表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/181

極長会議




   ★ ★ ★

   ☆ ☆ ☆

   ★ ★ ★




 大園都の中心には、クロネア人なら知らぬ者などいない、気高き塔があります。

 名を王芯。私の主である、シェリナ・モントール・クローネリ様の住まわれる塔です。


「いつ見ても美しく力強い塔……。威厳の極み」


 深夜に差し掛かった時刻、私は王芯へ足を踏み入れる。本来ならこんな時間帯に王芯へ来ることはありません。しかし、シェリナ様から緊急集令がかかったのだから話は別です。

 ただ、アズールと戦争する時と違い「出れる者だけで可」とするものでした。仕事や明日早朝に出発する予定の者は無理に出なくていい、とのこと。私たちへの配慮でしょう。


「私なら、どんな仕事をしていても馳せ参じますけども」


 王芯の中央にある雲に乗り、最上階へ移動する。最上階はすり鉢の形状を模した広間だ。何十回もここ来ていますが、未だに慣れません。本当に私のような若輩者が来ていいのか、萎縮してしまう雰囲気があるから。

 ……おや。てっきり一番乗りは私かと思っていたら、どうやら二番手のようです。先着は第十一極長『影人』、シャドゥ・ブレィさん。蝋燭のような出で立ちなれど、王女への忠誠心は私と引けを取らない。信頼できる頼もしい同僚です。


「さすがブレィさん、お早い。既に今回の招集に関する内容も知っているのですね」

「いいや」

「……え?」

「影を通り一早く参じたものの、私も知らされていないのだ。てっきりルェンなら知っていると思っていたが……」

「とんでもない。私も急ぎ到着したばかりです」


 ううむ、と険しい表情をするブレィさん。彼を通して集めていないのなら、かなり緊急を要するということだ。

 シェリナ様は私たちに情報を伝える際、ほとんどのことをブレィさんを通して伝達している。彼に任されば間違いはないという信頼からくるものだ。いいなぁ……。


「私たちへの配慮だとしても、急ぎなのに『出れる者だけで可』とするのは少々変ですね」

「あぁ。王女の性格上、急ぎの伝達事項があるのなら『全員招集』を発令する。アズールと戦争した時のように」

「それをしていないということは?」

「えぇ、えぇ。急ぎだけれども国家的な重要案件ではない、シェリナ個人の伝達ということでしょう。素敵なことね」


 振り返ると、五人の極長が立っていて。

 第四極長『妃人』、フレイヤ・クラメンヌ。

 第七極長『牙人』、ウルフェイド・バミュータ。

 第十極長『聴人』、ポポル・プレナ。

 第十二極長『紙人』、ミカ・インシェルン。

 第十三極長『梟人』、マヨネーズ・カタクリコ。


 ウルフェイドは相変わらずポポルと一緒ですか。狼の魔物のくせに兎に惚れているのです。気付いていないのは当人らだけで、周囲にはバレバレ。

 ミカは今日も紙で作った模造服を着こなしていて、私のようなガチガチの仕事着を着た女と違い、風情ある美しさが垣間見れる。いいなぁ、私も一着買おうかなぁ。でも似合わないだろうし。頑固者にはこっちの方が似合ってる、そんなことはわかっています。でもなぁ……いいなぁ……。


「どしたぃ? ルェン」

「いえ、何も」

「ルェンは心と体を無理に離しているからねぇぃ。言いたいことがあるのなら、正直に言ってもいいんだよ?」

「違いますよ。今後のクロネアについて思いを馳せていただけです。常に向上心を持って職務に当たらねばなりませんから。ミカが心配することなんて私にはありませんよ」


 我ながら素晴らしい返答です……!

