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忍び寄る影




 あの夢。

 金髪で左目に二本の切り傷がある、少女と砂場で遊ぶ夢。

 定期的に見るこの夢で、もう驚くことはない。でも、日に日に何故か夢を見る間隔が狭くなってきている気がする。最初の頃は一ヶ月に一回程度であったのが、今では十日に一回程度のものになってきた。

 相も変わらず少女は楽しそうに砂場を駆ける。

 駆けて走って、僕と一緒に笑っている。

 別に悪夢ではないし、夢の中の自分も楽しそうにしているから問題はない。問題はないはずだ。それなのに、何故だろう。どうしてなのか。今日、起きた時、今までとは違うものが……あった。


「いたっ」


 ズキン、と頭を刺すような痛み。

 一瞬だけど、確かにそれはあって。起きてからも、不思議としばらく動くことができなかった。

 まるで、この痛みを忘れさせないよう、身体が訴えているかのようだった。


 数時間後、レギオンを着たルェンさんを魔法の館で出迎える。今日は紺色のレギオンで、大人っぽい印象を受けた。明るい色よりも落ち着いた色を好む女性のようだ。軽く挨拶を済ませ、早速本題に入る。


「学園啓都の始まりについて、ですか。では、彼に聞きに行きましょう。学園啓都の歴史において、彼以上の知識人を私は知りません」

「へぇ。学生ですか?」

「いいえ。見た目はおじさんですよ。私もよく教えてもらったものです」


 今日は僕とモモ、ジンにミュウの四人である。

 ウチの姉妹とリリィ。レノン、リュネさんは自由行動になっている。モモと以前から打ち合わせをしていて、レノンとリュネさんに休暇を出していたのだ。ユミ姉とイヴ、リリィはクロネアに戻ってきた初日におみやげを渡した友達と遊ぶ予定だという。リリィも随分と仲がよくなって、楽しそうに出かけて行った。レノンとリュネさんは僕らと一緒に行きたそうにしていたけれど、今日を逃すといつまた二人の休日が取れるかわからない。帰ってから話すから今日は楽しんできてほしいと伝えた。


 ルェンさんに連れられて、僕らが向かった先は大園都……ではなく魔法の館から南に位置する場所であった。質素な木造式の建物があり、屋根の上にクロネア王家の紋章が刻まれている。紋章は正方形の盤の中央に剣があり、周りに光のような装飾が描かれ、左右に魔物が雄々しく口を開けている。


「こちらにいらっしゃいます」

「ここはどのような場所なんですか」

「大地の恵みに感謝し、自然そのものを祀る礼拝堂だ」


 建物の中より、一人の大柄な男がのっそりと出てきた。

 全身が引き締まり筋骨隆々とした体躯。二メートルはあろうかという長身もあってどこか威圧感を覚えた。髪型はガチガチに固めたオールバックであごから少し髭が生えている。服装は至ってシンプルで薄い生地のシャツとズボンを着ており彼の肉体が如実に見て取れた。

 横にいたモモが一歩下がる。彼女の苦手なタイプでもある。反対にジンが「おぉ!」と感嘆の声を上げながら前に出た。大男の方もジンを見るや「ほほぉ」とこちらへやって来る。そして互いにがっちり握手を交わし、深くうなずく。同じ鍛え上げられた筋肉同士、通じ合うものがあったようだ。


「こちらは自然礼拝堂を管理されておられるレイヴン・バザードさんです。『霊父』と呼ばれる役職で、クロネア王国直轄のお役人さんでもあります」

「……といっても、名ばかりのおっさんだがね。ハッハァ」

「いや、なかなかの肉体美だ。それだけで俺はアンタを気に入った」

「おうよ俺もだ、お前とは仲良くなれそうな気がするぜ」

「レイヴンさんは霊父であり学園啓都を長く見守ってくれている方でもあります。月に一度は礼拝会も開かれ、長い歴史を語っていただくことも多いのです。私もこちらへ入学した時は大変お世話になりました」

