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魔界7

 目が覚めてリビングに顔を出すと、三人ともなんだか深刻な顔をしてテレビを見ていた。

「おはよう。何かあったの?」

「おはよう、光希。今テレビで中継しているんだけど、市街地を鬼の集団が襲っているのよ」

 画面を見ると、虎のパンツの代わりに革パンや金銀のチェーン、たくさんのピアスをジャラジャラ身につけた、一昔前の過激なロックシンガーみたいな鬼達が映っていた。

 そのヘビメタな鬼達が、パンデモニウム中心街でショーウィンドウを壊して略奪したり、道行く人や応戦に駆けつけた強そうな魔族の方々を攻撃している様子が、リアルタイムで放送されていた。街灯なども壊されているのか、画面は薄暗かった。

「あの鬼達も魔界の住人なの?」

「いいえ。彼らは本来地獄に住んでいて、魔界には来られないはずなのに。地獄で何か異変が起きているのかもしれないわ」

 位の高そうな魔族の方々も、数にものをいわせて襲いかかる鬼の群れに苦戦しているようだった。

「旦那、俺達もちょっくら助っ人にいくか」

「そうですね、見過ごすわけにはいかないでしょう」

「わたしもいくわ」

「いや、サッちゃんは光希と留守番しててくれ。光希はまだ実戦レベルじゃないからな。万が一、こちらへも鬼の集団が来ないとも限らん。もし鬼が来てやべえと思ったら家なんか捨てて城に避難するんだぞ?」

「わかったわ。気をつけてね、二人とも」

「光希、サッちゃんから離れるなよ。よし、じゃあいってくるぜ」

 父親コンビはリビングから庭へと続くガラス戸を開けて、闇空の中を市街地へと飛び立っていった。

 サッちゃんと隣あってソファに腰を下ろすと、また二人で画面を食い入るように見つめた。怪我人が出るたびにサッちゃんは悲しそうな表情で息を詰まらせ、俺の手を握り締めた。

「地獄でいったい何が起こっているのかしら?」

「そうだな、あまりひどいことになってなければいいけど」

 しばらくテレビにかじりついていると、大物魔界人と思しき(おぼしき)人達が続々と集結するのがわかる。その中にパパと父様の姿を見つけて「あ、いたいた!」とサッちゃんは喜んだ。その後すぐにハッと顔を赤らめ、気まずそうにつぶやいた。

「……不謹慎だったわね。ごめんなさい」

「気にするなよ、家族がテレビに映ったのを喜んじゃうのは誰でも同じさ」

 大物が大勢現れたおかげで形勢は逆転しつつあったが、それでも鬼の数が多い。そう思いながら画面を見ていると、一人のハンサムな青年が飄々(ひょうひょう)として鬼の群れの真ん中に突っ立っている光景が映し出された。

「光希、見て。サタン様よ」

 なるほど、テレビ越しでも格の違いがひしひしと伝わってくる。鬼達は、近付いたら終わりとばかりに遠巻きにサタン様をにらみ、うなり声を上げるだけだった。サタン様が人差し指をクイっと引き上げる動作をすると、混戦状態の中から鬼達だけが宙に浮かび上がる。

「ここは君達の居場所じゃない、帰りなよ」

 サタン様がつぶやくと、一瞬にして鬼の軍団が消え失せた。

「ああ、サタン様。勿体のう(もったいのう)ございます……」

 サッちゃんが俺の横で目を潤ませて画面に話しかけている。

 キザな野郎だぜなんて思いながらも、代理とはいえ百戦錬磨の猛者どもを統べる(すべる)王はやっぱ違うなと感心せざるを得なかった。

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