 意外と子供っぽい、などとは悟られぬようにしなければなりません。そんなことを考えていたら、後ろから気配がして。振り返ると、火の髪を宿した女が──


「えぇ、そうね。ルェンはミカの服を見て羨ましいと思っただけよ。一着差し上げたらどうかしら」

「フレイヤァ!」

「やっぱりそうかぃ」

「いや、違いますって!」


 フレイヤめ……! 相も変わらず魂を視る女です! 素知らぬ顔で鼻歌を歌っている鳥を睨め付けていると、つぃつぃと服を軽く引っ張られました。

 そちらへ目を向ければ、ウサギ耳のポポルがジィッとこちらを見ていて。「私も買いたいから一緒に」と訴えてきているのが容易にわかる表情をしていました。


「……わかりました。今度、ポポルと一緒にお邪魔させていただきます」

「やった!」

「はいよ。色は何がいい?」

「そうですね。あ、フレイヤも一緒に来るのですよ」

「あら、私も混ぜてもらえるの?」

「当たり前です。私の心を暴露した罰です」

「ウフフ、えぇ、喜んで」


 何の服を選ぼうか話し合っていると、遅れて二人の男が入ってきました。第八極長『爆人』、ジオン・エスプリカ。第九極長『音人』、ラグノ・セルンだ。

 確か、戦争ではルーゼン様と相対したそうで、かなりの激戦を繰り広げたとか。私はあっさりジン・フォン・ティック・アズール殿に敗れた手前、少し恥ずかしい。


 そして最後に第一極長『魔人』、アニー・キトス・ウーヌが参上する。戦争の一件で暫く眠っていたものの、昨日の昼に復活した。元気そうで何よりです。

 ただ、「眠っていた三日間のご飯を今から食べる」と言い出して満腹になった後、再び寝たのはどうかと思いますが。今も寝ぐせがついている。まぁ、彼女は3才だから仕方ないのかもしれない。まだまだ彼女は強くなる。途方もないほど強くなる。独特のキヒヒ笑いは治さないといけませんが。


 アニーが到着してから数分後、奥の部屋からシェリナ様が現れました。

 すぐさま皆の態度が変わり、視線を我らが姫君へ。ブレィさんが手元の書類を確認しながら、皆に聞こえるよう話します。


「『怪人』ワンラーは王都へ収監されているから不在として。……おや、『裸人』と『舞人』がいませんね。いつもの全裸体操の時間でしょうか」

「いや、違うぞシャドゥ。私が彼らには伝達していないからだ」

「そうですか。でしたら、これにて全員集まった形となります」

「そうだな。皆、突然の招集すまなかった。どうしても伝えたいことがあってな」

「あぁん? またアズールと戦争しようってか、姫様」


 ウルフェイドの口癖である「あぁん?」というふざけた口調は治りようがありませんね。ポポルにお願いしてみるのもいいかもしれません。きっと直ぐに改善するでしょう。ただ、ポポルはウルフェイドを怖がっているので話すのも難しいでしょうか。


 実際はかなり繊細で神経質な男なんですけども。最上階へ来た途端、三百はあろうかという椅子の向きを全て正しい方向へ直していましたし。無言で黙々とやっていましたね。

 いつもは相手を威圧する風貌をしていますが、内面は几帳面な男なのです。あの「あぁん?」とド派手な見た目さえなくなれば随分とポポルも心を開くのですが。


「違うぞウルフェイド。もっと今後のクロネアに係る事項だ。ただ、私個人がそう思っているだけで、違うかもしれないが」

「キヒ。王女、珍しく歯切れが悪いね。キヒヒ」

「うーん、まぁな。だから『来れる者だけで可』としたのだ。ほら、ちょっと自信がなくてな。……皆の意見を聞きたいと思って」


 王女の言葉を受けて、私たち全員が驚いた。

 自信がない。確かに姫様はそう言った。私たちに心の内を吐露したのだ。

 今まで判断が難しい案件は無数にあった。しかし王女はどんな案件であろうとも臆することなく威厳のある判断を下していました。……きっと、心の中では葛藤や不安があっただろうに、一切見せることなく理想の王女を貫いてきた。私はそんな姫様に憧れ、崇拝し、少しでも力になれればと奮闘してきたものだ。皆、大小あれどそう思ってきたはず。


 同時に、一身で全てをやろうとするシェリナ様を案じてもいました。

 姫様は何から何まで背負おうとし過ぎなのです。いつか壊れてしまうのは必至でした。けれど、私はもちろん……フレイヤですら助けることはできなかった。支えることはできても、救うことは叶わなかった。


 そんな姫様が、今、自信がないと少し恥ずかしそうに仰った。

 皆の意見を聞きたいとも。

 今までのシェリナ様なら絶対に、絶っ対にしなかったこと。フレイヤを見ると、母親が子を愛おしむような目でシェリナ様を見ていた。私の視線に気づけばこちらへ顔を向け、優しく微笑む。つられて私も笑った。


 これは良いことなのだ。人によっては弱くなったと言うだろうが、私は違うと思う。思えば、ここ数日は姫様の笑顔が増えたようにも感じます。シェリナ様なりに、前ヘ進もうとしている。私たちがやるべきは、その進みを少しでも軽いものとして差し上げること。


