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ニートな俺の次の職業  作者: IKA
第一章 ニートの旅は前途多難
2/5

第一話 最初の仲間にフラグを建てたり建てなかったり

どうも、IKAです。


今回ハチャメチャストーリーの第一話です。


主人公の彼が真面目になったりならなかったりの回です。


そして今回、最初の出会いが!

 俺、春雅 翔夜は妹の春雅 燐虎と共にファンタジーの世界にやってきた。


 少々ワケあって時間がかかったが、ようやく旅がスタート。


 ‥‥‥のはずだったが、開幕からすでにゲーム終了のお知らせが流れてきそうだ。


「おいおいおい、どうするよこれぇ!?」


「私に聞かないでよっ!!」


 俺と妹は森の中で赤いドラゴンに追いかけられていた。


 大きさは間違いなく恐竜と大差ないだろう。


 真っ赤な肌と鱗、鋭い牙、そして赤から連想できるような赤き炎が口から放たれて森がどんどん灰や炭になっていく。


 俺達は全力で山を下り、必死にドラゴンから逃げている。


 とは言え俺は運動が大の苦手で、走り出してから僅か十秒で息を上げていた。


 燐虎はまだまだ余裕な表情だが、恐怖で顔が強張っている。


 体力のことを気に知られず、俺達はとにかく生きるために足を全力で動かす。


 後ついでに悲鳴もあげる。


「ぎゃあああああ!!」


「にょええええええ!!!!」


 相変わらず変な悲鳴をあげる妹だな‥‥‥。


 そんなことを気にしていると、俺達は窮地に追い込まれる。


「が、崖っ!?」


「おいおいマジかよ‥‥‥」


 山を出られると思ったが、そこは断崖絶壁の崖だった。


 地面までの距離は分からないが、落下すればひとたまりもないのは明らかだ。


 地面と言っても木々が生い茂っているのでワンチャンどうにかなるのではないかとか甘い考えをしたが、そんなのは運ゲーだ。


 俺は運ゲーで死ぬわけにはいかない。


 俺には‥‥‥俺には、ハーレム計画があるんだ!


 ここで死ねるかい!!


