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地上5

 下級天使を追い払った翌日の夕方。

 俺達はいつもどおり部屋でゴロゴロしていた。サッちゃんも椅子のない暮らしに初めはとまどっていたものの、クッションを抱いてコタツに入っている。

 悪魔との二人暮らしも慣れてみると結構快適になってきた。俺の彼女ではなくても、可愛い女の子とのんびり暮らせるなんて、冥土の土産には丁度いいってわけだ。

「サッちゃんはずっと天使に追われてるのか?」

「そうね、最近の六十年ぐらいは静かだったんだけど、あの時学生達にかじりついたのが目立ちすぎたのかしら」

「六十年? 君はいったい幾つなんだ?」

 サッちゃんは美人女教師みたいに人差し指を立てて答えた。

「レディにそういうことを聞いてはだめよ?」

 赤い瞳が音の出そうなウィンクをした。

「そういうレベルの話じゃない気がするけど。でも、それじゃあ俺のために危険を冒してくれたのか?」

「勘違いしないで。悪魔は気まぐれが命なんだから」

「まるでなんかのキャッチコピーみたいだな。……待てよ、奴等をかじった程度で目立つということは六十年間食事をしてないのか? 腹減ってるんじゃないか?」

「さあね、忘れたわ」

「いつもいらないって言うけど、なんか食べるか? とは言ってもカップ麺ぐらいしかないけどな。普通の食べ物はやっぱりだめなのか?」

「いらないわ。あの食べ物のどこが普通なのよ?」

「人を食うよりはよっぽど普通だと思うけどな。作りかたは見てわかってるだろ? 気が向いたら食えよ。よそ見しててやるから。レディだってカップ麺ぐらい食ってもいいんだぜ?」

 サッちゃんはなんだか遠い目で窓の外を眺めている。

 いたたまれなくなって俺は話題を変えた。

「あいつ、また来るかな?」

「さぁ、どうかしら」

「天使のくせに意地悪そうな奴だったな、あいつ」

「そうね、悪魔や天使のイメージなんて、人間の側から見たごく一部の姿でしかないのよ。政党や派閥はばつとでも言えばわかりやすいかしら。天使にも意地悪な奴はいるわ」

「そうか、天使といえども完全な善などではないんだな」

「そうよ。完全な者は我等が王ルシファ様と神だけよ……」

「そういうもんなのか」

「完全な者は争いや殺生せっしょうを好まず、生けいけにえを差し出せなどとは言わないわ。すべては人間の幻想と天使の暴走なのよ。魔族にしてもそう。本来、必要のない悪さなどしないのが真の魔族だわ」

「でも、俺を食べるんだろ?」

「わたしもまた完全な者ではないもの。あなたも動物を食べるでしょう? 同じことよ。だから、せめて感謝しながらいただくしかないのよ……」

「俺は、牛や豚と一緒ってことか……」

「あら、自分を悪く言ってはいけないわ。わたしの糧になれることは誇りに思っていいのよ?」

「はいはい、有り難き幸せにございます」

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