「まぁそれが霊父としての俺の仕事だからね。で、ルェンがここに来たってことは、アンタらは学園啓都の歴史について聞きに来たってことだな? アズール人か」

「はい」


 レイヴンさんの前に出て一礼する。僕の顔を見ると、ジンとは違う視線を向けてきた。


「ほぉ。なかなか見ない男だな」

「え?」

「いや、別にいい。アズールはクロネアのことについて排他的だからな。俺らの歴史について知らないのも頷ける。最近は徐々に緩和してきたそうだが、まだ数十年かかるだろうよ。それで学園啓都のどの年代が知りたいんだ? 一千年近くある空に浮いている学園だ。各年代によって話す事柄も変わる」

「初まりを教えてください」

「何故だ」


 その眼には、旅行客に向けるものではなく、興味本位で聞こうとやってきた学生に向けるものでもなかった。

 警戒のような、訝しげな眼差し。ジンに対する反応と大きく違ったことに戸惑いを感じつつ、ルェンさんに言ったことと同様のことを話した。


「せっかく学園啓都に一ヶ月滞在するのですから、ここの歴史についても知っておきたいと」

「……他の三人は付き添いか?」

「まぁな。第六極長に聞いた話じゃ当初の統治者は双子の王族だって聞いたぜ。なんか面白そーじゃん。興味がわいたって感じだ」

「ふむ。なら、その双子の王族について聞きたいということで良いか?」

「あぁ構わねーよ。別に踏み込んだ話を聞こうってもんじゃねー。始まりがどんなだったか、双子の王族がどんな感じだったか、そんな他愛ない話でいい。本来なら俺らが自分で調べるところなんだろーが、生憎字が読めなくてね。悪いな、おっさん」

「なぁに、それが俺の仕事だ。そこの青年も悪かったな。ちょっと気になってね。普通、旅行客でそこまで知りたいと思う者はいないんでな」

「いえ、僕もそう思いますし、ご迷惑だったかなと」

「いやいや。なんだか気を悪くさせてしまったようだぜ。すまなかった。お詫びと言っちゃーあれだが、学園啓都の始まりを……語ろう」



   * * *



 双子の王族は、当時におけるクロネア王の息子・娘だ。

 双子にしては仲が良く、頻繁に学園啓都について議論を交わしていた。議題に上がるのは人魔差別がほとんど。人と魔物の差別は建国して四百年たっていた当時でも、なかなか解消する兆しが見えなかったのだ。当然だ、何かしらの強いきっかけがなければ早々種族の垣根は超えられん。

 十三の極長たちも双子の考えに賛同していた。十三とは学園啓都を造った神然魔術の使い手である魔物たちの人数でもある。歴史はクロネアで最も重要視される事柄でもある。実力ある者が見出した結果を敬うのが俺たちの誇りだ。


 さて、話を別の方向へ移そう。

 時代としては学園啓都が生まれてまもない頃。人と魔物の間に水面下でいがみ合いや衝突が頻繁に発生していた時代。今のように共存するという当たり前のことは、昔のご先祖様にゃ難しいことだった。何せ自分らと姿かたちが違う輩だ。魔術によって変身はできるが、中身は別物。割り切ることはクロネアが建国して四百年たった当時でさえ、なかなかできることじゃなかった。

 当然のことだ。

 しかし、そんな状況を自分らの代で終わらせたいと思っていたのが双子の兄妹だった。王族という強大な権力と後ろ盾、個人の実力も折り紙つき。まさに天衣無縫の二人だった。ただ、そんな二人でさえ種別の争いを止める方法を見つけることは叶わなかったのだ。

 

 そんな時だった。あの鯨がやって来たのは。

 ハッハァ、ルェンから聞いているだろ? 瀕死の鯨帝にしてクロネア永年図書館の話をさ。奇跡の魔術によって不死となったあの鯨は双子にとって後世に名を残す偉大な功績となった。事実、今となっても双子王族の話は専らこれだ。これ以外ないってくらい凄いことだ。

