしてくれ」


「は、はぁ‥‥‥?」


 日陰にいる時間が長すぎたようで、直射日光が両目に直撃した瞬間に俺は倒れてしまった。


 現在はティアラに膝枕をしてもらい、看病してもらっている。


 ‥‥‥最高だ。


 人生の中で膝枕を体験することになろうとは思わなかった。


 しかもそれが金髪エルフっ娘だと思うと、もう絶好調だ。


 更に俺の眼前には今まで一度も登山したことのない二つの頂が存在した。


 これをいつか挑戦する日が来るのだろうと思うと興奮が止まりませんな。


「あ、あのぉ‥‥‥そんなに見られると、恥ずかしいのですが‥‥‥」


「すまんすまん、近くで見るとティアラって改めて綺麗だなってつい見惚れてたんだ」


「っ‥‥‥」


 決まったぜ。


 人生の中で一度は言ってみたかった言葉ベスト10に入る言葉を今言えた~!


 しかもティアラも恥ずかしそうに頬を紅くして目をそらしてるぅ~~!


 やべ、抱きしめたい、触りたい、イチャつきたい。


 しかしいいのか!?


 そんなことをして、本当にいいのか!?


天使「何を言うんだ少年。

   そんなことをしていいわけがないだろ?」


 そ、そうだよな!


 そんな邪なことをしたら嫌われるに決まってる!


悪魔「な~に甘っちょろいこと言ってんだぁ~? 

   ここはファンタジーの世界だぞ?

   女の身体を触りたいなんて当然のことだ、当然なんだよ!」


 ぬぅぅぅ‥‥‥確かに、当然だ。


 男が女を触りたいなんて当然のことだ。


 海外じゃそれが挨拶代わりにしてたっていうしな!


 よし、俺‥‥‥イキマース!!


「オアチョ~~ウッ!!」


「グボベバァッ!!!!!」


 その瞬間、俺の下半身。


 俺達男のエベレストが頂上より遥か真上から放たれた踵落としによって超大ダメージを受けた。


 俺の子孫、終了のお知らせ。


 声にならない悲鳴が俺の喉奥から突き抜けていく。


 痛い‥‥‥凄まじく、痛い。


 そしてこんな酷いことをする相手なんて、たった一人。


「ぐぅぅ‥‥‥くっ、燐虎‥‥‥貴様、俺の子孫になんてことぉぉぉ‥‥‥」


「そんな子孫は死んだ方がマシだよ。

 お兄ちゃんが如何わしいことをやろうとしたから妹である私が止めに入っただけだよ」


「ぬぁんで俺の子孫を殺す必要があった!?

 アイツ等はなにも悪くないだろぉ!?」


「なんで被害者ぶってるのお兄ちゃん‥‥‥」


 妹がドン引きしている中、俺はマジ泣きしながら妹の肩を握り締める。


 男の全身で最も防御力の低いところに放たれた妹の強力な一撃。


 これで俺が被害者じゃなく何だって言うんだ!!


 あんまりだ、あんまりだああああ!!!


「お兄ちゃんは元気になったみたいだし、早く朝食にしようよティアラちゃん!」


「え、ええ‥‥‥」


「俺は元気でも子孫が‥‥‥」


「しつこいよお兄ちゃん!

 いつまでちっちゃいことをネチネチ言ってんの!

 だから下も小さいんだよ‥‥‥」


 ‥‥‥ん?


 今めっちゃ衝撃発言を聞いた気がする。


 あまりにも下半身が痛すぎて最後の部分だけ聞き取れなかった。


 ‥‥‥ま、まぁいい。


「仕方ない、朝食にするか‥‥‥」


 鈍い痛みを残しつつ、俺たちは食事を摂るのだった。




*****




 食事を終えてしばしの休憩を挟んだあと、俺達は最終調整のために再び草原に出た。


 魔法の確認、技の確認を軽めに行うのが目的なので倒す相手はいつもと変わらずゴブリンだ。


 燐虎が草原を駆け巡る中、俺はティアラとともに魔法の練習をする。


「ふぅ‥‥‥大体の魔法の使い方は理解できたな」


「これからもっと多くの魔法を習得できますよ。

 そのためにも、練習は欠かさないでください」


「分かってるよ」


 魔法使いは多く存在する職業の中で最も多くの魔法を習得できるのだという。


 魔法習得の方法はいくつか存在するが、最も効果的なのは敵がドロップなどで入手できる『魔道書』によって魔法を習得できるらしい。


 今以上にできることが増えるというのは、ワクワクするものがあるな。


 それもまたこの旅の楽しみの一つに加えるとしよう。


「それで‥‥‥ティアラ」


「はい?」


 俺は燐虎が離れた場所でゴブリン荒らしをしているのを余所に、ティアラの正面近くに向かう。


 パーソナルスペースで言うところの個体距離と言った辺りに俺は立ち、ティアラの瞳を覗き込むように見つめながら話す。


「ティアラには今日まで色々と教えてもらって、ほんとに助かった。

 ありがとう」


 俺は深々と頭を下げると、ティアラは慌てながら返す。


「い、いえ!

