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第二の都市 「樹形」




 朝。

 ……とんでもないことが起きた。ミュウがいない!

 馬鹿な、どうなっている。

 朝から彼女の姿はなく、どこを探しても不在だった。モモと目で合図して、二人で廊下へ移動する。


「どこを探してもいない。兄のピッチェスさんは?」

「いないわ。やっぱり、二人してシェリナ王女のいる大園都へ向かったようね。リュネが『シェリナ王女からお茶を誘われたようで、朝早くから出かけられた』と言っていたから……。でも、ピッチェスさんまでいないのは変よ」

「……それって」

「えぇ。既に読まれていたとしか考えられない」


 顔を見合わせ、唾を飲みこむ。信じられない。こちらの行動を先読みしての先手。頼みの綱であるミュウ・コルケットは兄と一緒に出掛けてしまった。いつ帰って来るかわからないが、もしジンが関わっているのなら、夜遅くまで魔法の館に戻ることはないだろう……。

 まさかこんなことになろうとは。今までのジンならドドンと前に立ちふさがって、もしくは偶然を装って現れるのが通例だった。ミュウに対し先回りしての行動はなかったはずだ。


「なら、皆に協力を仰ぐしか」

「駄目よ。今日は皆、それぞれ思い思いの行動をしている。ジン王子に関しては、ミュウだからこそ頼めたことなの」


 ……うん。確かにそうだ。

 モモの言う通り、今日は皆、ウチの姉妹以外は最後のクロネア観光を楽しんでいる。

 レノンとリュネさんは、二人して朝早くから観光へ行っている。家族や執事科にいる仲間たちへのお土産巡りと、久しぶりのデートをするようだ。リリィ、ユミ姉、イヴは三人で一日遊びまくるという。夜遅くまで買い物と外食を堪能してくる予定だ。そしてミュウとピッチェスさんは、何故か朝から大園都へ消えてしまった。


 僕の姉妹はクロネアへ留学中なので、アズールへは帰らない。ミュウは(ジンがクロネアへ長期滞在させようとしていた目論見を看破したため)クロネアにいる必要はなくなった。そのため僕たちと一緒に帰る手筈となっている。

 ……そう、僕らと同様、皆が想い出作りを楽しんでいるのだ。邪魔しては悪い。そう思っていると、モモの顔が少し青くなる。どうしたのだろう。


「待って。レノンくんとリュネに今日暇を与えたのは、ジン王子だった」

「……何だって?」

「確か、シルドくんが眠りについた時。ユミさんから『四日後に目を覚ますでしょう』と言われて、レノンくんがその間どうしようか迷っていた時だったの。ジン王子が『今のうちに用事を片付けておけ。シルドも目を覚ましたら自分のことをやるだろう。その時、暇になるだろうからお前らも適当に観光して来い』……みたいなことを言っていたと思う」

「ウチの姉妹とリリィについては?」

「一昨日、残り日数をどうしようかリリィとユミさん、イヴが話し合っていた時に『面倒な荷造りはさっさと終わらせて、アズールへ帰る前日に思い切り遊んでくればいいじゃねーか』と言っていたわ」


 ……なるほど。


「つまりは」

「計画的犯行ね」


 僕とモモは昨日の晩に「ミュウへの助力」を決めた。もしあの場にジンがいたとしても、とてもじゃないがシェリナ王女との面会を取り付ける時間などなかったはずだ。しかし今、ミュウはシェリナ王女のもとへ向かっている。さらには、皆の今日における予定を意図的に操作できるよう、数日前から画策していた。そして彼の策は見事に嵌り、今、館にいるのは僕とモモ、ジンのみとなっている。

 ジンは、僕が四日後に目を覚まし、次の日にモモと一緒に出掛けることを想定していたのだ。

 そしてその日、邪魔になる部外者を全員外へ追い出すことを計画し、着実に実行してきたというのか。そんなことが起こりえるとは……。自分のためにしか動いてこなかった人間だぞ。他人の行動を操るならまだしも、まさか「ミュウまで術中に嵌める」とは、正直驚きを禁じ得ない。


 今までのジンとは違う! 一体全体、何があった?

