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1-2『冒険者の国』

 冒険者とは、今では力を持った旅人と呼ばれており。クランと呼ばれる組織に属する市民権を持たぬ者達の事である。

 クランと国は互いに支えあう関係を持ち、市民や村。時には国からの正式な依頼をクランが受付をし、冒険者が実力に見合った依頼を受け、報酬を得る。クランは冒険者や組織に属する者の代わりに依頼の成功報酬の一部を集め、国に税金と共に依頼の成功率や冒険者達の動きを報告し。時には、国へ冒険者の助力を求める。

 冒険者が相応の功績を積めば、国に認められて一代限りではあるが貴族の称号。または、騎士として召抱えられ、一般的では国から市民権を得る手続きをクランに申請し。市民権を購入して正式な国の民になる事が出来る。

 タニアの父親であるアイシは、冒険者であった頃は国に名の知れた冒険者であったらしい。本人は大した事は無いと言ってはいるが、彼の話す今まであった依頼の中で【火吹き竜】の討伐で仲間を殺されて単身乗り込んだ。と、カラカラと笑って言うアイシにジルフォードは前世で知る幻想の代名詞を頭に浮かべて、首を傾げてしまう。

 冒険者であった頃は毎日が色々と問題が起こって、疲れる暇も無かったと言うアイシだが。このカルロの村が昔、魔獣が現れて怯えていた時に立ち寄り。そこでタニアの母と出会って、今までの貯めていた貯蓄を使い。市民権を得て、カルロの村の住人になった。


「イシュレは冒険者の国とも呼ばれていてな。市民権も他の二国に比べて安いし、緑も多いし他の国の人間はイシュレの市民になる事を目指すんだ」

「冒険者の国?」


 ジルフォードの問い返しにアイシは、膝の上のタニアの頭を撫でながら頷く。

 枝を拾い終え、建物の村の皆の備蓄として補完しておく置き場に三人で仕舞いこみ。アイシの誘いによって、建物の中で一息を入れる事になった。

 アイシは森の危険な獣が村を襲わないように、一日中はこの建物の中にいる為に。愛娘とあまり長くは居られない為の口実である事は、ジルフォードやタニアも知っている。

 姉として振舞おうとするタニアも、今はそんな父に喜びを隠さずに甘えていた。


「あぁ、そうだ…そうだな。まず、クランの成り立ちから話した方が良いか」

「知ってるわ!国をもっちゃいけない人の事よね!」

「タニア。タニア、父さんはね…一言も持っちゃいけないなんて酷いこと、言ってないからな?」


 元々、この世界は大きな一つの大陸として存在していた。しかし、神話の崩壊と呼ばれる大異変が起こった。

 その大異変によって大陸は西、南、東。そして、中央と別れてしまった。およそ千年は前の出来事であり、当時の歴史は各大陸にて覇権を争う戦乱の長き時代を迎えて殆どが失われてしまった。

