シャルと私
村人口、わずか50人ほどの本当に小さな村。
名前は「サルヤージ村」といいます。
白の大陸のため、村人は全員が獣人です。
赤の大陸や青の大陸において、獣人は差別対象になるため、獣人はヒトをあまりいいようには見ていません。
しかし、私たちを泊めてやると言ってくれたのは、同胞であるシャルの力でしょう。
ここからは、こうやってシャルのことを頼ることも増えるでしょう。
しかも、村人の話では、シャラデルデはすぐ近くにあるそうです。
しかし、シャルの村に関しては……。
「……そうじゃなぁ……。いまこの国は、魔国に降伏しかけているのじゃ……。ほとんどの領地が魔国に侵攻されていて……。荒野になれ果てておる。お主の村も、恐らく完全に滅びているだろう……」
この村長は、どうやらシャルの村のことを知っているようでした。
「この娘さんの村、ナクラム村は、かなり最初の方に滅ぼされた村だ……。家や畑は破壊され、家畜や人はみな殺され……、彼女のように生き残ったものも、食うものがなくて奴隷にされる……。恐らく彼女の村には、もう何もないだろう」
村長の言葉には、苦しみが混じっていました。
村長にも、何かしらの経験があるのかも知れません。
「……それでも行くというのならば……この村に一人、ナクラムの隣の村に住んでいた男がいる。そいつに頼めば、場所くらいは教えてもらえるだろう」
シャルは悲しそうな顔をしていましたが、どうやら村に行くことにするようです。
私は彼女の意思を折るつもりはありません。
行くというのなら、私らもお供します。
それが仲間ですから。
「ナクラム村は、ここから南西に一日ほど歩き続ければ見つかるだろう。コンパスを貸してやる」
方向がわかるものさえあれば、あとはその方向に向かって進めばいいのです。
どうにか、シャルの村へは行くことができるのでしょう。
「……さぁ、覚悟はいいよね。シャル?」
「はい。もう、大体どうなってるかっていうのは予想がついてます」
シャルの表情は、どこか寂しそうな、悲しそうな、それでいて、なにかを悟ったような顔をしていました。
そんな様子が、どこか、過去の私に重なっている気がして……。
ぎゅっと苦しい気分になります。
が、私以上に……同じような経験をしている人が、私の仲間にはいました。
「……シャル。大丈夫だよ。私たちがいるから……」
「メリーナ、さん?」
「私も、同じような経験をしてるから……。私にはおじいちゃんがいてくれたから大丈夫だった……。だから今度は私たちが、おじいちゃんの代わりになる番だよね」
心の支えになってくれる人。
全力で自分のことを守ってくれる人。
そんな人さえいれば、辛いことなど恐れるに足りないのです。
「……だから。一緒に頑張ろう。ね?」
「はいっ」
少し彼女の表情が少し、明るくなった気がします。
「……代わりに……か」
亡くなった人の代わりになれる人がいる。
シャルも、メリーナも幸せな子ですね。
私はそう思いました。
しばらく歩き続けると、ついに村…………と思われるものを発見しました。
「……これが、私の住んでいた村……」
「「…………」」
メリーナも私も、声になりませんでした。
荒れ果て、焦げている家。
野生化し、凶暴化した家畜たち。
予想はしていたと言っても、実際に光景を目の当たりにすると、気分がいいものではありません。
「これが……私の家ですね……」
その焦げ付いた家たちの一角に、彼女の家はありました。
やはり、無惨に焼けついていて、家として見る影もありません。
「………っっ」
「シャル……」
家族で住んでいた影が、あとかたもなくなっています。
お父さんもお母さんも、もういないのです。
シャルはどうしようもないくらい、苦しい気分でしょう。
「………なんででしょうね。わかってたのに。こうなることはわかってたのに。……………うぇっ……ぐすっ」
その場に座り込んだシャルは、えずきながら呟きました。
言葉をかけるべきなのか……かけないべきなのか。
そんなことよりも、
「シャル…」
「ヒ、ヒトミ……っ、さんっ」
彼女の目は涙でぐちゃぐちゃ。
目は腫れていました。
私がぎゅっと抱き締めたからでしょう。
驚いた表情で、私を見つめています。
「……………シャル。やっと泣けたじゃん…………。私たちが守ってあげるから。いっぱい泣いてもいいからね?」
今の私にできる、唯一の行動だったのですが。
シャルの表情は、どことなく、安心したような、そんな表情でした…。