 選抜集団代理戦争でジンは何かを悟ったのか。今回のジンの言動は「他人のために行動している」ように見せかけている……! そんな、あいつが自分以外のために行動することを学んだというのか!? あの戦争で? ありえないだろう。誰だそんなキッカケを与えた奴は。とんでもない馬鹿だ!


「どうやら」

「私たちだけで、何とかするしかないようね」

「なら作戦を練らないと」

「作戦がどうかしたのかぁ?」


 後方より声がかかり。

 会話が中断する。否応にも中断させられる。二人で視線を交差させ、「来やがった」という合図を送り、一緒に声がする方へ目を向ければ。


「どうしたんだよ。朝食、冷めるぞ」


 善人の塊のような笑顔をした銀髪が立っていた。


「ジン」

「おいおい、顔色悪いぞ。体調悪いのか? だったら休まないと駄目だぞ。部屋で休むといいぞぉ。ぞぉー」

「全て計画通りか」

「計画? 何を言っているんだシルド。俺はお前のことが心配なだけさ。皆の幸せ、それこそ大事なことなんだ。俺たち……友達だからなっ」


 キラッ、とお星さまが目から飛び出るようなウィンク。

 テヘッ、とお茶目な顔もして。

 ……。

 下手なホラー小説なんぞ無限の彼方に蹴り飛ばしたくなるぐらいの恐怖を感じた。

 悪寒が走る。駆け巡る。光の速さで通過する。横にいるモモの全身から鳥肌が立っているのがわかる。この狂人、どこまで進化している。もちろん善の方向ではない、悪の方向である。


「そこまで覗きがしたいか、ジン・フォン・ティック・アズール」

「当然だ、シルディッド・アシュラン。俺の生き様だからな。此度の戦争でさらなる高みへと進化を遂げることができた。感謝する」

「感謝される覚えなんてねーよ。ただまぁ、こうなってしまっては仕方がないな。なりふり構ってもいられないようだ」

「クククッ、そうだ本気で来い。ありとあらゆる計画を練って挑んでくるがいい。俺はその策を悉く無に帰して、野望を成就してみせよう」


 善人笑顔をスパッと捨て、悪人丸出しの笑みを浮かべながら、ジンは部屋へ戻るため踵を返す。

 そんな狂人を後ろから見ながら、僕とモモは目を合わせ、頷く。奴は計画を練って挑んで来いと言った。それを全て看破してみせるとも。……なるほど、厄介だ。


「今日の俺は一味違う。わかるんだ、全身から溢れ出る活力ってやつを」

「そうか」

「ヒヒッ、それではな、お二人さん。夜に会おうぜ!」


 勝利宣言をし。

 美酒に酔った声をあげながら。

 我らが王子は部屋へ入り、扉を閉めた。

 よいしょっと、“ビブリオテカ”を左手に持って。


「“正六面体百面奇想・空間隔離奇術・転向煩雑奇塞”」


 行ってらっしゃい。

 逝ってらっしゃい。




   * * *




 特級・創造魔法、“正六面体百面奇想・空間隔離奇術・転向煩雑奇塞”。

 六日前、ルーゼンさんが魔法の館に侵入した際、ミュウが僕を守るために発動した魔法だ。実際はこれの餌食になったのは僕だけで、ルーゼンさんは一切ダメージを喰らっていなかったが。「閉じられた空間」でのみ発動し、内部の構造をしっちゃかめっちゃかにする悪魔のような魔法である。今思い出しただけでも恐ろしい。グルングルンごりんごりんガゴンガゴン回転するあの空間は、二度と経験したくないものだ。本当に。


「あああぁあぁあぁぁあぁぁぁあああああ!」


 こちらがどれだけの作戦を練ろうともジンは看破してみせると言った。

 なるほど、厄介だ。

 だったら「作戦を練る前」に行動すればいいだけのことである。

 しかも発動したのはミュウのお墨付き。彼女は対ジン用の魔法を人生を懸けて習得している。アズール王家に伝わりし継承魔法、“ルカ・イェン ── 魔統”はルカを統べる魔法であると聞いているが、創造魔法との相性は悪い。為す術なく、回転しまくる部屋の中で我らが王子は踊りゆく。逝く。