 とは言えここから起死回生の手段が全く思いつかない。


 戦うにしたってドラゴンと装備と武器なしで戦うなんて非常識にもほどがある。


 どんなRPGであろうと武器の一つはあるものだが、俺達には何もない。


「ここまで‥‥‥なのか」


 運が悪いのはどの世界でも同じなのかと内心諦めていた。


 目の前まで迫るドラゴンに身動き一つとれない俺と燐虎は恐怖で目を閉じた。



「――――――我れ撃ち抜くは天なり。

 この弓、この矢を以て天を阻む全てを撃ち抜かん――――――」



 その瞬間、俺達の横を台風張りの突風が突き抜け、俺達は驚きながら目を開く。


 すると目の前にいる赤いドラゴンは緑色の光に包まれた矢によって頭部を貫いて地面に突き刺さっていた。


 身動きの取れないドラゴンはそこで必死にもがき、小さな揺れを引き起こしていた。


「なんだ‥‥‥これ?」


「二人共、ケガはない?」


 俺がふと呟くと、真上から女の声が聴こえた。


 声のする真上を向くとそこには太めの木の枝に立ち、左手に独特な形をした弓を持っている一人の少女がいた。


 腰まで垂れた金髪の髪、尖った両耳、キメの細かい白い肌、自然の緑色のチュニックワンピースを身にまとい、エメラルドのような瞳をした少女に俺は――――――興奮した。


「え‥‥‥」


「え?」


「エルフっ娘キターーーーー!!」


 二次元のみに存在するとされている種族の一つ。


 特徴的な尖った耳があり、森の中に生息しているということは間違いない。


 しかしまさかここまで妄想通りだとほんとに夢を見ているようで自分の全てを疑ってしまうな。


「お、お兄ちゃん‥‥‥大丈夫?」


「すまん、取り乱した」


 妹にガチ心配されてしまったので頭を掻きながら謝罪する。


 ドラゴンは力なく眠りにつき、緊張感が解けた俺と燐虎は安堵の息を出すと、エルフの少女は木から飛び降りて俺達の前に着地する。


 立ち上がると同時に右手で髪を靡かせ、一息ついてからこちらを向いて口を開いた。


「私はエルフ族の一人/『ティアラ・アルヴ・エルフ』といいます。

 二人共、見ない顔ですね?」


 ティアラ‥‥‥以下略は俺達を物珍しそうな顔で全身を見る。


 どうやらこの森には滅多に俺達のような人間は立ち入らないらしい。


 ‥‥‥まぁあんなドラゴンが出てくるような森に行こうなんて気にはならないわな。


 俺達のような人間が恐れるであろうドラゴンをいとも簡単に倒したティアラは相当の実力者と言えるだろう。


 俺達は感謝の言葉を交えながら自己紹介することにした。


「俺は春雅 翔夜。

 隣にいるコイツは俺の妹の燐虎」


「助けてくれてありがとう。

 私は春雅 燐虎」


「二人共、兄妹なんですね?」


「ケンカばっかりだけどな」


「ダメな兄のせいでね」


 冗談交じり(?)の言い合いにティアラは切なそうに微笑んだ。


 その表情に燐虎は気づいていないようだが、俺にはハッキリと見えた。


 なんとなく分かる。


 その微笑は、憧れの表情だと言うことを。


 ティアラが俺と燐虎の何に憧れているのかを察するのは容易だが、深入りするには交流が少なすぎる。


 そう思った俺はティアラにバレない程度の嘘をつきつつ話しをする。


「俺達はワケありでこの森に迷い込んでしまったんだ。

 早く脱出したかったんだが、そこに倒れているドラゴンに追われてしまって困ってた。

 できれば色々と情報が欲しい」


「そうですか‥‥‥」


 そう言うとティアラは少し俯いて沈黙する。


 初対面で武器を持たない俺達を警戒し、情報を流していいのか迷っているのだろう。


 その上、俺は会話に『ワケあり』と入れた。


 そのワケが何かと疑ってしまうのは至極当然だ。


 先ほど燐虎が『種族同士で争っている』と言ってたし、俺達に情報を出すことがエルフ族に悪影響を及ぼすのではないかと考えているのだろう。


 まぁそれもまた至極当然のことだ。


 そう思っていると、燐虎が迷いのない笑みでティアラに言った。


「大丈夫!!