 そんな、頭を上げてください!」


「いや、本当に感謝してるんだ。

 最初に出会ったのがティアラでよかったと、心の底から思う」


「いえ‥‥‥そんな‥‥‥本当に、感謝されることなんてなにも」


 ここまでの反応は俺の予想通りだ。


 そしてここから彼女の頭の中には、亡くなった両親の姿が脳裏をよぎる頃だろう。


 それを証拠に、ティアラは俺から目をそらして俯いた。


「昨晩も言いましたが、私は罪滅ぼしであなた方と関わっていただけ。

 そこに優しさや感謝の心なんてありません。

 私はただ――――――」


「――――――自分が許せないだけ、そうだろ?」


 言葉を先に言われたことにティアラは目を丸くして俺を見た。


 俺は予想通りだったことに小さく微笑み、そして言った。


「どうして分かったのかと聞きたいのなら、答えは簡単だ。

 俺もそうやって一人で抱えて、一人で傷ついて、一人で滅びることを望んでた一人だからだ」


「あなたが‥‥‥?

 ですが、あなたには妹さんがいるじゃないですか」


 確かに俺には家族がいる。


 少なくとも、妹がいる。


 俺が一人で泣いているとき、隣には妹がいた。


 ティアラが一人で泣いているとき、隣には誰もいなかった。


 その違いはあまりにも大きい。


 だから『お前の気持ちが分かる』なんて言うのは綺麗事にしか聞こえないはずだ。


 俺が昨晩、彼女に何も言えなかったのはこれが原因。


 俺がどんな言葉を尽くしても彼女の傷を癒す立場になれないと、そう思った。


 だけど、俺はやっぱり首を突っ込まずにはいられない。


 このまま引き下がるのは俺自身のためにもできない。

 

「確かに俺には妹がいた‥‥‥いや、妹がいてくれた。

 俺がいくら拒絶して距離を置こうとしても、アイツはいつも俺のところの駆け寄ってくる。

 俺なんか置いてって、もっと先に進めばいいものを‥‥‥」


 過去の話しをすると、俺もやはり自然と目線が下がってしまう。


 そして笑に力がなくなっていく。


 でも、俺はティアラとは違う。


 俺はもう、ティアラの抱えていたことは乗り越えている。


 だから俺は再び力を取り戻すように視線をティアラに戻して口を開く。


「誰もがそうなんだ。

 結局、一人で傷つこうが苦しもうが背負うとしようが、無理なんだよ。

 一人で解決させることなんて、絶対にできない。

 そういうのは全部、他人だれかと関わることで解決していくものなんだよ」


「そんな‥‥‥」


 信じることができない‥‥‥そんな様子だ。


 俺から逃げるかのように半歩下がるティアラを逃がさんとばかりに俺は半歩前に出る。


 ここで引くわけには行かない。


 生憎と今の俺はそんじゃそこらのストーカーよりも迷惑な男だ!


「ティアラ。

 俺はお前の支えになりたいと強く思う。

 同じ傷を知った存在だから、同じ痛みを知った存在だから。

 そして、その苦痛から解放する方法を知らないお前だから、側にいてやりたい」


「なんで‥‥‥どうして私にそこまで!?」


 ここまではある程度予想通りのイベントだ。


 ここで次に発するべき俺の一言が、ティアラルートの分岐点。


 いくつかの選択肢があるが、俺の答えは最初から決まっている。


 俺は迷いなく、躊躇いなく言った。


「俺は、お前が――――――好きだから――――――!」


「‥‥‥え、えぇっ!!!?」


 そう、俺はこの子に出会ってから最初から好きだった。


 一人の女として、間違いなく惚れていた。


 すぐさま攻略したいと思ったし、エロゲ的展開を望んでいた。


 その理由はどう考えたって好きだからだ。


 そして好きと言えば、俺の想いの全ては伝わる。


 この一言で、全部伝わるだろう。


「え‥‥‥あ‥‥‥えと、あ‥‥‥あぅ」


「?」


 予想以上の反応が返ってきた。


 顔が真っ赤になり、頭から蒸気が吹き出している。


 身体は強張り、両目が混乱しているようでクルクルしている。


 ストレートに言いすぎた気もしないでもないが、真正直な言葉を伝えないと解決できないってことを俺は知ってる。


 何も告白する必要はなかったと、今頃になって後悔はしているが‥‥‥。


「そしてこれは俺からの頼みなんだが‥‥‥」


「は、はい?」


 不意を突かれたように肩が跳ねたティアラ。


 俺は苦笑交じりに、頼みごとを一つ言った。

 

