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魔界10

 父親コンビに報告するために、俺達はリビングに来ていた。

 サッちゃんが両手を背中に組んで婚約指輪を隠しているので、俺もちょっと失礼して左手をズボンのポケットに隠し、サッちゃんの出方を見た。

「ねえパパ。光希がわたしをいじめるのよ?」

「ほう、とうとうサッちゃんをいじめるほどになったか。だがな、光希。女をいじめるのはつえー男のすることじゃねえぜ?」

 父様も咎める(とがめる)ような視線で俺を見ている。

「見てよ、ひどいでしょ? 光希ったらこんなものでわたしを拘束する気なのよ!」

 サッちゃんは会心の笑みを浮かべて左手を差し出した。

「おお、それは! 光希、でかしたぞ。上手くいったか?」

「それが、先を越されちゃいました。でも、サッちゃんが満足ならそれでいいや」

「……サッちゃん、光希さん、おめでとう。それにしても見事な指輪ですね。これ、光希さんが?」

「ああ、旦那。こいつ、戦闘能力の成長だけじゃなくて、物質化の能力にも目を見張るものがあるようだぜ」

「これだけの物質化ができれば、サッちゃんを路頭に迷わせる事もなさそうですね。うんうん」

 続いて俺も、サッちゃんからもらった指輪を見せた。

「ほほう。こいつはサッちゃんが作ったもんか。よくわかんねえが、小洒落て(こじゃれて)やがるな」

「サッちゃんは地上人だった頃から手先が器用でね、よくわたしの似顔絵なんかを描いてくれたものですよ。その小さかったサッちゃんが、あっと言う間にこうして婚約者を連れてくるとはね……」

 父様は俺の手を握って指輪を見つめていると、鼻をすすり、肩を震わせて、とうとう涙を流し始めた。できれば娘の手を握ってやってほしかったが、サッちゃんはパパの巨体に抱き締められて占領済みだった。仕方がないので、しゃがみこんで本格的に嗚咽おえつを上げ始めた父様の肩をさすってやった。


 法律も宗教もないこの魔界で、結婚式なんてする人はいるのだろうかと疑問に思っていたが、披露宴パーティは珍しくないという。百人以上の魔界人が承認すれば、めでたく夫婦成立というのが通例らしい。一度夫婦が成立すると、よほどの恥知らず以外は夫や妻を誘惑したりしないそうだ。浮気や離婚もまた、よほどの恥知らず行為にあたるので、サタン様の地獄送りに遭わないように気をつけろよ、とパパに忠告された。

 まあ、俺が浮気などしようものなら、地獄のほうが良かったと言いたくなるほどの拷問を、父親コンビも含めた三人から課せられるのは明白なので、サッちゃんを凌ぐ(しのぐ)ような超絶可愛い子ちゃんが俺を誘惑しないよう願うばかりだ。

 百人の署名を集めてまわるという方法もあるんだそうだが、やっぱり結婚式というのは地上人にしても魔界人にしても女の子の夢なのだろう。

 とびっきりの笑顔で、

「披露宴をやってもかまわないかしら?」

 と、問いかけるサッちゃんにノーと言う事など不可能だった。まあ、元々俺も披露宴の開催に異存はなかったのでその旨伝えると、早速パパが友人百人を集める電話をかけ始めた。

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