覚悟はいいか
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大園都の北西にある魔法の館から、さらに北西に位置する場所に、憲皇と呼ばれる塔が悠然と聳えている。何者も寄せ付けぬ古びた外観は、まるで戦死した巨人が仁王立ちしているような威圧感を与える。その塔の最上階で、一人、夜の学園啓都を眺める女性の姿があった。
シェリナ・モントール・クローネリである。
その美しさは言うまでもなく、他者から見ても完璧と称される王族の姫は、クロネアの次期女王に相応しい器の持ち主であった。そんな彼女が今、何を思うか。王族であるが故、自国の行く末かと思いきや、数十分後に始まるとされる選抜集団代理戦争を前に考えることは……至極個人的なものであった。
「ルーゼン」
一人だからこそ言える言葉であり、誰もいないからこそ呟ける想い。
本来なら自分で探し出し彼に会いに行きたいところである。が、神出鬼没を体言したかのような怪盗顔負けの素性により、中々ルーゼンと邂逅することはできない。できないどころか、このままいけば一生会えない可能性すら浮上してきた。
会って話がしたい。触れたい。抱きしめてほしい。
女性ならば誰もが感じる想い人への気持ちは、才色兼備の王女もまた同じである。そしてその想いが極めて高確率で起こせる出来事が、もうすぐ始まろうとしている。
「……来た、か」
瞬時にシェリナは一人の女から王家の女へ変わる。顔つきや言動、オーラまでもが変わった。
振り向き扉の方へ耳を傾ければ、ガヤガヤと各々話しながら塔の最上階へ上ってくる集団の声が聞こえてくる。十三の極長。学園啓都の幹部。シェリナに忠誠を誓った、男女乱れての、人魔乱れての国士無双なる英傑たちである。
「だ・か・ら・よぉ、何で謹慎中のお前がいるんだって聞いてんだよメガネ。あぁん?」
「黙れ三下。第三極長である小生に下級極長が偉そうに指図するな。虫唾が走る」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
「フレイヤ。貴方が言っていたのはこれだったのですか?」
「んー、さすがに戦争になるとは思わなかったわ。ウフフ、ルェンも私もまだまだね」
「キヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! キヒ!」
「あー、年に一回すら集まらない俺たち十三の極長が、全員召集されるっていつ以来だ?」
「シェリナ様が統治された最初の年以来だから九年ぶりだ。その時とは随分と面子が変わったらしいが」
「あんさんらが入学する前だから無理もないねぃ。ウチが極長になった年に、半分は卒業してしまったからぁ。身分問わず実力を認めてくれるシェリナ様には、紙屋としても心から嬉しかったよぃ」
「新入りの僕としては、初めましての方がほとんどだけど、ね」
「待ちたまえよソナタたち! どうしてソナタらは我が師をこのような恥辱めにあわせるのか!? それをまず説明したまたえ!」
「よいのだ愛弟子よ。我は神ゆえ、これぐらい大したことはない。しかし敢えて聞こうか。我が子らよ、どうして我を棺桶にぶち込んだりするのだ。我のどこがよくないのだ」
≪全部≫
「声を揃えるのもよいが、各自、言葉を慎まれよ。シェリナ王女がお待ちである」
一癖も二癖もある十三名が、階段を上り終えシェリナの前に姿を現した。王女を前に、規律正しく背筋を伸ばす者もいれば、眠たそうに欠伸をする者もいる。どこか落ち着かない様子の者もいれば、優雅に佇む者もいる。
三者三様ならぬ、十三者十三様。中には見た目からして異様な者もいた。しかしそんな連中であろうとも、シェリナは普段通り、月も恥らう美しい表情で彼らを出迎える。クロネア王国にとって見た目は大したことではない。その程度で浮ついていては、人魔差別は一生残っていただろう。
「貴殿ら、この緊急伝令によく集まってくれた。深く感謝する」
「あぁん? つーか姫様よ。あの伝令に間違いはねーのか」
「ない。この度、二国における選抜集団代理戦争を行うことと相成った」
クロネア王女の一言に、各々が息を呑む。
「過程は一言では話しきれないので割愛させてもらう。ただ、アズールと戦争することになったのは事実だ。これは訓練でもなければ実験でもない。紛れもなく私が決定したものだ。戦争の詳細事項も伝令に付した通り。あとは日付が変わり次第、戦争が始まるだけだ」
「シェリナ様」
「なんだ、ルェン」