 お兄ちゃんはさておいても、私は怪しくないから!」


「おーい馬鹿」


 さらっと苛立つことを言いやがってこの妹は‥‥‥。


「‥‥‥クスッ」


 するとティアラは頬が緩み、右手で抑えながらちょっと上品に笑った。


 その表情は間違いなく心からの笑顔だった。


 とにかくにも燐虎のファインプレーでティアラの抱える不信感は取れたようだ。


「事情持ちはお互いに同じ。

 ここは助け合いをするのが正しいと、私は判断しました」


「そう言ってくれると助かるよ」


「取り敢えずお兄さんはここでお待ちください。

 妹さんは私がお預かりします」


「おいおい!?」


「りょーかいでーす」


「ちょっとぉぉおおお!?」


「ふふふっ!」


 そんな冗談を交わし、互いに少しだけ距離を縮めた俺達はティアラの後を追いながら森の道なき道を進んでいった。





*****




「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥」


「お兄ちゃん‥‥‥本当に体力ないね」


「うる‥‥‥さい‥‥‥はぁ‥‥‥」


「ペースを落としますか?」


「それは結構だ(キリッ)」


「何この態度‥‥‥」


 森を歩くこと約10分。


 俺は肩まで息が上がり、歩いているのも限界になっていた。


 いやほんと、ここまで体力を使ったのは何年ぶりだろうかと振り返ると結構久しぶりだった。


 二人は平気な様子なのがほんとに羨ましく、情けない。


「あと少しですから安心してください」


「いえ、あと42.195キロは余裕です(キリッ)」


「全身汗だくで息の荒い人が何を言ってるの‥‥‥」


 妹がすっごい哀れんだ表情でこちらを見てくる。


 俺はそんな視線を無視して進むと、森の木々が少なくなっていることに気づく。


 そして真っ直ぐ進むと森を抜け、小さな村のような場所にたどり着いた。


「ここは?」


「ここが私達エルフ族の村です」


「へぇ~」


 燐虎が嬉しそうに目を輝かせる。


 俺も同様にテンションが上がってくる。


 本物の、理想としたエルフの村がそこにはあった。


 森の中に存在し、自然豊かで家は木のみで作られている。


 電気の類は存在せず、空は大木の葉によって塞がれているが、隙間から射す太陽の光がこの村を照らしている。


 村の中央には透明度の高い泉があり、村のエルフ達はそこから水を汲んでいる。


 『機械』と言う存在を一切感じさせないその自然の光景に俺は清々しい感覚を覚える。


 空気が気持ちいいからだろうか?


 それとも自然の光に当たるのが久しぶりだからだろうか?


 とにかくこの場所は、俺にとって懐かしいものを呼び起こさせた。


「村の案内もしたいところですが、とにかくまずは私の家に向かいましょう」


「わかった。

 燐虎、お前は泉の近くで待機だ。

 俺はティアラの家に行く」


「なんか言った?」


「いえ、何も言ってございません」


 背筋の凍るような殺気を感じた俺は即座に謝罪した。


 笑顔の裏に潜む鬼の姿‥‥‥今調子に乗ったら殺されていただろう。


 俺はためいきを付きながら三人でティアラの家に向かった。


 ‥‥‥せっかく女の子の部屋に二人っきりになれると思ったのにな~。


「お兄ちゃん、邪な心は私が蹴飛ばしてあげるよ?」


「いえ、何も考えてございません」


 ‥‥‥妹って怖いなと思った今日この頃です。





*****




 

