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魔界8

 ――鬼達の市街地襲撃事件があってから、己の非力さを克服しなくてはならないと思うようになっていた。『彼』の一件でも、今回の件でも、俺はサッちゃんを守ってやるどころか、サッちゃんのお荷物でしかなかったのだから。

 サタン様のようにボソッとつぶやいただけで鬼達を地獄に送り返すような大技は無理だとしても、サッちゃん一人ぐらいは守り抜ける男になりたかった。それから俺は起きている間じゅうパパと組み手をし、時には交代選手として父様まで引っ張り出して相手をしてもらっていた。

 ――戦っては疲れきって眠るを何度繰り返しただろう。

 ある時、異変が起こった。とてつもなく広かった庭が、なんだか狭く思えてきた。

 これまで巨人のように感じていたパパの存在感が等身大の人間ぐらいにまで小さく思えた。つるはしで頑丈な岩盤を削っていてきっかけを見つけ、掘り進める道を見つけたように、パパに攻撃が効くようになっていた。

「お、おい。光希、ちょっと待て」

 パパがそう言った時には俺の剣がパパの左腕を斬り落としていた。練習用の剣を使っていて良かった。

「ご、ごめんなさい」

「いや、いいってことよ」

 パパは左腕を拾い上げ、何事もなかったように接合した。今まで何度もばらばら死体さながらにされてきた俺だが、ちょっと気まずい。うつむいていると、パパが俺の背中を叩いて言った。

「おまえ、気付いてたか? 俺はだいぶ前から手加減なんかしてなかったんだぜ? ここまでやるようになるとは正直驚いた。おまえ、本当にただの地上人上がりなのか?」

「そう言われても……他には心当たりないです」

「そのうち旦那と二人がかりでも勝てなくなるかもしれねえな。楽しみだぜ、婿殿むこどの

「む、婿殿……?」

「ここまでやるようになったからには文句はねえぜ。サッちゃんをおまえにやる。免許皆伝めんきょかいでんってやつだ」

 パパに握手を求められて応じた。拳を交えた者同士、パパの手は熱かった。

「でも、サッちゃん本人の気持ちをまだ聞いてません。悪戯したら折檻よって言われてるくらいだし……」

「サッちゃんは、おまえが魔界に来た時から首をろくろっ首みたいにしてこの時を待ってたんだぜ。『パパが一目置くような男になったら、プロポーズするから言ってね』ってな。だが、光希にも男のメンツってもんがあるだろ? サッちゃんより先にプロポーズしてびっくりさせてやるってのはどうだ?」

「は、はい。それはいいっすね。……でも、指輪とか持ってないし」

「おっと、武器以外の物質化はまだ試してねえのか」

 パパからのレクチャーを聞いて、逆五芒星からエンゲージリングを取り出した。プラチナ製と思われるリングはてっぺんに近付くにしたがって二重になり、二重の部分には細かいダイヤが並んでいる。そのまま石を挟んで数字の3と鏡文字の3が向かい合う形。つまり、左右から細長いハートが包む形である。真ん中にはハート型の大粒ダイヤが載っていて、その周囲をぐるりとハート型の小粒ダイヤが取り囲んでいる。豪華ならいいというものでもないだろうが、地上の価値観で言えば石油王の奥さんがはめていそうな感じだ。

「ほほう、おめえはいちいちやる事がでけえな。剣といい、指輪といい。サッちゃんもきっと喜ぶぜ。でかい宝石の物質化はなかなかできる奴がいないから、魔界でも結構な価値だしな」

 初めて作った作品をしげしげと眺めて思った。

「なんだか、ちょっとゴテゴテしすぎですかね?」

「問題はそこじゃねえだろう! ……いや、デザインとしては悪くねえと思うぜ。ただ、見せられたほうが照れるような指輪だな」

「そうですか? でも、デザインが悪くなければいいや。プレゼントは気持ちが込もっていれば、それが一番!」

「込めすぎだっつーの」

 パパはなんだか赤い顔でニヤニヤしていた。

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