最終決戦と私〈5〉
今回が最終回なのですが、かなり長いです。ごめんなさい。
「瞳さんっ、起きてっ、起きるんだっ!」
少し頬を叩かれ、ようやく気づいて目を覚ましました。
「……くそっ、魔王を止めないの……、メリーナたちが……」
映像をみると、すでに腰にまで水面が到達していました。
もはや動くことも相当な体力を使うほどの水かさでありながら、なんとか逃げようと鉄格子にタックルをしかけている、サーヤとメリーナの姿が見えました。
「………ごめん、サーヤ、メリーナ、シャル………」
ひどいことをしてしまったのは私、それなのに、私は一切死ぬこともできません。
代わりに死ぬのは……、この3人……。
「……瞳さん、彼女たちをこのまま見殺しにしちゃダメだろ!?」
麗くんは、私の肩を掴み、必死の形相で話します。
「……どうして俺たちが、こんなところまで着いてきたかわかるか?」
「…………魔王の説得」
「違う。それもあるけど、本当の、真の目的はそれだけじゃない。瞳さんのことを、みんなで信じて、みんなで守ろうと思ったからだ!瞳さんっていう、大切な仲間を、信じてたから、みんなここまで来たんだ!!今の勇者は俺だけど、このパーティの中心は、間違いなく瞳さんなんだよ!瞳さんが好きで、瞳さんが大切だと思う人たちばかりで、瞳さんが楽しいときも、苦しいときも、辛いときも、一緒に分け合いたい。そう思ってる仲間なんだっ!!」
「………マスターも、同じこと言ってた………」
「……そうだよ。ハルファーさんだって言ったんだろ?だったら、瞳さんも、仲間のことを守ろうよ!みんなが瞳さんを守ってくれるっ!俺が、あなたを守ってみせるっ!!!瞳さんに二度と寂しい思いも、苦しい思いもさせないっ!!!神に誓ってやるっ!!!だから、瞳さんも、仲間を守ってくれっ!!!お願いだっ!!!」
私はいったい、なんで泣いていたんだろう。
魔王の恨みが怖かったから?
また一人っきりで苦痛に耐えるのが怖かったから?
なんで私は今、泣いているんだろう。
麗くんの言葉に感動したから?
私は一人じゃないってことを思い出したから?
私には守ってくれる仲間がいて、私には守らなきゃいない仲間がいるから?
そうだ……。
仲間。
私の大切な仲間。
何よりも、何よりも大切な………。
私の仲間。
「…………麗くん、ありがとう。私を守ってくれて。私の本当に大切なものを、思い出させてくれて…………」
「…………瞳さん」
「私、格好悪いなぁ。いろんな人に助けられてばかりで……。これでも元勇者なのに……」
「…………」
「もう大丈夫。私は、魔王に何とか言ってみるよ。麗くんは、メリーナのところまで行って、助けてあげて」
「…わかった!」
麗くんはなんとか立ち上がると、王座の部屋から飛び出しました。
先に回復魔法をかけたので、すぐに体力は回復するでしょう。
「……魔王。あんたがやったことは、絶対に許さないっ!」
「何を言ってやがる。てめぇがやって来たことだって同等だろうが!!!お前がいったい何人もの命を奪ったか!!!」
「わかってるよっ!!!私は何百人の魔人たちを、この手で殺してしまった。それは拭いようのない事実ってことは!!!でも、それに彼女たちは関係ない。悪いのは私だし、償わないといけないのも私。だから、彼女たちを、解放してあげてほしい………、お願いだから………」
「いくら綺麗事をほざいたって無駄だ!!貴様が悪魔のようなヒトであることは、この世界の魔人は全て知っているっ!!お前の姿は知らなくてもなっ!!!」
「…………だったら、国民に言って。広場にでも何でも集めて。私はそこで謝罪する。どんな屈辱的な罰でも受ける。どんなに酷い言葉でも受け止める。文字通り、何でもするから……。だから、私以外のヒトに、私のせいで命を落としてほしくないっ!お願いだからっ、やめてくださいっ!!!」
「……無理だっ!無理だ無理だ無理だっ!!!口だけならいくらでも言えるっ!!お前が本当にそう思っているかなど、他人である俺が知るわけないのだからっ!!だからこそ、最悪の罰を与えるのだっ!!!『孤独』と言う名のなっ!!!」
孤独……。
味方が誰一人いない。
私のことを知る人間が誰もいない。
それは確かに恐ろしいことです。
私は二度と体験したいとは思いません……。
「…………なんで…………、そんなに孤独に拘るんですか…………。私を精神的に追い詰めるだけなら、私を味方のいない場所にやればいい!現に私はそうして一度苦しい目にあった……。それだけじゃないです!もっと、いろんな方法があるはずですっ!なのに、どうして、孤独に拘るんですか……」
「……………それは……っ」
孤独ということが恐ろしいことだなんて、本当に孤独になるまで、私は知りませんでした。
かつての世界には、私にも家族がいました。
世界でたった一人ぼっちだったことなど、一切ありませんでした。
一人が怖い、そう感じるのは、一人になったときだけなのです。
「………………怖かったんですか?あなたも…………」
「……違う」
「あなたも、孤独だったんですか………?この世界で、あなたも……」
「違うっ!違う違う!!」
「…………あなたも、私と同じように……、知る人のいない、誰一人として、自分のことを、味方として見てくれない、大切なものは、次々に、自分より先に無くなっていく……。あなたも、そんな経験を……」