「他人の家に入るってこんなに大変なことだって俺‥‥‥初めて知っ‥‥‥た」


「いやいやいや!」


 エルフ族のビルで言うところの三階辺りに家がある。


 大木にある太い枝を地面にし、木の板を組み合わせて作るのが一般的らしい。


 そうなるのなら階段なりを作るだろうと考えるのが当たり前だと思っていた。


 ‥‥‥が、エルフ族の家への移動方法は俺にとって最大の試練だった。


「まさかロッククライミングみたいなことをする羽目になるとは‥‥‥」


 そう、木をよじ登らなければならないのだ。


 ビル三階分を、両手両足でだ。


 全身が見事に筋肉痛だ。


 今日一日だけでもハードだな‥‥‥。


 そしてそれでも疲れない燐虎は一体どんな身体してるんだ全く。


 そんなこんなの苦労がありながらも俺と燐虎はティアラの部屋にお邪魔した。


 彼女の部屋は俺の部屋と対して変わらない広さだが、置いてあるものが少ないのが俺の部屋よりも広いと錯覚させる要因だろう。


 四人で囲むのが限界と言えるほど小さい木製のちゃぶ台の前に、俺と燐虎は隣り合わせで座る。


 しばらくすると木製のマグカップに煎れられた優しい香りのするお茶をティアラが持ってきた。


 木製のマグカップは俺と燐虎で大きさが少し違い、俺は大きめで燐虎は小さめだった。


 俺と燐虎は乾いた喉を潤すように一気飲みすると、口の中にスッキリとした爽快感がする。


 そして不思議と全身の疲れが抜けていくのを感じる。


 俺の反応に気づいてかティアラはこのお茶の効能を話した。


「そのお茶は私が作ったもので、疲労回復の効能を高めてあるんですよ」


「効能を‥‥‥高める?」


「それがエルフの能力の一つですから」


「能力?」


 ティアラは頷き、ゆっくりと語りだした。


「エルフは自然と共に生きる種族。

 共に生きるが故に、自然の声が聞こえます。

 そして自然が何を求めるか、自然に何を与えるといいのか‥‥‥それを理解することができるエルフ族は、植物の持つ効能を増加させたり減少させたりできるんです」


「なるほど‥‥‥」


 自然と共に生きることは、まぁある程度予想がついていた。


 しかし植物の効能を変動させる能力は初めて知った。


 自然を利用した戦い‥‥‥まさに俺の想像していたエルフの理想像そのものだな。


「それじゃさっきのドラゴンを倒したのも植物の力か?」


 俺の質問にティアラは首を横に振った。


「私が使ったのは弓と矢に魔力を込めて発動した『魔法』です」


「魔法‥‥‥」


 今更俺が驚くこともない‥‥‥というか予想内だ。


 一応、魔法が存在するってことは聞かされていたからある程度の予想はついていたが、改めてこの世界の住人から聞かされると感動だな。


 魔法なんて憧れ以上の何ものでもなかった。


 一生追い求めて、一生追いつけないもの‥‥‥それが魔法だとずっと思っていたからだ。

 