 何せ、結果的には人魔差別を解消する、大きな糸口を見出したのだから。

 クロネアで生活する以上、必ず学生として学園啓都で十年も過ごすことになる。そして当然のようにあの図書館へ行く。必須授業として取り込まれているものでもある。子供の時に親から教えてもらうことですらある。そういう文化に溶け込むぐらい常識の“不死なる図書”は、やはりあの双子王族の残した宝に他ならない。


 ちなみに、性格は穏やかだったと記されている。ただ、時々常識離れした決断と非人道的な考えを起こす時もあったという。そういう場合は周りがだいたい止めていた。結果的に問題も起こらず功績だけが残ったという感じかな。

 さて、だいたいはこれぐらいだ。悪いが、ルェンから聞いた話が大半だったかもしれない。ただ、学園啓都の始まりと双子王族については、ほとんどこの話で歴史の記述としても残されている程度だ。本当ならもっと別の部分があったのかもしれんが、歴史を特に重んじる俺らにとっては、学園啓都がどうやって出来たのか、と人魔差別を払拭する最初の一手を導き出した双子王族の功績、の二つを無視するわけにもいかない。


 あぁそうだ。双子の王族について俺が知っていることはあと二つある。

 一つが、クロネア永年図書館が作られて以降、双子が魔術に関して度を超えるほど研究に没頭したそうだ。奇跡の魔術を解明するためだろうと思われ、まぁこれについては当たり前だろう。ただ、もう一つあってな、これが不可解な点でもある。二人が学園を卒業して以降……一度たりとも、学園啓都に足を運ばなかったそうだ。生涯死ぬまで、一度もな。



   * * *



「本当に、ありがとうございました」

「いやいや、俺にできることなら何でも話そう。また来てくれ」

「おう、今度は筋肉について話そうぜ」

「もちろんだ銀髪頭。……あぁそうだな。ついでに俺の格言を贈っておこう。これはどんな者にも贈る言葉だ。適当に聞き流していい。“見た目に惑わされるな。真の恐怖は眼前にあり”」

「何だそりゃ」

「そこそこ生きてきた俺の経験上の贈言さ。覚えておいて損はない。きっと役に立つ」

「私も数年前に言われたましたが、何か怖いですよね」

「そうかいルェン? 言葉通りだと思うがね。恐怖ってものはどうも目の前にあることが多い。俺はいつもそれを思っている。何故気づける奴らがこんなにも少ないのだろうと。悲しいものだ。それではな、また会おう。ハッハァ」


 収穫はあったのだろうか。結局、ルェンさんに聞いた話をほんのり味付けした程度だったとも思える。いや、双子の王族について興味深い話も聞けた。せっかくお話を伺えたのだから、レイヴンさんに感謝しなければ。変わった方だとも思う。詳しいようだけど、やはり僕らアズール人には突っ込んだ話をしてくれないとも感じた。本来ならもっと話してくれる方かもしれない。

 どうにも、難しいところだ。

 魔法の館に戻って、読書をしながらぼんやりと考える。モモは画家としての血が騒ぐのか、夜まで絵に没頭するという。ジンはレイヴンさんの鍛え磨かれた筋肉を見てミュウに筋トレに適した創造魔法を注文していた。ジンのためならばと目を輝かせてミュウも楽しそうにしていた。


 双子の王族に関して、いくつか腑に落ちない点もある。これに関しては……そうだな。次にあの不可解なる存在に会った時に使おう。上手くいけば、貴重な情報が得られるかもしれない。どうにもあの“不死なる図書”は口が軽い。接しやすいけど、ちょっと疑わしい。でも嫌いになれないのはどうしてだろうなぁ。何故か親近感が湧くのだ。単純にああいうタイプがアズールで身近にいたというのもあるけど。下の下だね、と陰で言われてたら嫌だな。

 他に何か、動けることはあるだろうか。

 結論として、今僕にとって必要なのは『突っ込んだ先の情報』である。表面上ならいくらでも知る手立てはあろう。……が、やはり謎を解くためには一歩踏み込んだ領域が必要である。しかしクロネアへ来てまだ数日の僕なんかでは、到底できぬものでもある。


