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赤髪と私

新キャラ登場です。

次の日。


いつものように、冒険者としての身なりを整えて、ギルドへ向かいます。



「ヒトミ。俺は今日、隣の町に食材を取りにいくから、店は休みにするからな」



「はい。わかりました。いつもの、取りにいくんですか?」



「あぁ。そうだ」



いつもの、というのは、隣町でしか手に入らない特殊な肉です。


普通の肉よりもかなり高級なそれは、レクルスでは販売しておらず、隣町に行かなくては買えないというものです。


味は、牛肉などとうに越える味わいで、私も初めてこれを食べたときは、あまりのおいしさに仰天しました。



「……じゅる」



思わずよだれが出てしまいましたが、これではいけません。


とにかく私は、冒険者として頑張らなくては。






ギルドに着くと、いつもの顔が並んでいました。


パーティを組んでダンジョンに挑む人たちが会議をしてたり、互いに武器の見せ合いをしていたりと、それぞれに活動していました。


私はいつものように清掃のクエストをこなそうとカウンターで手続きを……。



「たのもぉーぅ!!」



扉から、なにやら声が聞こえました。


ギルド内で大きく響き渡ったそれに、ギルド内にいるほぼ全ての人間が顔を向けました。



「このなかで一番強いやつ!私とコンビを組みなさいっ!」



そこにいたのは、私と変わらないであろう年齢の、野生児……もとい、赤髪の少女でした―――――






次の瞬間、ギルド内は大爆笑の渦に巻き込まれました。



「はははははははははは!!!」

「ぎゃはははは!!」

「やべぇwwwwまじ腹いてぇwwww」



それは、おもしろいことをしたから、とかそういう笑いではなく、彼女を見下した、嘲笑でした。



「お嬢ちゃん?ここは遊び場じゃないんだよ?依頼をしたいのならこっちじゃなく」

「私は冒険者だ!強いやつと組んで、天下を取るんだっ!」



少女は両手を腰にあて、堂々とした表情で言う。



「天下だぁ!!?」

「お嬢ちゃん、寝言は寝て言うんだなぁ!!」



しかし、その言葉は明らかに、他の冒険者たちの怒りを買うことになりました。


天下というのは、恐らくではあるが、冒険者のなかで一番になるってことだと思います。


が、冒険者のなかで一番なのは、AAA(トリプルエー)ランクに入るということです。


まずそもそも、Aランクになるだけでも、ありえないほど難しいのが現状です。


Aランク冒険者というのは、大体軍隊とほぼ変わらない戦闘力を誇るような化け物じみたレベルの人間です。


AAAランクまでくれば、魔王や勇者とも互角に戦える、いわば最強の称号なのです。


つまり彼女は、「目の前にいるあんたたちを全員越える」と宣言したことになるのです。



「なんだ!?やるのか〜!!」



少女は、ばっと身を構えます。


持つのは、武器にするには少し珍しい棍棒。


周囲には、まるで戦争をする直前のような、殺気立った空気がありました。



「…あ〜あ……。どうするの、これ……」



ここまで冒険者の怒りを買ったのだから、恐らく彼女は無事じゃ済まなさそうです。



「…彼女、確かに弱くはないんだけど……そこまで強いレベルではなさそうだよ……」



相手の力量は、ある程度鍛えればわかるようになります。


が、彼女の力量は、とてもじゃないですが、Aランクにですら到達できるレベルじゃなかったのです。



「……じゃあまずは、小手調べといこうか!」



そう男の一人が言うと、



「清掃員!!出番だぜ!!」



「はい?!」



なぜか私が呼ばれたのでした―――――






「うちのギルド内で、たぶん最弱のこいつさえ倒せないんじゃ、お話にならないぜ!」



ちょっと待ってください。


できる限り気配を消していたというのに、なんで私が指名されるのですか。


周囲の輪のなかに押し込まれるような形で、彼女と私がご対面することになりました。



「最初は同じ女の子と勝負ってわけ!?私のこと、なめてるんじゃないでしょうね!!?」



明らかになめてます。


みんなどう考えてもなめきってます。


私が本気を出せばこの町なんて一瞬で壊滅するというのに、なめすぎです。



「……まぁいいわ!まずは軽い運動ね!」



そして彼女も、明らかに私のことをなめてます。


軽い運動になんか絶対になりません。


ていうか、戦う気なんて私にはありません。


が、明らかにパスなんて言える雰囲気にないのも事実でした。


周囲は、私か彼女がぼこぼこにしてやられるのを観察したいだけです。


全くどうしたものでしょうか。


私はなんともいえない雰囲気に飲まれるように、短剣を抜きました。


どう考えたって、戦い用の武器ではなく、護身用のものです。



「そんな武器で戦おうっていうの!?」



「……戦いたくないです」



「出たよ!いつもの弱腰が!」



戦いたくない=弱腰なのが、この世界の暗黙の了解です。


ですが、私は彼女を倒すつもりなど毛頭ありません。


だったら手段は一つあります。


戦いをする気力を奪えばいいのです。


私は一つ、魔法を発動させました。



「あなたからお先に…」



「そんな余裕ぶっていいの!?私の攻撃にびびらないでね!!」



彼女は私を棍棒で殴り付けようと、飛びかかろうとしました。


飛びかかろうとした……のです。



「あがっ!!?」



彼女にとってみれば、見えない何かに足を引っ張られ、地面に倒れさせられた、という感覚でしょう。


どんなものでも転ける魔法を使ったのですから。


でも周囲からすれば、彼女は何もないところですっ転んだことになります。



「ぅぅ……いつつっ……」



人間は、咄嗟の反射で転けたとき腕を前に出します。


しかし、突然すぎて彼女はそれをする間もありませんでした。


顔を思いっきり床に打ち付けた彼女は、今にも泣きそうな表情を浮かべています。



「ぷははははははは!なに、なにもないところで転けてるんだよノロマが!!」



「く…っ」



彼女の顔は羞恥で赤くなります。


真っ赤な髪の毛と同化してしまいそうなくらいに赤くなった彼女を、不覚にもかわいいと思った私がいます。



「お、お、おぼえてやがれぇぇぇぇぇ(涙」



そして彼女は、半泣きのまま、かませ役の台詞をいい放ち、逃げていったのでした。


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