「その、相手側の名前欄に……ルーゼン・バッハ様が記載されていたのですが」
ルーゼンとシェリナの関係は、既に極長たちも知っている事柄である。ただ、知っている度合いが大きく異なるのも事実。新入りの極長はほとんどルーゼンについて知らず、逆に『妃人』や『穿人』は二人の馴れ初めまで知っている。
共通しているのは、彼が将来クロネア女王の夫になる、ということであった。そのため、ルェンは名前欄にルーゼンの名前があることだけを言い、極長らにどれくらいの情報を与えるかシェリナに任せるような問いかけをした。第六極長なりの気遣いである。
対し、王家の姫君はしばし無言という、らしくない反応をした。既にルェンの問いかけは予想できるものなれど、いざそれに直面した時、いささかの迷いが彼女に生じてしまったからだ。どこまでルーゼンのことを話すか、ではない。ルーゼンに対し、極長らにどこまでの踏み込める領域を与えるか、である。即ち──
「あぁ、そうだ。ルーゼンは此度の戦、“敵”となった。それ以上も以下もない」
「キヒ! なら、いいの王女? やっちゃって、いいの?」
「……構わん。だが、相対して倒した際は、必ず私の下へ連れてくるように。それが絶対条件だ。それゆえ容赦はいらん。殺す気でいけ」
十三の極長全員に、ルーゼンに対しての躊躇を捨てていいと宣言。たとえ将来におけるクロネアの重要人物であろうとも、戦争である以上、容赦は不要である。シェリナは彼らに踏み込める領域の全権を与えた。
勝つためだ。情けなど一切いらない。既に彼女は王家の女として自分を切り替えている。決めたのだ、クロネアのために戦うと。全てを手に入れると誓った王女が、一歩、配下らの前に出る。
「さて、始める前に貴殿らに私の望みを言おう。
私はこの戦争に勝ちたい。
絶対に、勝ちたい。
六百年前、アズールと休戦協定を結んで以降、公でこのような戦いをすることはなかった。それは先人たちが懸命の努力と未来を考えての結果だ。我々クロネア人は歴史を、祖先らを何よりも重視する。私たちの今があるのも、彼らあってのことだろう。
だからこそ私は勝ちたい。
これから先、私たちが作る未来のためにも、遠い未来に私たちの子孫がこの時を顧みた時のためにも、歴史を栄えあるものとして形作るためにも、我らクロネア人の誇りのためにも……私は勝ちたい! この戦争に私は勝利したい! 望みはたった一つだ。他にはないぞ。貴殿らに命令することと私の望みは一つだけだ。いいか、それ以上も以下も替えも例外も全て一切合切塵ひとつないぞ!
命令するぞ、十三の極長よ。
私の望みを言うぞ、学園啓都の英傑らよ……!
このシェリナ・モントール・クローネリに、この戦で、絶対的な勝利を捧げよ!!」
* * *
同時刻。
シェリナが憲皇で十三の極長らに望みを伝えていた頃、アズール一行が住まう魔法の館では、一人の人物を中心にして皆であることを熟考していた。全員が全員、ぽつりと呟きながら。
≪どうしよう……≫
此度の戦争を、どうやって回避するかである。
中心で横たわっている人物は、アズールの王子ジン・フォン・ティック・アズール。個人至上主義者にして自由気ままに行動する彼であるが、今は生命体として機能停止する一歩手前にいた。数十分ほど前に遡れば、ジンが憲皇に出かけてから館で彼の帰りを全員で待っていた。
その間、シルディッド・アシュランが深夜にクロネア永年図書館に行かなくてはならない旨と、ジンがそれを受けてシェリナ王女を呼び出し塔に向かったことを説明した。後は彼が帰宅するのを待つだけであり、大事にはならないようにと必死に祈っていた。ジンは帰り次第、笑顔で告げる。
『ってなわけでお前ら、クロネアと戦争するぞー』
そうして今に至る。
ある程度どうなるか予想はしていたものの、戦争までとは思わなかった。そうしてボコボコにしたジンを一旦回復させ、戦争の詳細事項と勝敗選定を聞いた上で、もう一度ボコボコにして半死の王子をゴミのように捨て全員で会議を始めた。しかし、もはや戦争を止める方法はなく、時間だけが空しく過ぎ去っていくだけであった。
「もうこれ以上嘆いても意味はないわ。リュネ、ジン王子を回復して」
「そうだね。ユミ姉もお願い」
モモ・シャルロッティアとシルドが互いに頷いて、リュネ・ゴーゴンとユミリアーナ・アシュランに回復を要請する。数分後、復活したジンが怒り狂おうとするもミュウ・コルケットが拷問器具で拘束して大人しくさせる。そして本題に移ることにした。
戦争。
ユミリアーナが紅茶を口に含みながら一息つく。