「俺達と一緒に旅をしてくれないか?」


 出会ってからずっと伝えたかったこと。


 そして俺と燐虎が何よりも望んでいることだった。


「ティアラの力があれば、俺達は戦いやすいし楽しい旅になる。

 それに何より、俺がお前と一緒にいたいんだ」


 これでの俺の伝えたいことは全て伝えた。


 流石の俺でも羞恥心と不安感で心がボロボロだ。


 ほんと、エロゲの主人公達はどうしてこういうキザなセリフを迷いなく言えるかな‥‥‥。


 正直、目を逸らさずにティアラを見つめるのだってかなり辛い。


 今すぐ穴を掘って潜りたい気分だ。


 そんなことを思いながら俺はティアラの答えを待つ。


「‥‥‥私なんかで、本当に良いんですか?」


「ああ、もちろんだ」


「‥‥‥嬉しい、です」


「っ!?」


 彼女の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


 大粒の涙を流して、頬は紅く染まっている。


 それでいてその表情は、今までにないほど幸福に満ち溢れたような笑顔だった。


 それは今まで使命感や義務感の中で見せていた笑顔ではなく、迷いも背負うものもない、清々しい大空のような笑顔だった。


 俺はそんなティアラの姿に思わず、胸がドキッとした。


 泣いている相手に対してこんな感情を抱くのは失礼極まりない。


 それでも俺は不覚にも、彼女のその姿に‥‥‥見惚れてしまったんだ。


 今すぐにでも抱きしめてやりたい。


 ‥‥‥いや、抱きしめるか。


 むしろここで抱きしめるべきか。


 そしてこのまま更なるイベントルートへ!


「お兄ちゃんちょい待ちっ!!!」


「あぁん!?」


 いかんいかん、空気を読まない妹の呼び声につい苛立ってしまった。


 いけないけない、クールにならないと。


「どうした?」


「あ、あれ!」


「ん?

 ――――――え?」


 妹が空を指さしたのでその方向を向くと、俺は絶句した。


「な‥‥‥なぬぅうぅうう!?」


 空を巨大な怪鳥が飛び回り、こちらに接近してきたのだ。


 特撮モノに出てくる怪獣張りの大きさに、俺と燐虎は目玉が飛び出すほどの衝撃を受けた。


 ‥‥‥いや、ほんとに飛び出したわけではないが。


「あ、あれってもしかして‥‥‥コカトリスか!?」


 この周辺に出現する鳥獣族/コカトリス。


 空を飛行し、海にいる魚を主食としている。


 一般的には温厚でこちらから手を出さない限りはなんの影響もないはずなのだが、なぜかそのコカトリスは俺達に迫ってきている。


 その原因を涙を拭ったティアラが口にする。


「恐らく近くで私達とは別の冒険者の攻撃を受けて、怒りが収まらないのでしょう」


「なんて迷惑な‥‥‥」


 言い忘れたが、温厚なコカトリスだがその強さはゲームで言う『最初の強敵』と変わらない。


 中途半端な力で戦おうとしたって勝てる相手じゃないのだ。


 しかも今は興奮状態だ。

 

 手がつけられないだろうな‥‥‥。


「大丈夫ですよ!」


 自信に満ちたその声でティアラは言うと、俺達を笑顔で見つめる。


「私がいます。

 “三人で”行けば勝てます!」


「ティアラちゃん!

 それじゃ‥‥‥!」


「ええ、私もあなた方の旅、ご同行させていただきます」


「やったー!」


 嬉しそうにその場で飛び跳ねる燐虎。


 俺も今すぐに飛び跳ねたいが、それは一旦あとにしよう。


「燐虎、ティアラ!

 今はあのコカトリスを倒すぞ!」


「おおー!!」


「はい!」


 決意新たに、新たな仲間を加えた俺達三人は旅を始める。


 ――――――新たな出会い、新たな別れ。


 これから起こることは予測不可能。


 問題は山済みで前途多難。


 ‥‥‥本当に大丈夫かって、心配になる。


 けど、何だろうな、この湧き上がる感情は?


 ‥‥‥この感情を一言で表すなら、そう――――――。



「なんだか――――――楽しいな!」



 これが俺のハーレム計画の旅の、最初の始まり。

てなわけで第一章はここで終わりです。


次回から彼らの冒険が始まり、変態主人公のハーレム計画が進行したりしなかったりします。


第二章から新たなキャラ登場で彼の心は大爆発!


では次回、第二章もお楽しみください!

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