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魔界2

「サッちゃんには何も言わないでおまえを連れてきたからな。さぞ、びっくりするだろうぜ」

 父親コンビがニヤニヤと顔を見合わせている。

 玄関に辿り着くと、パパが扉を開けた。

「サッちゃん、今帰ったぞ!」

 パパが広い屋敷中に轟く(とどろく)ような声で叫ぶと、二階のほうから微かに懐かしい声がした。

「おかえりなさい」

 それきり反応がない。顔を見合わせ、苦笑する一同。

「お土産おみやげがあるから降りてこいよ〜。サッちゃんの大好物だぞ」

 大好物って……。もう食われる心配はないと思うが、ちょっとな。

 しばらく三人で玄関に突っ立っていると、コツコツと大理石の床を歩く、のんびりした足音が近付いてきた。しばらくすると、玄関の真ん中から真っ直ぐのびる階段の上にサッちゃんが顔をのぞかせた。

「パパ、わたしは今何も欲しくないって言ったじゃな……え?……光希!」

 サッちゃんは階段を駆け下りようとして足を滑らせ、あわや転落かと思ったところで一瞬翼を出して空中に浮かび、舌をちろっと見せながら俺の前に着地した。

「もう、パパも父様も人が悪いわ。光希を連れてくるなら先に言っておいてくれればいいのに」

 透け透けフリフリの黒いベビードールがサッちゃんの部屋着らしい。そのすそを両手で引っ張るようにモジモジしながら抗議している。久しぶりに会ったサッちゃんの扇情的せんじょうてきな姿に頭がクラクラした。

 サッちゃんは俺の両手をとると、嬉しそうにブンブンと振りまわし、俺に抱きついた。久しぶりの甘い香りが心地いい。

「会いたかったわ、光希」

「俺もさ、サッちゃん」

 こんな時に気の利いた台詞の一つも言えない自分に苦笑しながら、時を忘れてハグしていると、背後からわざとらしい咳払いが聞こえた。

「お楽しみ中すみませんが、玄関先に突っ立っているのもなんですから、中に入りませんか?」

 あまり刺激すると父様はともかく、パパの冗談半分のげんこつ一撃で撲殺されかねないので、俺は首にからみつくサッちゃんをさりげなく引っ剥がして(ひっぺがして)、リビングに向かった。

 魔族の徴を受けた俺もまた人間同様の食事は必要ないらしいが、

「光希はまだ慣れていないから、何か作ってあげる」

 と、サッちゃんが手料理を振舞ってくれることになった。

 はりきったサッちゃん手製の食べきれないほどのご馳走と、次々に注がれるワインで、地上人のままの俺ならとっくにトイレで昏睡状態になっていたところだが、この身体は満腹で動けなくなることも、飲みすぎて悪酔いすることもないらしい。便利な身体だが、少し寂しい気もする。

 地上で過ごした時とは違って、かいがいしく世話を焼いてくれるサッちゃん。残念ながら? もうベビードール姿ではなく、スカートが膨らんだ黒いワンピースに真っ白なフリルエプロンをしている。頭のてっぺんに黒くて大きなリボン付きカチューシャを着けた姿は、さながらアリス・イン・パンデモニウムといったところだ。これはこれで萌……。

 そうやって幾日にも相当するであろう間パーティは続いた。時間の区切りがあまり意識されないこの世界ではパーティはいつ終わるのだろうと心配し始めると、サッちゃんが気を利かせて寝室に案内してくれた。

 案内された寝室は濃い色のフローリング敷きで、黒一色のモダンな家具が配置されていた。真っ白な壁紙に蛍光灯が反射して少しまぶしかった。部屋自体は広々としていて、歩くだけで運動不足が解消されそうなくらいだ。

「ここが光希の寝室よ。よそに自宅を持ってもいいけど、しばらくはここがあなたのお家だから、自由気ままに過ごしてくれていいわ。みんなでいたほうが楽しいでしょう? あの二人なら細かいことを気にしたりしないから、付き合いきれないと思ったら、さっさと退散するのよ?」

「ああ、ありがとう。サッちゃん」

「じゃあ、おやすみなさい、光希。わたしはもうちょっとパーティに参加してから眠るとするわ」

「おやすみ、サッちゃん」

 扉に向かって歩き始めたサッちゃんが振り向いて言った。

「あ、そうそう、お風呂に入りたかったら、そこの奥の扉よ。わたし達の身体は汚れないけど、気持ちいいから入ったら? この家にあるものは自由に使ってくれてかまわないわ。でも、わたしのお部屋には入っちゃだめよ。恥ずかしいから。じゃあね」

 サッちゃんは俺にウィンクするとリビングへ戻っていった。

 こんな立派な大邸宅で風呂付きの専用寝室をあてがってもらえるんだから、魔界に来て正解だったな。なんて考えながらゆっくりと風呂を堪能たんのうし、俺は眠りについた。

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