「敵は十三の極長とシェリナ王女の十四。対しこちらは九。おまけに地の利もあって、随分と劣勢ね」
「ユミリアーナ、数が間違ってんぞ。俺らは十だ、鏡男を忘れてるぞ」
「彼を数に入れたのはシェリナ王女を戦争に同意させるための口上での話。実際はいないのに、どう判断したらそうなるのですか」
「いや、だからさ…………そこにいるじゃん」
「こんにちは」
ジンを除いた全員が咄嗟に振り向くと、全身黒服に身を包んだ男がそこにいた。
ルーゼン・バッハ。
シェリナ王女の夫になる男。わかっていることはそれだけであり、謎多き人物である。相も変わらずイヴキュール・アシュランとユミリアーナが作り上げた魔法の数々は彼に対し発動されていない。少し申し訳なさそうな顔をしながら、会釈する。
「私が憲皇の最上階にあるガラスに潜んでいたことは、どうやらジン王子にはバレていたようですね」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってんだ」
「ですがここで私が参戦しなければ、シェリナ王女との約束が守られなくなりますが……それについては考えていなかったのですか?」
「おいおい、何言ってんだ」
「?」
「お前はこの戦争に参加する。絶対にな。そうだろう?」
「……」
薄ら笑いを浮かべて挑発する極悪人と、唇を噛みながら視線をまっすぐ向ける美男子。
ジンにはルーゼンの思惑がおおよそ読めているらしく、含みを入れての言葉であった。このジンという男、思考が既に人の領域を超えており、欲望のために発揮される力は人外のそれである。ルーゼンもまたほとほと人の領域を超えた人物なれど、さすがに銀髪王子を相手には分が悪いと判断した。そんな彼の表情を察してか、シルドが優しく声をかける。
「ルーゼンさん」
「はい、なんでしょうか」
「これは僕らの問題ですので、ジンのことは気にしないでください。貴方を巻き込む理由はないのですから」
「いいえ、ありますよ」
「……ですが」
「私も戦争に参加します。そのためにここへ来たのですから。もちろん、参戦する以上は、クロネアの方々と戦いましょう」
「では、最後に一つ、確認してもいいでしょうか」
「何なりと」
「貴方は何故、戦うのですか」
シルドの言葉に流暢に話していた彼の顔が──
一瞬強張る。
強張りはすぐに解け、いつもの彼に戻るが、その動作は今まで絶対に表情を崩さなかったルーゼンが何かしらの大きな覚悟を背負ってここまでやってきたのだと、彼を見ていた全員が読み取るのに、そう難しいものではなかった。
「私のためです」
「クロネアではなく?」
「えぇ。私とシェリナの、未来のためです」
風のように姿を晦ますいつもの彼ではない。本当の彼。
ルーゼンの気持ちに、アズール一行で最も強く反応したのは、拷問器具に拘束されるジンの横にいたミュウ・コルケットであった。彼女もまた将来は王族の者として迎えられる身。それゆえに、同じ境遇であるルーゼンの想いに感じる部分は大きかった。
「ジン」
「あん?」
「抱きついていい?」
「お前が痩せたらな」
王子の悲鳴を余所に、改めて戦争に対しての方向を考える。
敵の数は十四。こちらは十。さらにシルドは敵にバレないよう“不死なる図書”に向かう必要がある。そのため実質的な数は九。近辺の森がどのような地形をしているのか詳しくもない。地の利もあちらが得ている。
では、こちらには何があるか。
自分たちの肩にアズールの未来が懸かっていることを意識しながら、今見いだせる答えを探す。
……と、一般的には考えるところだが、どうにもアズール側は違った。シルドが少し遠慮げに、恐る恐る口を開く。
「ねぇ皆、ちょっと聞きたいんだけど」
「何だよ兄貴、気持ち悪い」
「黙ってろ痴女。……こほん、えっとさ、この戦力差は結構大きくて、いろいろ面倒そうでもあるんだけど……うん」
一息。
「勝てると思う?」
≪──当然≫
この連中に、負けるかも、という考えはなかった。
ユミリアーナが先ほど劣勢と言ったのは、あくまで一般論の話であり、本当なら続いて「どうやって相手側を精神的に追い詰めようかしら」と言うつもりであった。たまたまルーゼンが登場したことにより話が中断されたものの、全員が全員、この戦争でマイナス面など全く考慮していない。いないどころか、相手側がそれで浮き足立っているだろうから利用してやろうとすら思っていた。
これは戦争である。
勝つためには手段を選んではいられない。
クロネア同様、アズールもまた、その想いは並ではない……!