「…違うっ!!違う違う違う違ぁぁぁぁぁうっ!!!!俺はっ!!貴様にっ!!罰を与えるためにっ…!!」
「…私に、殺されるのが怖かった……。唯一、自分と同じ魔人たちが、次々と殺されるのが、怖かった……。そうでしょう?」
かつて私も、竜也に迷惑をかけ、そして何より竜也を失うということが、一番怖かった時期がありました。
彼にとっても同じなのでしょう。
自分の仲間だった魔人が、次々に殺されていく。
それが怖かったのでしょう……。
「………違う……違うんだ……」
「…………いずれ、自分の親しい人は、老いて死んでしまいます。魔人よりもヒトや獣人の方が早いから……、より早く、いろんなヒトを亡くします……。でも……、私たちは死なない……。彼女たちが死んだら、私たちは二度と、会うことは許されない……」
「やめろっ!!やめてくれっ!!!」
「……あなただって家族がいたんでしょう?」
「……うるさいっ!いたさっ!もう何百年も昔に死んださ!俺を置いてっ!!!もう二度と、会うことも叶わないっ!!!」
「………寂しかったんですね………」
魔王の目は、先程私を憎んでいた目からうって変わって、涙を溜めながら、孤独にうち震えているように見えました。
「……あなたのことを、知る人がどんどんいなくなる……。自分よりも生きている人間はいなくて常に孤独……。私もあのときは、そう思っていました。
でも、違うんです」
「何が……何が違うんだっ」
魔王は、とても弱かった。
自らの孤独に耐えようと、敵(私)をつくって自らの世界にわざと他人(私)を据えた。
それで、自分は一人じゃないんだと、言い聞かせていた。
例え意識してなかったとしても、深い中に、そんな気持ちがあったのでしょう。
「…私がいますっ。あなたには、私がいる。皮肉にも、同じ魔術を身体にかけて、同じく不老不死になった人間が。同じように、私にもあなたがいる……。孤独なこの世界で、いつでも、いかなるときでも、同じように生き続けてる存在が」
「………っ………っっ…………」
「………大丈夫です。あなたも、私も、ずっと、一人じゃないんです」
私は何を思ったのでしょう。
いつのまにか、魔王を抱き締めていました。
なんてことはありません。
魔王だって、一人の人間だったのですから。
魔王は、声を圧し殺して、泣いていました。
泣き顔を私に見せてはくれませんでしたが、泣き止んだあとの彼の表情は、とても柔らかなものでした―――――
「っくそっ!!水がもう……」
俺がようやく、地下通路を見つけ、メリーナらが捉えられているところに来たとき、すでに水かさは、彼女らの肩にまで及んでいた。
さすがに体力も限界なのか、シャルもメリーナもサーヤも動くことすらできそうにない。
「……火焔流星群っ!!」
魔法での破壊を試みるも、そこは魔王城……、びくともしなかった。
「くそっ、このまま、あいつらを……」
「…………レイ…………」
すでに悟ったかのように、虚ろな瞳をしたサーヤ。
果敢なイメージの強い彼女とは思えない、そんな表情だ。
「…くそっ!くそくそくそくそっ!!!」
ありったけの魔力を持って攻撃しても、全く壊れていない。
そのときだった。
「………………っっ!!?」
天井が、爆発した。
何が起きたのか、自分でもよくわからなかった。
しかし、理解が追い付いてきたとき、天井は吹き抜けになっており、目の前には瞳さんと魔王がいた……。
「……こんな乱暴な助け方じゃなくてもよかったんじゃ……」
「…ふん、もうこの魔王城もいらんからな。どうでもいいさ」
どうやら瞳さんは魔王の説得に成功したようで、魔王は地下牢ごと爆発させて助けようとしていたところを、地下牢に大穴を開けて助けるという作戦に変更したらしい。
なんともアバウトでとんでもない作戦だと思ったが、なんにせよ助かったからよし、としたい。
俺って、必要あったのかなぁ……………。
「……魔王は、ここに残る?」
「あぁ。さすがにヒトの国で生きようとは思わん。この世界にお前がいる。そう思うだけで十分だ」
「……また、いつか、会いに来ますね」
「いつだ。次はいつ……」
「私が寂しくなったときですかねっ」
「………ははは。なるほど、では、それまでは待つとしようか。また、いつかな」
魔王と私はお別れをしました。
死ぬことがない、同じ時間を永久に歩き続けなければいけない二人が、いつかまた、会えると信じて―――――
「……あなた。さようなら。幸せ、でしたよね?私は幸せでしたよ?」
あのあと、私たちは一つのパーティを作りました。
さまざまな依頼をこなすようになり、いつのまにかAAAクラスになっていました。
それから長い月日が流れ、麗くんとの結婚、子供の出産、子供の旅立ち、いろんなことがありました。
みんな年老いて、やがて亡くなりました。
シャルも、メリーナも、麗も、サーヤも、いつか私はまた、一人に……。
いや、一人じゃなかった。
「………魔王がいるもんね。あ、今は魔王じゃなかったっけ………」
あの人がいる。
私と同じく、永遠を生きる人が………。
私は、一人じゃないのです。
不老不死の元勇者が異世界でなにかやるようです―――――完
ここまで駄文の小説を読んでくださった方がいらっしゃれば、本当にありがとうございました。また新しい小説を投稿いたしますので、そちらもよろしくお願いいたします。




