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ブロウザの大冒険




 一冊の本を見つめる。

 題名は「ブロウザの大冒険」。第二試練を決める際、ステラさんから自由に選んでいいと言われて選んだ本である。最初は小説だと思っていたけれど、いざ読んでみると絵本であった。大きな文字と子供向けに描かれた可愛らしい絵。文字数も少なく、読み終わるまで三分もかからない。

 しかし、これが僕の第二試練を何にするか決めた本でもある。

 再三読んでいるものの、もう一度ゆっくりと本を開いた。



   * * *



 とある世界に、ブロウザという青年がいました。

 ブロウザは好奇心旺盛で毎日元気に駆け回ります。素直で正直な優しい心の青年でした。

 彼の優しさは大地を越え、海を越え、種族を越え、自分よりも何百倍の大きさを誇る生き物であろうとも通じました。ブロウザは本当に優しくて強い、思いやりのある青年でした。


 ある日、ブロウザがある想いを託されて、森を懸命に走っていると大きな黒い物体を見つけました。

 ……これは何だろう?

 そう思いながらブロウザは黒い物体に触れました。すると突如として、彼は黒い物体に呑み込まれてしまったのです。目が覚めると、そこには見たこともない不思議な世界が広がっていました。さぁ、ブロウザの大冒険が始まります!


 ブロウザは見たことも聞いたこともない世界で一生懸命頑張りました。

 頑張って頑張って、ついに運命的な出会いを果たします。その世界における、最強の用心棒と親友になれたのです。ブロウザと用心棒は長い道のりの末、その世界の王と謁見することができました。王は言います。

 ……我が命を狙っている悪の大王を倒すことができれば、汝を元の世界へ返してやろう。

 ブロウザと用心棒は、悪の大王を打ち破るため、新たな旅に出かけます。さぁ、ブロウザの大冒険は新展開を迎えます!


 壮絶な戦いを終え、ようやくブロウザと用心棒は悪の大王を倒すことができました。王は二人に感謝して、恩赦を与えます。

 ……よくぞ倒した! 褒美に汝を元の世界へ渡る秘術を授けようぞ。また、それとは別に、もう一つ汝が望む秘術を授けよう。望むが良い。汝はどのような秘術が欲しいのか。


「では、────の秘術をお与えくださいませ!」


 ……ふぅむ、よかろう。難しいが、汝の世界では叶うかもしれぬ。

 そぉれ受け取れい。これが異世界を渡れる秘術と、────の秘術ぞ!


「ありがとうございます!」


 ついに、ブロウザは元の世界へ帰れる方法を見出したのです! いよいよブロウザの大冒険も終わりを迎えようとしています。ブロウザは元いた世界へ帰る前、用心棒と最後の言葉を交わします。


「今まで本当にありがとう。とっても楽しかったよ!」

「礼を言うのはこちらさ、友よ」

「ううん、違うよ。キミがいたからこそ、僕は元の世界へ帰れるんだ!」

「そうか。なら二人で協力した結果なのだな」

「そうさ!」

「では、最後に問いたい。友は俺にしてほしいことはあるか?」

「そうだね。うん、なら、一つだけ」

「聞こう。如何なるものであろうとも、必ず叶えてみせよう」


 用心棒は誇らしげに胸を張ります。ブロウザは嬉しそうに、けれど切なそうに言いました。


「いつの日か、そう、いつの日か……。キミを心から必要とする者が現れるかもしれない。どんな方法であろうとも、キミの力がどうしても必要で、命を懸けてでも必要とする者が現れるかもしれない。その時、どうか、お願いだ。その者を……助けてほしいんだ」

「友よ。すまないがもう少しわかりやすく言ってくれ」

「うん。御免ね。これは起こるのかどうか非常に難しいものなんだ。稀有なことなんだ。でも、もし……もしも起こったら、きっとキミの力が必要になる。だから……!」

「わかったよ。誓おう友よ。この先、俺の力を心から求める者が現れたなら、必ず助けてしんぜよう」

「あぁ、ありがとう! これで僕は、元の世界へ帰れるよ!」


 ブロウザは、王から授かった秘術を使い元の世界へ帰ることができました。そして帰った直後は、異世界へ渡る前に託されていたある想いも無事成し遂げて、彼は生涯を終えたのです。こうして、ブロウザの大冒険は終わりました。


 ブロウザは信じています。

 これからどんなことが起ころうとも、異世界の友は約束を守ってくれると。

 だから大丈夫。

 きっと友なら、たとえ世界が異なろうとも、世界を渡れる門を繋ぎ、約束を守ってくれるだろう。

 おやすみブロウザ。

 きっとその想いは、運命の名の下に、この世界へ紡がれるだろう。



   * * *



 浅く息を吐いて本を閉じる。

 一体全体、何故これが他国の図書館の謎を一つ解明せよ、に至ったかは全くわからない。

 それでも、僕はやらねばならないのだ。

 アズール図書館の司書になるために。

 新たな覚悟をもって、第二試練の幕が上がる。



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