「つーかアレじゃん? 極長だから強いなんて馬鹿の発想だろ」
「だよねー。ジンと私の愛の前に、敵の戦力なんてゴミだし」
「ねぇねぇ! もう私、話していいよね! 難しい話は終わったよねモモ!」
「そうよ。これからは皆おまちかねの戦いの話をしましょう」
シルドとレノンが震える手で紅茶を飲む。
「モモお嬢様。籠城戦はなし、ということでよろしいでしょうか」
「そうね。シルドくんを図書館に送り届けるためにも、敵の目が一点に向く籠城はよくないわ。出来るだけ多く敵を分散し、シルドくんへ目を向けさせないのが一番大切なところね」
「なら開始と同時、派手にいくのが最善かしら」
「さっすが姉ちゃん! あたしも賛成! やっぱアズール人なら派手にいくべきだよ!」
「灰にならない程度だったら問題ないよね! 燃やしていいんだよねモモ!?」
「そうよ。こんがり焼きまで大丈夫」
シルドとレノンが震えながら遠い方を見る。
「おっしゃ。それじゃ戦力を分散させて、各々自由ってことでいいな。とにかく派手に暴れて、後はまぁ、半殺し大作戦ってことで」
≪了解ー≫
アズール側の作戦はこうである。
元々、魔法師は己の魔法が武器であるため、魔術師・魔具師たちと違い、連携行動が難しいとされている。魔法は単独で行うものであり、中途半端に連携しても返って危険であったりするからだ。訓練を受けている騎士でない限り、一朝一夕で連携をすることは難しい。
そのため、連携が取りやすい者同士で小さくまとまる。
次に、シルドへ敵側の目が向かせないためにも派手に動き回り、敵戦力の分散化を図る。その後、各個撃破し乱戦に持ち込む。
「ただまぁ、いちいち敵を全滅させてると疲れるから、いけると思ったら虫女を狙ってもいいぞ」
「あと、シルドくんは戦争に『最初から参加』したらダメだよ」
まさかのミュウの言葉に、現実逃避をしていたシルドが我に返る。
「何でだ、この作戦は勢いだけの戦い方だ! あちら側に数の利がある以上、僕らが疲弊するのは目に見えてる! 僕も最初は戦い、途中から抜け出す方が得策だ」
「愚かね。そこでシルドくんが討たれて行動不能になったら、本末転倒でしょ」
「でも!」
「この戦争はアズールの誇りもあるけれど、私たちからすればシルドくんの第二試練も同じぐらい大事なの。戦争に勝っても貴方が試練に不合格だったなら、戦った意味すらなくなるわ」
「画麗姫の言う通りだぜ。シルド、お前は最初から参加したらダメだ。参加したいなら、第二試練に合格してからだな」
「十四対九になるんだぞ!」
「だからよぉ、数なんてのは問題じゃねーのさ。それに、お前はお前の勝負にケリをつけてこい」
「……」
「そして笑って帰ってきて、戦争にも参加して、勝って祝杯だ。最高の未来だろ?」
「僕は」
「問うぜ。シルド、お前は──俺らが負ける未来が、見えるかぃ?」
自然と下を向いていたシルドの顔が、上がる。
視界に映るは、これまでのクロネア生活を一緒に過ごしてきた皆の姿。
我儘ながら王としての実力を自他共に認める銀髪の王子。
その王子の横に常にいて、創造魔法の一つである建築魔法を極限にまで会得した将来の后。
自由奔放ながら他を寄せ付けぬ絶対的な力により、魔法科・歴代二位の称号を手に入れた稀代の天才にして無敵の少女。
数多ある陣形魔法を巧みに操り、予測不可能な戦法を繰り出すアシュラン家が次女。
同じくアシュラン家が長女にして呪い魔法に関してこれ以上の魔法師もいないとされる姉。
表には極力出ないものの、援護しながら先を読み、味方も驚かす妙手とされる自分の付き人。
