魔界14
――サッちゃんが部屋にこもってだいぶ経つ。
食事すら必要ない魔族のサッちゃんが一度部屋にこもると、顔を合わせる機会など自然には訪れなかった。こちらから謝ってよりを戻したいという衝動に駆られもしたが、見当外れの弁解をしてこれ以上サッちゃんを悲しませるのは避けたかった。サッちゃんの気持ちがどこでこじれてしまったのか、わかってやれない自分を悔やんだ。サッちゃんの言動は、いったい俺に何をしてほしいというサインだったのだろう? 日付も時計もない魔界で、永遠のような忍耐の時が続いた。
――サタン様から一通の手紙が届いた。
鬼達の暴走の原因を突き止めた。地獄を治める閻魔大王が、魔界乗っ取りを企てている。こちらの度重なる呼びかけも突っぱねられた。そこで、閻魔討伐精鋭隊の一員として、パパ、父様、俺の三人を招集するという内容だった。
同じ魔界貴族であるサッちゃんがメンバーに入っていないのが気がかりだったが、魔界貴族の誇りにかけて、招集には直ちに応じなくてはならない。パパと父様はサッちゃんの部屋に行き、留守を頼む、と旅立ちの挨拶を済ませたようだ。俺は、まだサッちゃんの言いたかったことがわからず、今会ってもすれ違いが大きくなるだけなのが目に見えていたので、サッちゃんには会わずに出発することにした。
「いいんですか? 無事に帰れる保証はないんですよ?」
「今の俺達は少しお互いを見つめ直す時間が必要なんだと思います。俺はサッちゃんを理解してやれるようになれるのかまだわからないけど、サッちゃんが惚れ直すような活躍をして帰ってきてみせますよ」
「最近の光希なら、まんざらはったりとも言えねえな」
城に着くと、そこには三十名ほどの魔界貴族達が集まっていた。彼らが今作戦の仲間というわけだ。
サタン様が現れて、俺達に言った。
「諸君、突然の呼び出しに応じ、こうして駆けつけてくれたこと、ルシファ様に成り代わって感謝する」
サタン様の言葉に、歓声が上がった。
「さて今回の作戦だが、いたってシンプルだ。わたしが諸君らを地獄へ送る。事前の調査で対象の位置を把握しているから、遭遇までには手間取らないだろう。ただし、今回の対象である閻魔大王が強大な力を持っていることは説明するまでもない。彼もまた、冥府の評議員を務めるほどの者だからな。わたし自身も戦力として参加したいところではあるが、ルシファ様不在の今、市街地に鬼どもが現れる可能性を残した現状で、魔界を離れることはままならない。すまないと思っている。諸君らが対象をすみやかに仕留め、無事に帰還することを切に願う」
自然と拍手が起こり、俺達は大声で士気を高めあった。
サタン様がその手に緑色のオーラをうっすらたくわえ、手刀で空間を切り裂いた。次の瞬間、俺達は、荒れた大地にそびえ立つ巨大な神社のような建物の前にいた。