第三章 登場人物紹介
【ご連絡】
今話は、第三章に登場する
ガイ王、ソランド、サイリス王女の人物紹介
(裏設定や小話、どうしてシルドを殺そうとしたのか等)であり、本編とは関係ありません。
興味のない方は飛ばされても大丈夫です。
ガイ・フォン・レイリック・アズール。
初代アズール王。
祖父の代から他国に侵略し領地を広め、彼の代でクローデリア大陸統一を果たす。祖父と父は戦死。
シルドの第三試練としては最大の壁となった人物。狂人。
シルド(謎のルカそのもの)を殺意むき出しで迫ってきたが、これには彼の青年時代が関係する。生まれた時より侵略国家であったアズールは、当然彼もまた戦場へ出ていた。
十歳を迎えた頃に“ルカ・イェン──魔統”を発現。元々戦闘能力はずば抜けていたこともあってか、数々の武功を上げる。己が強さを信じており、全てが思い通りになると信じて疑わなかった。
ある日、侵略した国を調査していた際、魔境と呼ばれる立入禁止の場所を見つける。その時のメンバーは、彼と将来を誓いあった女性に加え、ソランドや数人の仲間たちもいた。
“ルカ・イェン”を扱えたガイは興味本位で魔境へと入る。その際、周囲は当然止めるも、彼は自分より強い存在などいないと言って中へ入っていく。仲間たちは待機するわけにもいかず、仕方なく彼へ付いていくことになる。
結果として、彼らは「人ならざるもの」と邂逅する。
ただし、「人ならざるもの」もまた人間との出会いは初めてであった。だが、ガイらからすれば想像を絶するルカ濃度の魔境であるため、その場の空気に呑まれる。
また彼の“ルカ・イェン”も発展途中であり完璧には使いこなせていなかったため、あまりの膨大なルカの前に魔法制御を適切に行使することができなかった。
そして、全員を魔境におけるルカ濃度から守ることができず、将来妻になるであろう女性は最高濃度のルカに呑み込まれてしまう。
なお、「人ならざるもの」からすれば、ただただ人間と会話をしたいがため彼女に触れただけであった。しかし、“ルカ・イェン”で守られていない人間などひとたまりもなかった。結果は即死。
しかし、これで終わりではなかった。即死したその肉体を、人ならざるものは意思疎通できる人形として使用し始める。
ガイたちからすれば、ガイの許嫁が眼前で死んだ後、突如として立ち上がり、眼球が破裂しそうなほど膨れ上がった上に口だけ動き出す屍を見ることになる。
泣きながらガイはその場で相手を鏖殺。跡形もなく消し去り、魔境もまた“ルカ・イェン”で塵にした。
皮肉にも、この悲劇が“ルカ・イェン”の能力を最高度にまで引き上げ、魔法として完成させることになる。彼は元々変人であったが、まだ比較的まともであった。
しかし、ここから徐々に狂い出すことになる。
おかしくなる。
シルド(謎のルカそのもの)と出会った際も殺意むき出しだったのはそのためである。話し合いをするつもりなど毛頭なく、魔法軍事の半永久なる実験体として利用するつもりであった。
紆余曲折あったものの、ルカの君に対しては二代目に妨害され、さらに常時斬首の恐れもあって、彼女に王位を譲った(譲らされた)後は比較的穏やかに暮らす。
ただ、晩年は悪夢にうなされる毎日で、最後は苦悶の表情で死ぬことになる。殺めてきた者らへの後悔か、呪いの癒呪魔法を誰かから行使されたか、はたまた別のなにかか。
今でも彼の最期に対する議論は耐えない。ただ、この議論にあまり意味はない。全て正解だからである。
初期案は真面目な王の予定だった。ちょっと覗きが趣味の変態ちっくな王様だった。あと、細胞分裂できる予定だった。作者がかっこいいと思ったから。
※ ※ ※
ソランド・コルケット。
初代アズール王の親友にして、建国後、アズール二大公爵とするコルケット家の当主。
彼の場合、母国をガイの祖父に侵略された経緯がある。当時は暗殺する目的で彼に近づいたが、ガイと接しているうちに暗殺よりも彼側につき旨味を吸った方がいいと判断。当時の主であった父を秘密裏に暗殺し、コルケットの新当主として君臨する。