「おのれぇえぇええぇぇええぇええぇぇぇえ!」

「でも、夜まで回転させるのは少し可哀そうだ」

「そうね。欠片も同情できないけど」

「たぶん扉の取っ手に掴まって何とか踏ん張ってると思う。離したら身体中痣だらけになるのは必至だからさ。ジンの体力的に、きっと夕方まで耐えるかな」

「まぁ素敵。ジン王子を信頼しているのね」

「あぁ。僕たち……友達だからさ」

「ちくしょうめがぁああぁぁああぁぁぁああ!」


 朝食を終えて、二人で自分の部屋へ戻り荷造りに入る。

 レノンが一通り終えてくれていたようで、十分もかからないうちに終了した。玄関広間に戻ると既にモモはゆったりと紅茶を飲んでいて。夜までにはまだ時間がある。ジンの対策も終わった。だったら、当初の予定とは少し違うけど、朝から一緒に行動しよう。


「観光に行こうか」

「えぇ」

「皆、早いね。もう外出してるんだから」

「フフ、せっかくの旅行だもの。最後まで楽しまないと」

「出せぇええぇええぇぇえぇええぇぇぇえ!」



 “絨布の紺”に乗り、館を出発し大園都へ。学園啓都には複数の都市があり、最も大きい都市がシェリナ王女の住まう大園都だ。僕らはそこへ行く……も、本当の目的は別にある。大園都に入り学園啓都の名物とされる雲の乗り場へ移動した。そこには大きな列が出来ていて、目につく看板にはクロネア語で「乗り雲」と書かれている。

 操作は簡単、誰でも自由に動かすことが可能。ただ、一時間という制限があり自動的に消えてしまう。消えてしまった雲は陸雲の一部となり、また乗り雲として復活する。速度が遅い難点はあれど、料金は安く人気の雲である。


 今回乗るのはそれ……ではなく、遅い難点を克服した特別な乗り雲だ。その雲は目的地が最初から決まっているため余計な操作は必要なく、乗れば勝手に連れて行ってくれる乗り雲。

 一般の乗り雲は操縦主が自由に動かせるよう速度を犠牲にしているが、こちらの雲は操縦できない代わりに速度が段違いという。「乗り鳥雲」と呼ばれているそうで、僕らのような最初から目的地を決めている人にはこちらが人気なのだ。ちょっと言いづらい雲の名前だが、ご愛敬といったところか。


 モモと二人一緒に乗り鳥雲へ。……そういえば、大園都へデートした時はモモが突如として『二人乗りでお願いします』と言い出して驚いたものだ。さすがに二度の失敗は犯さんと今回は僕から言った。後ろで「フフ……」とフフフ笑いを再発している患者がいたけど気のせいだ。

 二人一緒に雲へ。

 思っていたより数倍早い乗り鳥雲に乗って、大園都を出発する。速度はかなりのもので、体感では時速70キロを走っているように感じる。グングンと進んでいく雲の上で、学園啓都の広大な風景を堪能した。


 樹木は太く、エネルギーに満ち溢れている。湖を通過している時は宝石のように光り輝く透明な水に思わず目を奪われて。時折湖そのものが盛り上がり、噴水となったり渦を巻いたりしていた。……何をしているのだろうか。よくわからない。後ろでモモから「定期的な運動を湖がしている」とこれまたよくわからない解説が返ってくる。そうこうしているうちに無事目的地が見えてきて。自然と顔がほころんでしまった。


「あれかな……!」

「えぇ!」

「でかいなぁ!」

「学園啓都・第二の都市『樹形』。樹木の形見。聞いていた通りの大樹ね。……だけど」

「どこに降りるんだろう」


 そもそもこの学園啓都を建造する際、クロネアが統治するセルロー大陸中から様々な物資や自然物をかき集めてきた。その際に最も有名だったのが「命を終えた大樹」である。樹齢は約19000歳。その大樹の規格外な大きさはセルロー大陸でも有名だったそうで、町一つを軽々と呑み込めるほどの規模であったという。


 今僕らの視界に映っている大樹こそ、かの大樹である。名を「樹形」。全長1200メートル(生きていた当時は2500メートルと記録されている。山の標高の間違いではなかろうか……)にも及ぶ世界一大きい樹木は、死した後も都市として復活を遂げた。

