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天界6

「どうした? 何か用があって来たんじゃないの?」

 しばらく呆然としていたミカちゃんは、急に俺の胸に顔を埋め(うずめ)、火がついたように泣き出した。泣きわめくあまりに聞き取り難い(にくい)が、死にたくないとか殺されるとか言っているようだった。少し落ち着くまで泣かせて、部屋の中に連れていき、事務用の椅子を転がしてきて座らせた。

 まだ喉をしゃくり上げているミカちゃんに目線を合わせて言った。

「何があったか、ゆっくりでいいから言ってごらん?」

 しばらく沈黙したままのミカちゃんだったが、俺の目を見て、おずおずと切り出した。

「……お爺ちゃんがね、死んじゃったの」

「お爺ちゃんって神様だよね?」

「……そう」

 俺は、神死亡という、宇宙で一番驚愕すべきニュースに驚いて声を上げそうだったが、なんとか堪えた(こらえた)。

「どうして死んじゃったと思うの?」

「あたしが死なせたから。……たぶん」

 今度は神殺しが自分の仕業ときた。確かにそんな力を持っているとすれば、この子と数名以外には考えられないが、これは真実だろうか? この子には妄想癖もうそうへきなどないか?

「なぜそんなことしたの?」

「お爺ちゃんがね、もう眠るのも疲れた。殺してくれって言ったから」

「さっきの地震はそれと何か関係があるの?」

「あれはね、お爺ちゃんが、魔族どもを焼き払ってやりなさいって、キーをくれたからなの」

「何のキー?」

「大昔の戦争で魔界と地上を焼いた古代兵器。あたしのオーラを増幅して、魔界まで届く一撃をお見舞いしてやったのよ。痛快でしょ? ……あ、でも光希君も元魔族だから、こんなこと言ったら悲しい?」

「そうだね、悲しい。このことはガブリエル様か誰かに話した?」

 ミカちゃんは、ガブリエル様と聞いて、また狂ったように泣き出した。

「……ガブちゃんに殺されるわ。いいえ、メッティも他の大天使も。死にたくないよ。あたしを連れて逃げて? 光希君、いいでしょ?」

 ミカちゃんのおねだりに一瞬クラッときたが、叶えてやれる願いではなさそうだ。

「いいかい、ミカちゃん。この件にはなんだか不可解な点があるし、逃げて済む問題じゃない。みんなで考えよう。きっと誰も君を殺したりはしないから」

「ほんと? 絶対?」

「もし、理不尽な理由で君が殺されそうになったら、その時は一緒に逃げてやるさ。ただし、行き先は魔界か地獄になるかもしれないけどな」

「死んじゃうより、ましだわ」

 ミカちゃんはまた俺の胸に顔を埋めた。頼るべきあてができて、安心したように。

「よし、じゃあガブリエル様に報告にいこうか? 一緒にいくから」

「うん」

 心持ち血の気の戻った顔で俺の右腕を抱えながら歩くミカちゃんを連れて、ガブリエル様のオフィスに向かう。

 エレベーターが直接出入り口になっているガブリエル様のオフィスに着くと、オフィスの主と父様がいた。泣き腫らした目をしているミカちゃんに少し驚いた様子を見せながら、俺達を来客用のソファに促す。

「どうしたの? また何か壊した?」

 なかなか切り出せないミカちゃんに俺は訊ねた。

「自分で言えるかい?」

 ミカちゃんはブンブン頭を振って、俺の肩に顔を埋めた。

「では、代わりに話しますが、非常に衝撃的なことです。心して聞いてください」

「何よ、改まって」

「どうしたんですか? 光希さん」

 二人が怪訝けげんな顔をする。

「ミカちゃんは、お爺ちゃん、つまり神様を殺したかもしれないと言っています。そして神様から受け取ったキーを使って古代兵器を起動し、増幅したミカちゃんのオーラによって魔界を攻撃した。この二つです」

「ちょっと、あなた何を言ってるの? 冗談だとしてもたちが悪いわよ」

「もし冗談でないとすれば、事と次第によっては……」

 俺は人差し指を口に当てて制した。その先の内容がなんであれ、また大泣きするのが目に見えていたから。

「俺としても半信半疑なんですが、裏付けを取ることは、そう、確認はできますか?」

「わかったわ。あなた達も一緒に来なさい」

 四人そろって神の寝所を目指す道すがら、二人に、神の声に指示されたというミカちゃんの言い分などを話して聞かせた。

 寝所の扉を開けて、ミカちゃん以外の全員が驚愕半分、やっぱりかという思い半分といった顔で立ち尽くした。

 そこには神様と思しき小柄の老人が、胸にピンク色の美少女戦隊か何かのオモチャみたいな剣を突き立てられて死んでいた。

「参ったわね。まったく、なんてことしてくれるのよ……この子は」

 ガブリエル様はミカちゃんに力なくげんこつをはる。ミカちゃんは俺に貼り付いたまま、ビクっと身体を硬直させた。

「神の声というのが気になりますが、これはわたし達だけでどうこうできる問題じゃありませんね」

「さすがにこんなこと隠し通す自信がないわ。ミカ、何とかしてあげるから、みんなにちゃんと話すのよ? わかった?」

 ミカちゃんは黙ってうなずいた。

「メタトロン、すぐに大天使会を招集してちょうだい」

「わかりました」

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