 それを目の当たりにできるなんて、感動の他に言葉がない。


 感動に浸りたい気持ちを仕舞い込み、俺はこの世界に関することを聞くことにした。


「ティアラ、この世界の情報が欲しい。

 できる限りのことを教えてもらえないか?」


「‥‥‥旅をするつもりですか?」


 質問に答える前の問いに、俺は首を縦に振った。


 恐らくティアラは再び情報をどこまで話すべきか見定めていたのだろう。


 旅人でないのであれば必要以上に教える必要はなく、近くの町を紹介して終わればいいのだから。


「では話しましょう。

 この世界には様々な種族が存在するのはご存知ですね。

 確認の為に大まかな種族を話すと『ヒューマン』、『エルフ族』、『精霊』、『龍族』、『天使族』、『悪魔族』の六種族がこの世界を領地として存在します。

 あなた方のように特化した身体的を持たず、しかしそれ故に万能の能力を持つ種族が『ヒューマン』」


 俺達のことはこの世界ではヒューマンと言う種族であるらしい。


 これはある程度予想していた。


 ただし人間と言う単語を使わないのはこの世界と俺達のいた世界の違いと言える。


「次に『エルフ族』。

 知識に特化した種族とされています。

 エルフは全種族の中で最も多彩な魔法を使うことができます。

 『精霊』についてですが、精霊は私達エルフが多彩な魔法を使うのに違い、彼らは一つの性質を利用した魔法に特化した種族です」


 性質と言うのは恐らく火、水、風、雷、土と言った自然そのものを言うのだろう。


 精霊一体につきその中から一つの性質を保有し、その性質に合う魔法のみを使うことが出来るというのが精霊の特徴らしい。


「『龍族』は我々エルフ族と敵対する種族の一つ。

 先ほど私が倒したドラゴンが多く存在する種族です。

 龍族は産まれ、そして死ぬまで龍と共に過ごします。

 そして龍と共に戦い、龍の魔法を使うこともできる‥‥‥極めて危険な種族です」


 ティアラは龍族の話をするとき、眉を顰める。


 恐らく龍族に恨みを持っているのだろう。


 敵対するのだから当然といえば当然だ。


「『天使族』は、我々エルフ族以上の知識を有し、使用する魔法は一撃で一国を滅ぼすとされています」


「な‥‥‥ぬ?」


 天使のイメージといえば慈愛や祈りに関するものが一般的だ。


 その天使の説明はその予想を覆してしまった。


 一国を滅ぼすと聞くことになるとは流石に驚いてしまった。


 ‥‥‥そういえば燐虎が先ほどから空気となっているが、コイツは勉強が苦手なんで今はちゃぶ台にうつ伏して寝ている。


 お茶を飲んでティアラが話だしてから数秒で寝落ちスヤァした気がする。


「天使族は古くから悪魔族との激しい戦争によって強力な殲滅級魔法を生み出してしまい、現時点で最強の種族とされています」


「それじゃ悪魔族は世界に悪影響を及ぼしている種族で、天使族はそれを殲滅する種族だっていうのか?」


「察しが良くて助かります。

 悪魔族は全種族の敵であり、世界に悪影響を及ぼす種族です。

 しかし、未だ尚‥‥‥魔王を撃破したと言う報告はないんです」


「魔王‥‥‥」


 ここで遂に魔王が話題に出てきて、俺は不思議と胸が高鳴るのを感じる。


 俺がこの世界に来て得た最初の目標こそが魔王との出会いだ。


 目指すものがしっかりと視えるのはこんなにもワクワクするものだとは思わなかった。


 そして俺はこの高鳴りを抑えきれず、身体が自然と動き出した。


「ちょ‥‥‥どこへ!?」


「近くの町か村に向かう!」


 俺は勢いよく立ち上がり駆け足でドアに向かって駆け出していた。


 ティアラが慌てて呼び止めなかったら‥‥‥恐らくドアを豪快に開け、大木から一気に地面に向かって落下していただろう。


 それだけ俺の思考は魔王のことで埋まっていた。


 態度が急変した俺にティアラは聞いた。

 

「この山を降りてすぐ近くに村はありますが、そこに向かって何をするんですか?」


「装備を一式揃えて旅に出る」


「何のために?」


「魔王に会うためさ」


 俺は全ての質問に即答した。


 迷いなんてない。


 躊躇うことなんて一つもない。


 生き続ける価値もなかった世界から抜け出してやりたいようにやれる自由を得たんだ。


 そして自由の中で、一つの目的ができた。


 目的があるからこそ、俺は何一つ迷うことなく答えることができた。


‥‥‥ああ、なんか気恥しい。


「い、いやほら!

 魔王に会っただけでも有名人だし!?

 あわよくば魔王退治に成功しちゃったりしちゃったら俺はモテモテになるわけよ!」


「そ、そうなんですか?」


 やっべ、ティアラの顔が引き攣ってるぞ。


 ちょっと調子に乗りすぎたか?


 まぁさっきまでカッコつけたおかしな俺がいたし、いつも通りの俺になったならそれはそれで良いかね。


「まぁそんなわけで、さっきは助けてくれて本当に助かった。

 俺達は旅に出る。

 ‥‥‥ほら燐虎! いい加減に起きろ!」


「‥‥‥んにゃ?」


「んにゃ? じゃねぇよ

 ここに長居は無用だ。

 装備一式を揃えに行くぞ!」


 何が何だかさっぱり理解できない、と言うのが燐虎の間抜けな顔を見れば明らかだった。


 俺はため息をつきながらティアラの家を出ると、妹は話しが終わったことを察して俺を足早に追いかける。


 ま、まぁ、家を出てもまたロッククライミングの要領で下に降りないといけないのでカッコなんてつきようがないのだが‥‥‥。


 俺は再び数分かけて大木を下り、エルフ族の村を後にした。





*****




「お兄ちゃん、一つ聞いていい?」


「なんだ?」


 俺達は先ほどの教訓を忘れず、龍に遭遇しないように周囲に目を配りながら山を下っていた。


 ティアラにある程度の道は聞いていたので迷うこともなく、地上もしっかり見えてきた。


 そんな頃、燐虎は俺に質問してきた。


「お兄ちゃんって魔王のところまで二人だけで行くつもりなの?」


「そんな訳無いだろ?

 どうしてそんなこと聞くんだ?」


 どんなRPGでも、旅の途中で仲間を一人以上は増やしていくものだ。


 それに俺と燐虎はどんな職業になり、どんな能力になるのかすら不明だ。


 二人とも前衛系の職業だったら体力切れで負けるし、逆に後衛系だったら決定打に欠けて長期戦になる。


 まぁ燐虎は迷うことなく前衛のポジション決定だが、俺はどうなるかわからない。


 個人的には狙撃手みたいな遠距離でなるべく移動のすくない職業を望むのだが、どうなるかはさっぱりだからな。


 まぁ燐虎は迷うことなく前衛のポジションだけどな(大事なので二回言おう)。


 とにもかくにも今の状態で魔王のいる場所までたどり着くには戦力不足は否めない。


 だから燐虎にとやかく言われなくても仲間は作っていくに決まっている。


「でもお兄ちゃん、ティアラちゃんを仲間に誘わなかったんでしょ?