 「樹形」とは都市名と、大樹そのものの二つの名を意味する。

 元々は寿命で力尽きた木の一部を形見としてもらおうと訪れた者らが発端だそうで。その話は徐々に広まり、人や魔物が集まって来るも、せっかくだからこの大樹を学園啓都の都市として活用できないかという案が生まれた。幸い、桁外れの頑丈さを誇り、定期的に検査をしていれば問題ないそうだ。理屈はわからないけど、クロネア人が問題ないというのならそうなのだろう。


 「樹形」の根を全部掘り返し、中心部から全範囲へ展開するよう施工する。つまり、根をカーペットのように丁寧に作り替えた後、その上に施設や建物を建造し立派な都市として誕生させたのだ。

 中心部である樹木の中は空洞となっていて、高さ1200メートルを自由に移動可能。また、いったい何本あるのか想像もできない枝(といっても近くで見れば太さはどう見ても大樹並み)をそのまま工事して「枝の上」に店や建物を構えている。

 発想が無茶苦茶すぎやしないか……。

 折れないのかな……と思うけど、一年を通して神然魔術の木を司る魔物たちの検査を受けている。危険と判断されれば切除され、長く丈夫な枝ほど地代が高い。ここでは枝代と呼ばれ、不動産屋のように土地ならぬ枝を売買している業者もあるとのことで。世界は広いな、まだまだ知らないことばかりだ。


 話を戻して、この学園啓都・第二の都市「樹形」は、その死んだ樹木を形見としてもらおうとした者らが都作りの始まりとされる。だからなのか、何かしらの贈り物が集まる都でもあって、一千年の学園啓都の歴史を経て……。

 「お土産を買うなら樹形で決まり」と呼ばれるぐらいに発展した。今ではセルロー大陸からありとあらゆるお土産・贈り物を集めている都市として周知されていて、その数はクロネア王都より多いのではないのかと言われるほどだ。何せ枝の上に店を出している三分の二がお土産屋さんなのだから面白い。


「一日歩くだけで終わりそうだ」

「……うん」

「ゆっくり吟味してたら時間が足りないな」

「いくつか目星を付けて、買うと決めたら即買いしましょう」

「あぁ」


 予定を話し合っていると、乗り鳥雲が降下。樹形から生える一本の枝(やっぱり枝には見えず、でかい樹木としか思えない)の上に着地して。乗せてくれたお礼に雲を撫でながら、消えていく彼を見送った。前を見ると、上手く表現できない感嘆な景色が広がる。


 道は一本、奥の壁に向かって真っすぐ通っている。道は「枝」で、奥の壁は「樹形」そのものなのだが、近くで見ればそんなことに気づくなんて到底できない。道から逸れてしまうと地面へ落ちてしまうため、道の両端には大きな柵が設けられている。

 見上げれば僕らがいる場所と同じように何本もの枝が樹形に向かって繋がっている。真っすぐな枝もあれば曲がりくねった枝もあり、それぞれに特殊性がありそうだ。僕らのいる場所は「乗り鳥雲」の乗り場なので比較的横幅が広い枝である。今もいくつかの乗り鳥雲が降りてきては、反対に出発する雲もある。

 僕らのいる道には「樹形に向かう人の流れ」と、「雲に乗るための人の流れ」があって、僕らは樹形に向かう方の流れへ入っていく。


「本当、壁にしか見えないんだけど」

「樹形の木片も売っているそうだから、買って帰ろうかしら」


 木片なんて何のお土産にもならないが、不思議と買いたいと思ってしまう。観光客に染まっている僕らだった。樹形の内部へ入ると、大型施設に迷い込んだのではと思うほどの広さである。……というか、奥が見えない。人や魔物たちが自由に歩き、受付窓口やお土産店、飲食店に服店、休憩場所・待ち合わせ場所など多数の施設があちこちに見える。

 見上げればとんでもなく高く、全100階層に分けられており、僕らのいる場所は核部と言われる35階。そこから雲や枝に乗って上・下の階へと移動する。空を飛べる魔物や飛行の魔術を持っている者は、ぽっかりと空いた専用の空間スペースが100階ぶち抜きで用意されていて、自由に飛行している。


「どうしよっか」

「とりあえず、お茶にしない?」

「うん、あそこでいいかな」

「もちろん」


 約一時間の乗り鳥雲と、目の前の壮観さに目を奪われ過ぎたので、小休憩をしようということになった。

 飲食店はいろいろあり迷うところであるが、歩いている中で小さなカフェを見つけ入る。メニューは当然クロネア語……と思いきや、なんとアズール語もあった。お土産が山のように跋扈する学園啓都の第二都市。観光客用の対応も徐々に浸透しているようである。