「えぇ、えぇ、素敵なことね。だったらシェリナ。私たちが貴方の道を照らしましょう」


 フレイヤが優しい声色で添えながら、椅子に座る。皆もつられて、座ろうと移動する。

 あの能面なシャドゥ・ブレィさんですら笑顔だ。ちょっと泣きそうな顔もしている。周りを見渡せば、皆も笑顔だ。……そうだ、私たちの望んできた未来が、今ようやく訪れたのだ。ならばここで期待に応えねばなるまい。極長として、全身全霊で事に当たるのだ。

 シェリナ様の相談が始まる。

 暖かい雰囲気の広間。

 和やかな夜。

 憩い。

 皆が座り、改めてシェリナ様の方を見て、彼女の口から発せられる相談を受けるのです。



「『裸人』が服を着ていた」



 世界が一変した。




   * * *




 聞き間違いではないでしょうか。私の耳が一時的に機能を停止したのかな。今、シェリナ様はあのナクト・ヴェルートが服を着ていたと仰った? いやいやいや、そんな馬鹿なことが起こるわけが。……本当に? 本当にあの『裸人』が……。


≪服を着ていた!?≫


 その場にいた全員が、異口同音に驚きの言葉を発しました。

 皆が皆、信じられないという顔をしている。それもそうだ、私たちが知っている全裸は一度たりとも服を着たことなどなかったのだから。

 顔を合わせ意見を交換する極長たち。静かであった広間は一気に話し声で満たされます。私も近くにいた『妃人』に話しかけます。


「フレイヤ、彼が服を着ていた姿を目にしたことはありますか」

「ないわ。入学の儀ですら全裸で出席し拘束されていた。あれは大きな事件だったわね、えぇ。同じ学年だった貴方も見ていたでしょう?」

「はい。先輩方の攻撃にも一切動じることなく平気な顔で素通りする彼は脅威でした。私も極長になって再三『服を着ろ』と言ってきましたが、『服とは何かな』と返ってくるだけで……。おそらく、誰も彼の服を着た姿など見たことがありません。天地がひっくり返らない限り、起こりえなかったことです」

「諸君、落ち着いてくれ」


 王女の一声で静粛する。

 一体全体、どんな事象がきっかけでそんな驚天動地が起こりえたのか。誰も予想できない疑問に、シェリナ様が解答を教えてくれました。


「私も今日見るまでは信じられなかったのだが、事実だ。ナクトは服を着ていた。あまりの衝撃に最初はナクトなのか疑うほどだったよ。しかし、確かに服を着ていた」

「シェリナ様」

「何だい、ルェン」

「その原因も知っておられるということですか」

「あぁ。彼は──、恋をしていた」


 ……。

 …………ん?


「故意?」

「恋だ」

「恋?」

「あぁ」

「……? ────ッ!?」


 極長らの絶叫が木霊する。

 王芯が揺れるのではないかという声量の叫び。私の声も当然入っている。あまりの衝撃に理解が追い付かない。え、どういうことなの。あの歩く変態が恋をした? 恋をしただと!? ありえません! ウルフェイドが椅子から荒々しく立ち上がって。


「そりゃ何かの間違いだろう!」

「事実だ」

「あいつ、原生生物じゃなかったのかよ……。そのうち単独分裂すると思ってたぜ」

「立派な人間だ。諸君、もう一度言うが落ち着いてくれ。ナクトは恋をしている。そして恋をした相手から『服を着ろ』と言われ、それを受け入れた形となったようだ」


 絶句。

 声が、出ない。

 私が言っても「服とは何かね」と返したくせに何だその順応っぷりは! ……いや、その程度のことは大したことではありません。あの全裸を巧みに操れる女人が現れたということが問題です。信じられない、驚天動地どころか世界反転だ。

 ただ、このことがわかった以上、シェリナ様が私たちを招集した理由もわかった。ナクトが服を着るようになったということは……!


「王都へ連れていけますね!」

「そうだルェン。私やフレイヤ、ルェンを始め今年で学園啓都を卒業し、王都へ行く者の中にナクトも入っていた。しかし全裸ゆえ中々現実的ではなかったのだ。しかし今は違う。服を着ることが出来た以上、問題なく彼を王都へ連れていける」

「あいや、確かにナクト殿は全裸以外を除けばぁ、実に優秀な人物だからねぇぃ。災害で紙の仕入れが悪くなった際も独自の情報網で一気に解決したくれよぃ。あの時は、紙屋として助かった」