桃髪麗女の付き人であり癒しの魔法で攻守一体を受け持つ昨年の執事科首席。
そして────
「シルドくん。私たちがこの戦争に勝つと信じてほしい。そして自分もそこに行くと。だから私たちも信じるわ。貴方が第二試練に合格して、私たちのところへ戻ってくると。だってシルドくんは……そのためにクロネアへ来たのだから」
頭脳明晰にして、美しい桃髪を靡かせ継承魔法“ファベリア──色帝の命”の発現者。
そして、シルドが初めて想いを寄せた女性。
自分が一緒にいたいと、思う女性。
モモ・シャルロッティア。
「あぁ……!」
ジンは言った。
俺たちが負ける未来が、見えるかと。
──否。
ありえないだろう。
アズール王国における魔法師の中でも最高峰である連中が集まった集団。
敵がどれほど強かろうと、彼らが負ける未来など、見えるわけがなかろうて──!
「僕は自分の為すべきことをやるよ。そして、帰ってくる。……第二試練を乗り越えて!」
「えぇ!」
瞬間、アズール及びクロネアの代表者全員に、ある電子版が出現した。
時は来たり。
それは薄い四角の形をした物体であった。
物体は二枚あり、上と下が繋がった形をしていた。
上にはアズール代表者と書かれており、十名の名前が箇条書きで記されている。
下にはクロネア代表者と書かれており、十四名の名前が同じく箇条書きで記されている。
そして上にはアズール語で、下にはクロネア語で、ある文字が浮き出いていた…………。
【 汝、己の名を告げよ 】
憲皇にいるクロネア人を含め、その場にいた全員が、戦慄した。
全身が打ち震えるような感覚に襲われる。
始まるのだ。
六百年の時を超え、この学園啓都にて双方の想いと未来が懸かった戦争が……今。
「いくぜお前ら」
ジンが告げる。
「いくぞ貴殿ら」
シェリナが告げる。
「「覚悟はいいか?」」
皮肉にも、二人が言った言葉は同じであった。そしてそれを聞いた者の反応も、同じであった。
皆、黙って頷き、そして笑う。
覚悟を決めて。
時刻は深夜。日付が変わる一分前。
各々が心に秘めた何かを携え、始まるは二国の誇りを懸けた運命の戦い。
心臓の音が限界に達するほど大きく揺れ動きながらも、空気が爆発しそうなほど高ぶりが最高潮になりながらも、二十四の代表者たちは、己が名前を宣誓する。──勝利のために!
魔法の国、アズールが代表たるは
「ジン・フォン・ティック・アズール!」
「ミュウ・コルケット!」
「リリィ・サランティス!」
「シルディッド・アシュラン」
「モモ・シャルロッティア」
「イヴキュール・アシュラン!」
「ユミリアーナ・アシュラン」
「リュネ・ゴーゴン」
「レノン・オグワルト」
「ルーゼン・バッハ」
魔術の国、クロネアが代表たるは
「シェリナ・モントール・クローネリ」
「アニー・キトス・ウーヌ!」
「ナクト・ヴェルート!」
「ワンラー・ミュンヘン」
「フレイヤ・クラメンヌ」
「フラワー・ヴィンテージ!」
「ルェン・ジャスキリー」
「ウルフェイド・バミュータ!」
「ジオン・エスプリカ」
「ラグノ・セルン」
「ポポル・プレナ!」
「シャドゥ・ブレィ」
「ミカ・インシェルン」
「マヨネーズ・カタクリコ!」
全出場者の名前が告げられ、“果たし状なる選名”が認可。魔力の欠片となって、消えた。
……もはや語ることはなし。
情念の先にあるものは、国のために得た勝利か、己のために得た勝利か。
長き歴史に渡り、後の世も語り継がれるであろう一夜の勝負。果たして未来は、どちらの手に。
アズール対クロネアの──
≪必ず、勝つ!≫
総力戦の、幕が上がる。