ソランドもまた、ガイと共に「人ならざるもの」と邂逅した一人である。
ここで彼にとって転機が訪れる。
ソランドは当時、即死した女性に熱情なる片想いをしていた。そのため、不慮の事故とはいえ、想い人を殺したガイに対する恨みは計り知れなかったが、徐々に壊れていくガイを見て、笑みをこぼす自分に気づく。
おかしくなり、壊れていく友を、このまま真横で見続けたいという歪んだ欲が彼に生まれた。
また、この時に女装の趣味も彼の中で目覚める。選ぶ服は想い人が生前に着ていた服と極めて似ており、この服を着ることによって、彼女と一緒になれるという錯覚と愉悦を混ぜたような感情に溺れていた。
彼女と一体化できる。自分が彼女の中に入っていく。着れば着るほど、ますます彼女へ近づける。そのうち混ざり合い、溶けて、完全に一緒になれる気がした。
定期的に女装しては、叶わなかったあの人との二人きりの時間を享受することになる。
ガイと共に王政を行っていたものの、彼が王位を娘に譲ると自分も娘に当主を譲り、隠居する。
その後、自ら考案した創造魔法を広めるため各地へ周るなど魔法の復興事業にも貢献している。
ただし、それは、王位を譲ったガイは何もせず自堕落な毎日を送っていた姿を見て、自分はこんな役立たずよりも何倍も優れていると自画自賛するため行動していた。
六十歳を超えた辺りから、彼の中では常に想い人の影があり、もしあの時ガイから彼女を連れ出していれば今と違う人生が待っていたに違いないと考えるようになる。
また、認知症も酷く進行し独りでに歩くようになる。さらに複数の脳の病気に見舞われ、理性を抑える力は欠如していき、残ったのは想い人を殺したガイへの妬み、恨みだった。最期は想い人との馴れ初めを話すだけの生き物となり、この世を去る。
ちなみにガイの許嫁にしてソランドの想い人は、ソランドと初めて会った瞬間に彼のドス黒い本性を見抜いていた。
そのため、仮に彼女が生きていても、ソランドの想いが成就することは決してない。
初期案はロリコンで女装好きで男好きで常に尻を半分出す人だった。結果として女装だけが残った。
※ ※ ※
サイリス・フォン・ファーク・アズール。
二代目アズール王。
彼女もまた戦乱の世に生まれた。狂人真っ盛りの父と、比較的穏やかながら怒ると修羅のようになる母に育てられる。
実のところ、彼女以外にも王候補はいたのだが、いずれ王になるのは自分だと確信していたので、王様になった後のことばかり考えていた。
ただし問題もあって。
このままでは、己の野心しか考えていない父が原因でアズールは崩壊すると直感する。ならば少なくとも国民の方に力を入れ、身内には魔王のように振る舞った方が後々有益であると独自に判断。
悪政をすれば反乱を招き、それに乗じて内部でクーデターの起きる可能性はあるが、善政をすれば少なくとも反乱はなく、あとは自分を引きずり下ろそうとする無礼者を一人残らず消しされば問題ないという極論に至る。
なお、この時まだ彼女は6才であった。同年、“ジャラン”を発現する。その後は彼女の目的を達成するためクローデリア大陸全土を周りマーキングを行う。
さらに自分へ絶対忠誠をする者らを満遍なく吟味し、唾を付けておいた。十六歳の頃には皆に隠していた“ジャラン”初お披露目として父親の首をチョンパした(母には事前報告済み)。
もともとこの魔法は点と点で座標を指定し、繋ぐ・結ぶ魔法として生まれている。つまり、どんなに遠くにいる相手でも座標として指定すれば意識を繋ぐことも可能であった。
また、有機物であっても山や川であっても繋ぎ合わせることができる。「繋ぐ・結ぶ」ことに特化した魔法である。
これは彼女が、壊れながらも苦しむ哀れで儚い父を見て、皆から見捨てられるかもしれないが、せめて自分だけは見捨てずに父と繋がっていたいと願う彼女の強く熱い想いから生まれている。
ただし、そこはガイ王の娘であり、しっかりと「狂」の部分も受け継いでいた。
繋ぐ・結ぶということは、切る・解くことと表裏一体であるため、それを首チョンパへと改悪した。重ねていうが、本当は意識を繋げてお話できるといった温かい魔法である。