「わ、私のウサギ耳も夏にやられて不調だった時も、腕の良い医者を紹介してくれました」

「俺の魔術“炸火の炎眼”もナクトさんの助言で完成した経緯がある」

「あぁん? 何だよお前らあの全裸に助けられてばっかじゃねーか」

「えぇ、えぇ、素敵なことに。ウルフェイド、貴方の極長推薦も実は彼なのよ?」

「はぁ!? マジかよ、俺全裸のおかげで極長になったのか」


 ……確かに、私も彼に助けられたことがある。まだ極長に成り立ての頃、先輩方と上手くいかず、裏で問題を起こされ全責任を私に擦り付けられようとした際、颯爽と現れた彼が犯人を特定し事件を解決してくれた。ナクトがいなければ今頃、私はこの場にいなかったかもしれません。

 ……そうだ、皆、何らかの形で彼と関わり、助けれられ又は手伝ってもらったことがある。恩義を忘れぬ我らではない。この機会に彼の力になるのも自然な流れかもしれない。


≪でも全裸だしなぁ……≫

「諸君、確かにナクトは全裸だが、今回の件で『表向きでも真人間』にすることが可能かもしれない。それさえできれば後はこちらのものだ。彼の実力は王都でも充分に発揮されるだろう」

「キヒ、となればだよ王女。次の問題はあの全裸を制御できる女にあるでしょ? ナクトの恋する相手が誰なのか教えてよ」

「あぁ。現在クロネアに留学中のアズール人、イヴキュール・アシュランだ」


 イヴキュー……、え。

 ん?

 イヴさん?

 何で!?

 ……まさか、先の戦争で。


「そうだルェン。察しがよくて助かるよ。いつも感謝している」

「いえ、そんな……」


 シェリナ様に誉められた。

 やった!


「嬉しそうね、ルェン」

「心を視ないでください」

「こほん。諸君、ナクトは先の選抜集団代理戦争でイヴュキュール・アシュランと相対。ほぼ相打ちになった形であるが、彼女に敗北した。その時の彼女の決して諦めぬ精神と、姿、心に惚れたようだ。ルェン、イヴュキュール・アシュランがどういう人物なのか教えてほしい」

「はい。一言で言うと、彼女は素直な人です。喜怒哀楽を体現した女性というか、思ったことをそのまま顔に出す方ですね。また、精神力が並ではありません。自分の心に反することは決して許さない。悪や不義を滅し、正義や善を愛する女性です」

「そういえば、戦争終結した時に見たあの子の魂、滅多に見ないほど綺麗だった。身体と魂が同じ反応をしていたわね。久しぶりに見たわ、あぁいう子。ナクトが惚れてしまうのも無理ないかも」

「だったら話は簡単だ!」


 狼の魔物であるウルフェイドが立ち上がり、勝ち誇った笑みを浮かべて周囲を見渡します。


「そのイヴキューなんとかって女に、『ナクトがお前に惚れてるぞ。お前はあいつのことどうなんだ』って聞けばいいじゃねーか。そんで良い返事だったら、ナクトに言えばいい。簡単だな!」


 シェリナ様を含めた女性陣全員から重い溜息が漏れる。『紙人』ミカや『妃人』フレイヤは舌打ちまでしていた。

 男性陣もまた顔を引きつらせ、ウルフェイドをジト目で見つめる……。馬鹿じゃないのかこの狼。


「な、何だよ」

「ウルフェイド。一人の女の子に向かって、いきなり我々クロネアが詰め寄り『ナクトが貴方のことを好きだ。貴方はどうなんだ』と聞いてきて、良い返事をすると思いますか」

「……え、と」

「女性にとって自分と彼の問題なのに、全く無関係の外野がしゃしゃり出て来て嬉しいと思うわけがないでしょう。どういう頭をしているのですか」

「キヒ、無能」

「えぇ、えぇ、愚者ね」

「ぁいや、信じられないねぇ」

「貴殿のことは評価していたのだがな、残念だ」

「姫様まで! ……ちょ、待てよお前ら! 俺そこまで変なこと」

「バミュータくん」

「あぁん!? ……あ、ポポル」

「──少し黙ってて」


 会心の一撃。滅多に見れないポポルのキレ顔にウルフェイド・バミュータが撃沈する。ふらふらと歩きながら椅子に座り、ガクッと項垂れる。

 その彼の横へこそっと座り、これ見よがしに慰めるマヨネーズ・カタクリコ。この機会にウルフェイドに恩を売っておこうという算段でしょうか。マヨネーズの顔面に正拳が叩き込まれ、気絶する。何しに来たのですか彼は……。

 その様子を傍観しながら、ずっと黙っていた第九極長『音人』、ラグノ・セルンがゆったりとした口調で語り始めました。


「ウルフェイドを擁護するつもりはないけれど、実際のところイヴュキュール・アシュラン嬢がナクトさんをどう思っているのか確認するのは大事なことだと思う。普通に考えて全裸の男を好きになる女性はいないはずだが……。難しい案件ではなかろうか」