 どうしてなの?」


「っ‥‥‥」


 俺は燐虎の質問に対し、何も答えることができなかった。


 ‥‥‥いや、答えていいのか迷っていたんだ。


 もちろん俺がティアラを仲間に誘わなかったことには理由がある。


 むしろ彼女の部屋に来るまでは攻略フラグの建て方を考えていたほどに真剣だった。


 あんな可愛い娘を攻略しないわけがない。


 むしろ攻略しないわけがない(二回目)


 と言うか攻略しない方がおかしい(三回目)


 攻略したい(四回目)


「しつこいっ!!」


「グボッ!」


 妹の回し蹴りが俺の腹部のイイ所に直撃し、俺はその場で跪く。


 両手で腹部を押さえて悶絶していると燐虎は不安げな表情をこちらに向けながら言った。


「私、不安だよ。

 魔王攻略は‥‥‥まぁ普通のことだと思うし、それを協力するのは惜しまないよ?

 でも、そのためにはお兄ちゃんがしっかりと考えた言動をしていかないとどうにもならないよ‥‥‥。

 私は」


「‥‥‥ったく」


 俺は立ち上がり、再び歩き出した。


 不安を未だに拭いきれないながらも燐虎は俺の後についてくる。


 正直、妹がそこまで考えているとは思わなかった。


 自分のこと、俺のこと、今後のこと。


 ほっといてくれ、お節介だと言えばそこまでかもしれない。


 だけど俺はそれが言えなかった。


 ‥‥‥嬉しかったんだ。


 いつもケンカばかりして、俺のことなんて嫌いだって思っていたから。


 いつも俺を外出させようと必死になるのだって、自己満足の一つであって俺の為では一切ないのだと思っていたから。

 

 そんな妹・燐虎は俺を心配してくれていた。


 俺は少なくとも、その期待には応えないとならない。


 一緒に旅をしてくれる仲間として‥‥‥それ以前に、兄妹として。


「‥‥‥ティアラの部屋に入った時に見たんだよ」


「B●本?」


「確かに薄っぺらい本はチラッとみたが‥‥‥じゃなくてだな!」


 大きく咳払いをして話題を戻し、俺は再びティアラの部屋で見たものを話す。


「‥‥‥彼女の部屋の片隅に、写真立てが置いてあった。

 その隣に二つの木製マグカップが置かれていた」


「それが?」


「あのマグカップ‥‥‥多分、死んだ父親と母親のものだろうな」


「え‥‥‥!?」 


 予想通り、燐虎は絶句した。


 足がぴたっと止まり、目を見開いている。


 他人事なのに自分のことのようにショックを受ける‥‥‥それは燐虎の優しさであるが故に、コイツの弱点でもある。


「足を止めるな。

 いつドラゴンが来るかわからないんだ。

 村までそう遠くないから、話しながら進もう」


「う、うん」


 俺の言葉に燐虎は我を取り戻し、ふらつきながらも足を動かしていた。


 俺だって疲れてて休みたいし寝たいしネトゲしたいしって欲に溢れてはいるが、そんなのはドラゴンに襲われて死ぬに比べれば些細なことだ。


 燐虎がショックを受ける気持ちは分からないでもないが、それですらも俺達がここで死ぬに比べれば些細なことだ。


 そう思いながら足を進めると、燐虎は動揺しながらも俺に聞く。


「で、でも、どうして両親が死んだって言い切れるの!?