なお、現在シルドたちのいる時代では毎年恒例で、アズール春の首祭りが開催されている。
これは戦で武勇を立てた初代アズール王が敵の首を掲げたことからきているとされているが、事実は全く別であるのは言うまでもない。
何故彼女の斬首癖が世間に広く認知されていないかというと、三代目と四代目がちまなこになって彼女の首狩りを残している書物を消していったのが原因である。
ただ、やはり全てを消すことなど無論できず、しっかり残っている。“ジャラン”を発現した理由からもわかる通り、本来は人との繋がりを強く求める女性であり、生に対して並々ならぬ執着心も併せ持つ。
彼女は死を何よりも嫌悪していた。繋がりを大事にする彼女にとって許しがたい概念だったのだ。
死は生への繋がりを、自分が求めていないにも関わらず、無条件で切ってくる存在である。そんな世の不条理と、自分すら死に対しては何も抗えないことに怒った。そして心より恐怖した。
死にたくない。生きたい。何とかして生きたい、何としても生きたい、と異常なまでに生へ執着する。世界との繋がり、生との繋がりを永遠に保っていたかった。
ある意味では彼女も立派に狂っていたのだろう。この点に関しては親子である。そんなある日、生を求める彼女のもとへ、謎のルカそのものとの出会いが訪れる。サイリスにとって運命の歯車が大きく動き出す。
なお、第三章でシルドはガイ王、ソランドに“女神胎堕”を発動し辛勝しているが、史実はそんな上手くはいかなかった。
ルカの君は抗う術なく、ガイ王とソランドに半殺しにされたのだ。散々な魔法と暴力を全身に浴びせられ、拘束される。
そのまま魔法軍事施設の重要なサンプル兼エネルギーとして使用されていた。ガイ王らの行いを知った彼女は単身乗り込み、百を超える斬首を行った後、ガイを完膚なきまでに屈服させる。その時の怒りは大地を揺るがした。
史実では、謎のルカそのものはガイらに勝てなかったのだ。つまり、シルドの選んだ道は、実は間違っていたのである。
しかし、第三試練の内容には真実と完全一致するよう求められているのは「司書」であり、その過程までは求められていない。
これは過程まで完全一致するのはさすがに不可能だろうと考えたサイリスの配慮である。
なお、永遠の命となったことには心から喜んでいる。今でもそれは変わらない。毎日楽しく過ごしている。気づけばもうすぐ建国600年だ。今日もサイリスは笑顔で過ごしている。
初期案では、彼女の設定は極めて地味であって。いつの間にか斬首大好きウーマンになっているが、初期では「優しい司書」のイメージを具現化させたような女性であった。
物語を書いているうちに彼女だと少し物足りないと作者が考え“ジャラン”の出力をあげ、今に至る。
結果、ある意味ではガイ王より濃い登場人物となっている。ただ話し方は初期案から変わっていない。
趣味は演劇鑑賞。稽古もかかさない。頑張り屋さんだと自負している。演技にはちょっと自信あり。なお、ステラからは鼻で笑われている。
※ ※ ※
【おまけ】
上記三人の紹介の際、初期案も一緒に掲載した。
いい機会なので、現在本編において、アズール図書館の近くでシルドを待っている五人の初期案も記載する。
ジン 悪の親玉
ミュウ 村人
モモ 海賊の娘
リリィ 配達員
リュネ 薬師
全員当初の案とはかけ離れた存在である。
初期案と唯一変わっていないのはシルドのみであったりする。
何故、彼は古代魔法を手に入れたのか。
何故、前世の記憶があるのか、
何故、魂が二つあるのか。
古代魔法“ビブリオテカ──一期一会の法魔”とは、そもそも何なのか。
一期一会の「魔法」ではなく、「法魔」としているのは何故か。
一話から記されたそれらをまとめる集大成を最終章としている。
最終話まで残り数話ではありますが、最後までお読みいただけたら幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。