その中で、四つの国がそれぞれの大陸で確率したのは約500年前。

 当時の王達はこれ以上、人間が人間を殺し合ってはならないと『四使徒の条約』を結んだ。つまりは、同盟だ。

 かくして世界は一時の平和になったかと思われたが、300年前に、中央の大陸の国が一夜にして崩壊した。数が減ったかと思われた魔獣が中央の大陸から溢れ出したのである。

 世界に『魔の再誕』と恐れられるこの事件にて、中央の国は無くなり。中央の大陸には魔獣が蔓延る不浄の地とされた。

 不浄の大陸から命からがらに逃げ出してきた中央の大陸の難民に、溢れた魔獣の被害に疲弊した国は受け入れるのが難しかった。

 理由を付けては保護も受け入れさえも渋り、国民として受け入れられなかった中央の大陸の不満は高まった。

 誰かが庇護が無いなら国はいらない。そう、叫んだのが火種になった。

 次第に大きくなったその声に応えたのが、イシュレ。

 かの国の協力の元に三国に確固たる組織として設立を果たしたのが『国を持たぬ国民』であり、後にクランと改名されて冒険者の礎となった。


「そうなのか…何か、本当に異世界だな」

「異世界?」


 思わず呟いたジルフォードの言葉に、アイシが首を傾げる。


「いや!何でもない…けど、話を聞くと。イシュレが最初に力を貸したから、そう呼ばれたの?」


 慌てて話を変えようとするジルフォードの問いに、アイシが話しに眠くなって頭を揺らすタニアを。しっかりと自身の両腕を回して固定させてから、口を開いた。


「いや、他にも理由はある。フィア・ランは閉鎖国家だし、冒険者…異国民を毛嫌いしている。ガドーグは力が史上とされる国だから、自国とクランの衝突が多い」


 言葉を区切り、アイシが何かを思い出して懐かしいと笑う。


「まぁ、それはそれで楽しかったが…冒険者を全面的に受け入れて、友好関係を築いてるのはイシュレだけだ」

「そうなのか…冒険者…か」


冒険者になれば、世界を自由に旅が出来る。


 ジルフォードはそう考えた後に、こう思った。


それは、彼女が望んでいた事だったよな。


 考えた後に、ジルフォードは口を歪めて自傷の笑みを浮かべる。まるで、何処かの正義の塊である偽善者じゃないか。




冬は好きだと、彼女は子供の様にハシャイで話した。


「だからね、オーロラを見てみたいんだ。光の綺麗なヴェールだよぉ…あ、ここの問題はね」


一つの机の前で身を寄せあって、彼女は。


「ねねね、隼人は将来何になってみたい?」


ふいに、そう問い掛けてきた。

考えて、「わからない」と言うと彼女は慈しむ様に。

好きだった。優しく、ゆっくりと頭を撫でてくれた。


「私はね、お金を貯めて…世界を旅したい」


理由は簡単だった。


「だって、やっぱりこの目で色々見てみたいじゃない。

その時は、隼人も一緒に行こう?

きっと、一杯の幸せが見つかるよ」


彼女のその言葉は、とても嬉しかった。

ずっと、これから先も一緒に居られるのだと。


「あ、でもね…隼人がやりたいって事があれば。

どんな事でも、私は応援するからね」



そう、信じていた。




目の前で、彼女が微かに笑おうとした。

泣いている俺の頭を撫でようと、地面に投げられた指先がぴくりと微かに動く。


「…だい…じょ…」


俺のせいだ。


「ダ…い…ッ」


俺に力があったなら。


「…ホ…ら」



ゆきねぇをたすけられたのに



「…ジル?」

「ッ…ううん、何だか考え…られない、かな」


 アイシの呼びかけにジルフォードは我に返ると、ぼんやりと鈍る思考を働かせる。


何を話していた?

あぁ、冒険者の話だったよな。


「…冒険者って」


 眉を寄せてジルフォードを真剣な表情で凝視するアイシに、口を開いた時に建物の扉が蹴破られる様にけたたましい音を立てて開かれた。

 アイシがいつの間にか握りしめていた剣を鞘から抜き放つ。鋭い視線の先には、村の若者の一人であるジャンが涙と鼻水を拭わずに、肩を上下に大きく動かして。


「ぁ…あ、いし…さん、たす…けッ!」

「どうした!?」


 乱れた息を整えずにジャンがアイシに助けを求める。その顔は恐怖に歪んでいた。

 話し掛けるアイシにジャンが言葉を続けようとして、大きく咳き込んで床に膝を着く。ジルフォードが咄嗟に自身のコップを掴んでジャンへと駆けて、差し出す。


「落ち着け。ゆっくりと飲むんだ…慌てるな、ダイジョブ…ダイジョブ…」


 ジャンがジルフォードの言葉に、励まされて震える両手でコップを掴み。水を飲み干す。


「あ、ありがとう…俺、怖くて…ッ」

「ジルも言っただろう。落ち着け、此処は安全だ」


 すっかり目を覚ましたタニアが異様な様子のジャンに怯えて、彼の前で片膝を着いたアイシの背中に張り付いている。

 アイシの言葉に、ジャンが何回も頷いて深呼吸をした後に、やはり恐怖から目を泳がせて口を開く。


「むら…村に、来たんだ…黒い、気持ち悪い…」


 ジャンの短い言葉にアイシの表情が鬼気迫るそれへと変わった。


「…不浄の者か」

「そう!そうだ!不浄の者だ!ぁああああっ!どうしよう、アイシさん!」

「大丈夫だ、俺が行く…タニア、ジルフォードは此処で待ってろ」

「…お父さん」


 剣を確かめて立ち上がったアイシに、タニアが小さく声を掛ける。


「大丈夫。父さんは強いからな」


 娘を安心させる様に、アイシが笑った。タニアの瞳に何時もの勝ち気な光が戻る。


「…うん!そうよね!じゃぁ、ジャンは私に任せて!」


「あぁ、任せる」


 建物から矢の如く飛び出したアイシの横顔は、ジルフォードの瞳には何かを決意した顔に見えた。


だからこそ、重なる。


「俺も行くッ!」

「ジル!?」


 ジルフォードがタニアに叫び、アイシの後を追う為に全力で駆ける。


止めてくれ。

嫌だ、止めろ。

頼むよ、頼むから。


 ジルフォードの中で隼人が悲痛な声を上げて、何度も既に姿の見えなくなったアイシに叫ぶ。

 小さな身体が忌々しい、まるで【あの時】と変わらない。そう、ジルフォードが酸素を求めて開く口を、唇が噛み切れる程に噛み締めて閉じた。

 口の中に広がる血の生臭い鉄の味が、ジルフォードには毒を舐めた様に胸を締め付ける。


 辿り着いた村は、穏やかな雰囲気から緊迫した姿に変貌していた。


…一話、短い…かなぁ?

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