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魔界6

 地上では運動嫌いだった俺だが、久々に身体を動かすのは爽快だった。

「おう、おまえ楽しんでやがるな。好きなことは上達が早い。いいことだ。よし、これでもくらえ」

 パパは指先にオーラをたくわえ、俺を執拗しつように射撃してくる。間一髪のところでかわし続けた俺だが、ついにその内の一発が胸に命中してしまった。俺の身体は空母から飛び立つ戦闘機のように弾き飛ばされ、広い花壇のど真ん中に墜落した。大の字になってのびていると、お盆に飲み物を載せて歩いてくるサッちゃんが見えた。

「こらー、せっかく植えたお花をこんなにしてしまって。もう!」

 サッちゃんは近くにあったテーブルにお盆を置くと、おれの身体を抱き起こしてくれた。今回はスカートをしっかり押さえて事故を未然に防いでいる。

「ごめん、サッちゃん……」

 喋ると光弾が当たった胸が苦しくて、それ以上の言葉が続かなかった。

 パパが降りてきて花壇のふちにあぐらをかいた。

「わりい、やりすぎちまった。とりあえずこれぐらいにするか」

「俺は……まだやれます。治療して……もら……えば」

「おお、見掛けによらず根性あるな。だが、オーラで負った傷ってのは治療してもあんまり効果がないんだ。オーラを帯びてない武器でどこぞの間抜けみたいに首をはねられようがどうしようがまったく問題ないんだがな。まあ、治療しないよりはましだからやりかたを教えてやる。自分でやってみろ」

 パパの説明を受けながら胸の傷に手を当て、オーラを放出した。すると、傷口がどんどん痛みを増してきて、俺の顔は苦痛に歪んだ。

「やめろ、光希。ちょっと待て。いいか、治療する時は治したいという気持ちにしっかり集中しろ。いいかげんにやると自分を攻撃しちまうぞ」

 また自分を攻撃してしまうんじゃないかとビクビクしながらも、今度は集中して胸の傷にオーラを当てる。すると、痛みが徐々にひいていくのがわかる。

「よし、上手くいったな。だが、さっきも言ったようにオーラの傷は治療しても痛み止めくらいしかできねえ。あとはおとなしく寝て治せ」

 パパは俺の肩を一つ叩くと、屋敷の中に引き上げていった。その背中に俺は、

「ありがとうございました」

 と、声をかけ、今度は花壇に気遣いながら大の字に横たわった。花壇の修復を終えたサッちゃんがグラスを俺に手渡してくれる。

「光希は飲みこみが早いわね。お買い物から帰ってきたら、もうパパと戦っているなんて。見直したわ」

 照れ隠しに冷たいお茶を一気に流しこんだ。まだ多少胸の傷に響いた。

「花、ごめんな」

「いいのよ。花だってオーラで焼かなければ修復できるから」

「そっか。ところで、日光がなくても花が育つなんて不思議だな」

「魔界の植物は最初に少し魔力を与えてやれば、あとは土からの養分のみで育つのよ」

「へえ。それにしても可愛い花だ。フワフワしてて、優しくて、純情な乙女って感じ。それに、甘くて心地いい香りがするな〜。あ、いてて。とげが刺さった」

「魔界の花は……魔力を与えた人の内面をそのまま反映するの……」

「そ、そうなんだ。ってことは……」

 うつむいて烏瓜からすうりみたいに真っ赤な顔をしているサッちゃんとの間に、こそばゆい沈黙が続いた。やがて顔を上げたサッちゃんに促され、俺達は邸内に引き上げた。訓練疲れからか、部屋に戻った俺は泥のように眠った。

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