 マグカップと写真だけじゃ証拠にならないよ?」


「いや、それだけが唯一の‥‥‥いや、決定的な証拠だよ」


 ‥‥‥なんか俺は探偵みたいなことを言った気がする。


 別に探偵みたいに推理力があるわけでも、特別な眼があるわけでもない。


 ただ‥‥‥“こういう事”はある程度の察しがついてしまう。


 俺は足を止めず、燐虎の方を見ず、進行方向だけを真っ直ぐに見ながら話した。


「ティアラの部屋は必要最低限なものしか置かれていなかった。

 自分だけが生活するのに必要最低限なものだ。

 にも関わらず、大きさがバラバラのマグカップを二つ‥‥‥いや、ティアラの分も含めて三つか。

 両親と別々に暮らしているにしても、友達を招く用にしても、大きさが違うのは不自然としか言えない。

 ――――――それに、気付かなかったか?」


「何を?」


「木製ってことは、長年使えば色々と匂いが定着するもんだ。

 料理に使えば食材の匂いように、あのマグカップも長年使われていれば何かしらの匂いが定着しているはずだ。

 ‥‥‥そして、俺がお茶を飲んだマグカップには、お茶よりも強い匂いがあった」


「匂いって?」


「――――――珈琲だよ。

 珈琲独特の豆の香りと苦味。

 それがあのカップに濃く定着していた‥‥‥それは、毎日珈琲を飲むために使用してた何よりもの証拠だ」


 恐らく燐虎が使ったマグカップにも何かしらの香りが定着していただろう。


 そこまで考えずに飲んでいた燐虎に聞いても無駄だろうから気にしないが、カップの小ささからも何かしらの香りや味が染み付いているはずだ。


「ティアラが珈琲用のカップ、お茶用のカップとか分けてる‥‥‥わけないね」


「ああ。

 そんなことなら俺に珈琲を出さなければいけなかったはずだ」


「それじゃ私達は、ティアラちゃんの両親のマグカップでお茶を頂いてたんだ‥‥‥」


「まぁ、そうなるな」


 男性用と言えるほどの大きめのマグカップ。


 そこに染み込んだ、珈琲独特の香りと苦味。


 そして木材は使い込むとその人用に馴染んで特徴が出てくる。


 俺が使ったカップは握る部分が俺よりも大きめの指の凹みがあった。


 ここまで証拠があれば、マグカップだけで十分な決定的証拠になるんだ。


「‥‥‥」


 顔は見ずとも声でわかる。

 

 燐虎は泣いているだろう。


 ティアラに対しての罪悪感で泣いているだろう。


 彼女にとって二つのマグカップは両親の遺品と言えるものだ。

 

 そこに煎れてくれたお茶を最後まで飲んでやれなかった‥‥‥。

 

 コイツはそれを悔やんで泣いているのだろう。


 自分の鈍感さ、無責任さを悔やんでいるのだろう。


「‥‥‥ったく」


 ‥‥‥ほんとに馬鹿だ。


 本当に鈍感なら、ショックを受けない。


 本当に無責任なら、涙を流さない。


 お前は両方できてる。


 だから、悔やむ必要なんてないんだ。


 ティアラの分も、ティアラの為に泣いてやってるお前は‥‥‥誰よりも優しいんだぞ?


「‥‥‥さて、そろそろ村に着く。

 そこについたらお前は少し休憩してるといい」


 別に気を遣ったわけじゃない。


 俺は対して優しくはないからな。


 ただ、そんなに大泣きした状態で一緒にいられても困る。


 まるで‥‥‥俺が泣かせたみたいになるじゃないか。


 それに、見ていたくないんだよ‥‥‥“お前が泣いているところはな”


 そう思いながら歩き続け、俺たちはようやく山を抜け出し、最初の村――――――『始まりの村/ミズガルズ』に到着するのだった。




 ‥‥‥珍しく真面目だな俺。

ってなわけで最初の登場キャラはエルフのティアラちゃんでした。


今回は少しだけこの物語の世界観を書かせていただきました。


種族は大まかな説明だけしましたが、細かい種族を書くのは時間がかかるので省かせていただきました。


細かい種族は今後登場する機会があるはずなのでご期待ください。


そして次回、遂に主人公達の職業が決まります!

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