「イヴとユミ姉に相談してみよう」


 夜になり、遊び疲れた様子で帰ってきた姉妹とリリィを出迎える。リリィに関しては興奮気味でモモとミュウに今日あったことを早口で言っている。そんな征服少女のお土産話を優しく頷きながら聞く画麗姫と築嬢。輪の中にリュネさんとウチの姉妹も加わって女性陣の話に花が咲く。

 レノンはというと、リュネさんを一日エスコートして疲れているだろうに帰っても平気な顔をして食事の準備に取り掛かった。すぐにリュネさんも厨房に入り、阿吽の呼吸で作っていく。この二人にはもう、僕とモモの関係なんか子供レベルなのだ。とっくの昔に通過しており大人の関係を育んでいる。ただ、主導権は九割がたリュネさんだろう。お似合いな二人だと思う。


 ウチの姉妹に相談する予定だった話は、皆で夕食をいただいた後にしよう。

 夕食をいただきながらの話題は、専ら今後の食事関係のことだった。事前に持ってきていた食料は底を突いたので、明日は食事の買い出しに行く必要があるという。既にモモがルェンさんに話をしていて準備はできているそうだ。クロネアの食生活には興味があり、僕も同行させてもらうことにした。夕食を楽しんだ後は、各々が自由に過ごす。

 

「で、兄貴。今日の歴史云々はどうなったのさ」

「あぁ、そろそろ言おうと思っていたところだよ。一応の話は聞けたけど、これといった収穫はなくてさ。やっぱりアズール人が相手になると距離を置かれるのかな」

「まぁね。あたしも姉ちゃんも最初はそんなだったよ。陰口も言われた。でもそういうのは一時的で、次第に打ち解けていったら面倒な垣根は消えていったかなー」

「時間は大切だよな」

「うん。こればっかりはどうにもならないよ。別の方面から攻める必要があるかも」


 んー、と兄妹で唸る。ユミ姉が僕らの頭を撫でながら間に入ってきた。


「まだ三週間ちょっとあるのだから、そう簡単に情報が手に入るとは思えないわ。ゆっくりいきましょう」

「でもさ姉ちゃん、自分で言ってなんだけども別の方面から攻める方法ってある?」

「今のところはないかも。私かイヴの友達にお願いして独自に調べてもらうのも手だけど、それって第二試練の規約に触れないかしら」

「それに関しては特に言われなかったけど、たぶん自分の力でやらないと駄目な気がする。だから、せっかくだけどユミ姉とイヴの友達に聞くのは無しでいきたい」

「じゃあどうすんのさ」

「だよなー……難しい」


 結局三人で唸るだけ唸って途中からイヴと口喧嘩してユミ姉に怒られた。いつものことだ。時間はのんびりと過ぎていき就寝の時間へと近づく。そろそろ寝ようかと皆で席を立ち、それぞれの寝室へと戻っていく。

 

「とりあえず明日は食糧の買い出しに行こう。ルェンさんからいい情報が手に入るかもしれないし」

「そうだね兄貴。まぁ、適当に」


 玄関広間にあった小さな石像が割れた。

 

「…………。え?」


 数日前に虹髪の少女と邂逅した後、結局のところ“震え案山子”が壊れてもその場に誰もいなかったら意味がないとイヴに指摘して、連動して壊れるよう一番皆の目につくだろう玄関広間にミニチュアの案山子の石像を作っておいた。一番良い方法は術者のイヴに知らせがいくような仕掛けだろうけど、まだ玄人レベルではないイヴにはこれが限界であった。

 割れた石像の数は。

 二つ。

 北東と東に向いている石造であった。上空を魔物が飛行したりする場合は多少揺れていた。揺れること自体は仕方ないことだし、皆いつものように揺れる石造を見ていた。

 しかし、今起こったことは、グラグラと揺れるのではなく一発で砕け散ってしまった。これが何を意味するか。決まっている。明らかに『こちらへ』向かってきていて、かつ魔力を剥き出しにしている何者かが……迫っている。