「えぇ、えぇ、その通りよ。シェリナ、私たちが彼女自身に接触するのは禁物。まだ始まってすらいない恋仲を邪魔するなんてどんな天罰を受けるても不思議じゃないわ」

「当然だ。ゆえに我らとしては何とかイヴュキュール・アシュランをクロネア側に来てくれないか模索しつつ、彼女とナクトの関係を見守るのが現在の最善手であろう。同時に、出来ることなら外堀を埋めておきたい。ルェン」

「はい。姉のユミリアーナ・アシュランと、兄のシルディッド・アシュランがいます。姉の方は今年卒業後、アズールに帰る予定で卒業まで時間があります。しかし、兄の方は明日帰国することになっていますね」

「男性諸君に問う。全裸の義弟が出来たらどう思う?」

≪嫌です≫

「だろうな。火急的案件は、そこであろう」


 いろいろと話が行ったり来たりしたけれど、シェリナ様がこの場へ私たちを呼んだ理由を察する。つまり、明日帰国するアシュラン様に少しでもナクトの良い面を知ってもらいたい。将来イヴュキュール様をナクトと恋仲へするための布石を打っておきたいのだ。

 難題に他ならない。

 というか無理です。

 自分の妹が全裸と付き合うなど承認できるものだろうか。私だったら嫌だ。嫌すぎる。しかし、ナクトは全裸を除けば本当に優秀なのです。時間はかかるものの、彼を見ていればその素行の良さは随所に見られるはず。惜しむべきはそれを見る機会がないということ。


 それでも、ナクト最大の汚点である全裸を解消できる機会が巡ってきた。これを逃したくない。また、アシュラン様もナクトの全裸癖が解消されれば妹の恋仲も応援してくれる……かもしれない。

 私たちがやるべきは、その話し合い。

 どうすればアシュラン様にナクトの良さを伝えることが可能か。時間は限られている。責任重大です。


「まぁしかし、一朝一夕でどうこうできる問題でもないのは事実だ。兄であるシルディッド・アシュランに対して、今回の件は上手くいけば御の字と考えよう」

「えぇ、余裕をもって話し合いましょう。そういえば、美味しい飲み物が手に入ったのよ。皆で飲みながら作戦を練るというのも素敵なものではないかしら。皆に配るわね」


 確かに今回の件は非常に難しい。明日までにアシュラン様にナクトに対して少しでも評価してもらえるよう動くのは至難! しかし、シェリナ様がそれを望んでいるのも事実! そして最もアシュラン様と交流が深いのは……私!


 ならばせめて私だけでも任務を達成できるよう全力で挑むことが重要です。皆と連携をとる暇はないでしょう。私だけで、誠心誠意シェリナ様の想いを実現できるよう頑張らねば。


 あ、これ美味しい。ドンドンいけちゃう。落ち着くのだ、まずは冷静に状況を分析するところから開始しなければ。よし、「最初にどういう話から始めるか」を考えよう。「全裸いります?」なんて言ったものなら私のクビを飛ばす勢いだ。慎重に考えねばばば。ばぁ。美味しいなこれれ。らららーん。ねばば。よいしょこれ頑張るけど大変頑張る私だからシェリナ様うん期待で、えと、うん。やらねばぁ。



「あら、どうしたのシェリナ」

「……フレイヤ」

「何かしら? 我らが愛しき姫よ」

「これ、お酒じゃないのか」

「えぇ、素敵でしょ」

「うーん、まぁ偶にはいいかもしれんな」

「素敵。それに、本当は『皆と楽しく雑談をしたかった』が本音だろうから、こっちの方がいいと思って」

「……バレていたか」

「当然。シェリナのそういうところ、大好きよ」

「度数は高い?」

「そうね。お酒に弱い子はあまり飲まない方がいいでしょう」



 やらねばぁ!



   ★ ★ ★

   ☆ ☆ ☆

   ★ ★ ★




「……というわけでぇ! あシュらン様ぁ」

「はい」

「義弟いるぅぅ?」

「いらない」







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 極長たちの全裸さんへの扱いにニヤニヤ 服を着た全裸さん(?)、シルドくんもいつか受け入れてくれるのか 頑張ってほしい あとルェンさん可愛い
[良い点] 全裸が服を着たこと [気になる点] 全裸といえばアズールにも全裸好きの騎士団長がいたような…? [一言] なんだかんだで仲がいい極長達にほっこりしました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