 二人でクロネア名物のスープを飲みながら談笑する。僕は木の実を砕いて少し甘く整えたもの、モモは美葉と呼ばれる葉っぱから抽出したお茶と薄口のスープを合わせたものを飲んでいる。美味しいようで、顔がほころんでいた。


「どこか行きたい場所はある?」

「全然。シルドくんと歩きながら探そうかなって思ってた」

「いいね。ただ、おススメの場所なんかあれば楽にもなるかな。店員さんに聞こうか?」

「フフフ」


 今日はえらくフフフ笑いが出るなぁ。お薬出しときましょうか。

 ……なんて言おうか迷っていると、モモはコロコロと笑いながらジッとこちらを見てくる。


「随分と落ち着いた表情になったわ。少し安心した」

「……あぁ、いろいろあったからね。顔に出てた?」

「えぇ。とても優しい顔になった」


 視線を逸らすことなく真っすぐ見ながら言われて、ちょっと恥ずかしい気持ちになってしまった。話題を変えたくなって、さっきの続きへ話を戻す。


「でだ、誰かにオススメの店とか聞こうよ」

「なら彼女に聞いてみたら?」

「そうだね」


 モモが視線を横に向けたので、僕もそちらを見ながら相槌を打った。


「こんにちは」


 第四極長『妃人』、フレイヤ・クラメンヌが立っていた。




   * * *




「ぉぉぁぉあおぉぉぁぁぉおぉおあおああおっらっしゃぁあああ! ……ゼェ、オェ、らぁ、脱出してやったぜごらぁ! まだまだ甘いなシルド、この“正六面体なんちゃら”はよう、唯一の脱出口があるんだよ! それを見つけりゃ死ぬほど酔った吐きたい……。ゼェ、それを見つけりゃ余裕だっての、俺に不可能はないんだよ!

 ……昼までかかったか。ゼェ、だが間に合うぞ。間違いなく樹形に向かったはずだ。あそこからあいつらを見つけるのは至難だが問題はない。この俺だからな! ククク、何せ今回の策は完璧だからな。あのミュウですら俺の術中に嵌めたんだからよ。

 だから! 俺は行くぞシルド! 俺を待っているんだろどうせ!? 俺が来なきゃ物足りないんだろどうせ!? わかってるぜ、わかってるよ。このジン・フォン・ティック・アズールが華麗に登場してやるからな。……登場したら駄目だな、華麗に覗きをしねーと。クク、ヒヒヒ、あぁたまんねぇぜ。少々予定は狂ったが俺の前では誤差同然! 待ってろよ! 今回ミュウはいない! 俺はついにミュウを出し抜くことができた男だ! さぁ行くぞ。全てを完成させるのだ!」

「来ちゃった」


 ……。


 …………。


 ………………。


「ミュウ?」

「やぁジン」

「……どうして、ここに」

「最初はシェリナ王女と楽しくおしゃべりしてたんだけどね。でもさ、何だか昨日のジンはおかしいなぁとも思ってたんだ。そこで王女と相談して、ジンがよくないことを企んでいると判断し、こうして舞い戻ってきたわけだよ。ただいまー」

「あ……あぁ、そうか、うん? そそそうか、そいつは何より」

「ところで、私がさっき言った『来ちゃった』なんだけど、どうかな? 可愛かった?」


 二秒の間。


「え、えとな、ミュウ。俺、今から大事な用事があって」

「可愛かったって聞いてるんだけど」

「……ぇ」

「聞いてるんだけど?」

「……その」

「本音を教えて欲しいな。今、私とジンしかいないんだよ? ね?」

「あ、あぁ。……か、可愛かったんじゃ……ないか。おぅ、あぁー、うん。……可愛かったぞ、凄く」

「本当!?」 

「……本当だ」

「うざくなかった?」

「うざくなんか……ねーよ。素で可愛かった」

「嬉しい! 大好きだよジン!」

「あ、あぁ、そうか」

「ちなみにシェリナ王女もいます」

「来ちゃった」

「うっぜぇ!!」






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― 新着の感想 ―
[良い点] ほんと続きを読みたい
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