「敵だよ」


 小声で、しかしはっきりと──イヴが告げた。



 夜の風はどこか肌寒い感覚でちょっとだけ寂しい気持ちにさせてくれる。

 外に出て、皆で北東と東がよく見える位置に集まっていた。ジンを守るために作った館であるのに、当人が真っ先に館を飛び出したのだからまったく意味がなかった。

 眼下に広がる夜の森が見える場所に行くと、“震え案山子”がガタガタと忙しなく揺れている。どうやら、敵が迫ってきていると鮮明にわからせるため、館内にある石像には急接近の場合には即座に砕け散るようイヴが命令していたようだ。そうだ、確か虹髪の少女の場合も、揺れるに揺れるだけ動いて、最終的に砕けたのは敵を撃退する時だけだった。今にも弾けそうなほど揺れているが、それでも砕けてはいない。敵は、まだ森の中にいる。


「イヴ。敵の数は?」

「“偽らざる図表”によると……三。二人は東から、一人は北東から確実にこちらへ向かって進攻中。図表の魔力探知がすごい反応を示してるよ。やる気満々だね!」

「そうか。ジン」

「あん?」

「どう考えても敵の狙いはお前だぞ」

「だろうなー。どっかで俺の情報がバレたんだろう。もしくはアズール人に恨みがある奴らか。先日シルドを尾行した奴の可能性もあるだろう」


 心臓の鼓動が大きく鳴る。そろそろと横を見ると、ジト目で見てくるモモがいて。あの日以来、その話題になると彼女はご機嫌斜めになるのだ。


「私に黙ってシルドくんが尾行をおびき寄せていた日ね」

「それについては謝ったじゃないか。そろそろ許してよモモ」

「謝れば済む問題じゃないの。愚かね」

「で、だ。ようは敵さんがこちらへ向かってきている以上、どういう経路でここにアズール人がいることを知ったのか、聞かねばならない。誰一人として逃がすわけにはいかない。ただ、これがもし俺らの実力を見るための餌だった場合……逆手にとって相手をビビらせるには最高の場でもある」

「ビビらせる?」

「おうよ。敵は俺らを襲撃するために『たかが』三人の刺客を放ったんだ。しかも夜に紛れて侵入するのではなく魔力剥き出しでやって来てるんだぜ? これがどんだけ舐められたことか。どういう考えをもったとしても、確実に敵を捕まえ、かつ俺らを見ているかもしれない親玉を後悔させる必要があるだろうよ。ヤバい相手を敵にしてしまったってな」

「なら、ジンとミュウを館内に入れて僕らが」

「馬鹿だなぁシルド。こういう時はな、圧倒的かつ絶対的な力の差ってやつを、魅せつけるんだよ」


 一人の少女が、ゆらりと前へ出る。

 先ほどまで吹いていた夜風の波が、ピタリと止まり。

 月の明かりが彼女を照らす。


「カカカ。たった一人の魔法師に……完膚なきまでに叩きのめされたとしたら……どう思うかねぇ?」


 燃えるような紅蓮の髪。チリチリと魔力が高ぶっているのか、微かに逆立つ少女の赤髪。

 目の前は崖で、眼下には森が広がっているのにも関わらず、淡々と少女は前を歩く。崖を超えても彼女の歩みは止まらず、空中を優雅に散歩するよう……ただただ静かに歩き行く。

 燃える蛇がそっと腕に巻き付いて。

 指を鳴らせば弾ける電撃。

 足を踏めば零れる氷盤。

 笑みと共に流れる水に。

 風が少女を讃え吹く。

 征服少女。

 歴代二位。

 自然魔法の天才にして、天真爛漫な女の子にして、アズール歴代最高峰魔法師……名を──



「為すべきことは、征服にあり」



 リリィ・サランティス。

 アズール側。

 出陣するは、ただ一人。


 


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