最強の馬鹿の1位との交わり
「ふぅ、間に合った……」
ズズズ……と教室の扉を開ける。静かに開けることを木下から言及されているのだ。派手に開けるとどうなるのかは、ご想像にお任せしたい。
とりあえず机――えーと、やけに蜜柑くさい段ボール箱――にバッグを置いて、俺は席を立とうとする。一応バッグがあれば遅刻扱いはされないはずだ。
「赤坂、おはよーって、何その顔……?ファッション?しかもこの匂い……苺?」
「あぁ……斉藤、おはよう」
「もしかして赤坂、歯磨きに力入れすぎたん?」
「ちげえよ!!」
歯磨きでどこ磨いてんだよ!というか俺って苺味の歯磨き使ってるイメージがあったの!?
「ちょっと遅刻しそうだったからな、ジャムが付いたんだ」
「遅刻しそうやったからって、なぁ赤坂。ジャムは皮膚に塗るものじゃないんよ?吸収は無理やよ?」
「お前……俺を馬鹿にしてるのか?それともお前がひたすらに馬鹿なのか?」
この馬鹿にかまっていても埒があかない。そんなことする前にとりあえず顔を洗わなければ
俺は隣で本気で心配そうな目をしている斉藤を無視し、校舎の外にあるトイレへと向かった。
■
「よし!とりあえずはこれで良いかな」
じゃー、と流れっぱなしの水を止めて、制服のシャツで顔を拭く。思った以上にすっきりしたな。
公園にある公衆トイレのようなE組専用トイレをでると、さわやかな春の風が俺を爽快な気分にさせる。あー、なんかもう帰りたい。
「まぁ、そんなわけにもいかないんだけどな」
俺は苦笑いを浮かべて、校舎へ戻る。……はずだったのだが。
「あれ……あそこにいるの、えーと、、、、そうだ、A組の綾咲さんじゃないか?」
E組トイレは校舎の中庭を通るのだが、その中庭には小さな花壇がある。そこに、小柄な学年一位、綾咲早紀を見つけた。
なに?1限から堂々とサボりですかい?学年1位様はちがいますね。
少し卑屈な気分になりながら、俺は出来心で話しかけてみることにした。ほら、俺最下位だし。なんか縁がありそうだ。
「綾咲さんだよな?こんなところでサボってていいのか?」
話しかけられた彼女は、ゆったりとした動作でこちらを振り向く。
「知ってるの?」
「ちょっとね。それにほら、ベストでしょ綾咲さん」
彼女は少しうつむく。頷きってことでいいのかな。
「私はあなたをしらない」
「そうだろうな。俺は赤坂康太、覚えてくれると嬉しい」
「……赤坂。わーすとの人?」
「う……。そうだね。みんなよりちょーっとお馬鹿なお茶目さんだね」
「そう」
ワーストで覚えられるのか。さすが反面教師の役をやらされる馬鹿だ。つまり、さすが俺。
そんな俺とは正反対の目の前の彼女は、綺麗にうえられた、えーと、、パン、、パン、、うん、花を見ていた。
「その花好きなの?」
俺が尋ねると、綾咲さんはこちらを見ずに、こくりと頷いた。あまり喋らない人なのかな、綾咲さん。それとも俺と喋りたくないってことなのかな?……喋らないひとなんだよ、きっと。
――と、2人そろって花を見ていると、
「おい、何をしている」
遠くの方から大佐――大塚先生の声が聞こえてきた。やばい、大佐は怒ると恐いからな。捕まったら説教フルコースは避けられない。
大佐恐怖症の俺の身体は条件反射で動き出す。頭の中に浮かぶ逃走経路。よし、シミュレーションOK。
後は、
「逃げるよ、綾咲さん!」
「……あ」
2人で逃げるのみ。俺は綾咲さんの手を取って、走り出した。
■
「はぁはぁ……大佐……はぁはぁ……速すぎ」
40過ぎてるってのは嘘なのか。やはり大佐なのか。QED。
ちなみに、俺と綾咲さんは今、体育館裏にひっそりと体育座りして隠れている。
「というか、綾咲さんはなんであんなところにいたの?」
息を整えてから、隣に座っている彼女に問いかける。あんな中庭のど真ん中で、堂々とサボりだなんて、実は不良なんじゃないだろうか。
そんな事を思って聞いてみたが、彼女から返ってきた答えは、
「手……離して」
「あ!ごめん。焦ってたから、つい」
手をつかんだままだったみたいだ。すこし惜しいけど手を離す。
「じゃなくて!綾咲さんはなんであんなところにいたの?」
手を掴んでいた気恥ずかしさを誤魔化すように少し大きめの声で話を戻す。
綾咲さん、授業をサボるようには見えないんだけどな。そしてその見解はその通りで、
「まだ、始業時間じゃないから」
「……あ。。。」
そういえば高坂がそんなことを言っていたな。ジャムと一緒に流れて行ってしまったよ。
そうだった、上位クラスは始業時間が違うのだ。
ん?……ってことは、つまり、
「ちくしょう。結局俺が馬鹿なだけじゃねえか」
「あなたは、馬鹿なの?」
「あぁ。伊達や酔狂で馬鹿やってないぜ」
伊達や酔狂でやってくれる奴がいたら変ってほしい。
俺が小さくため息を漏らす反面、隣の彼女は、そうでもないようで、
「あなた、おもしろい」
「無表情で言われてもなぁ……」
「顔が」
「顔が!?」
案外酷いこと言うなこの子!
でも始業時間が違うんなら綾咲さんには悪いことをしちゃったかな。なんたってこんな時間から走らせてしまったわけだし。
「ごめんね、綾咲さん。俺の勘違いで」
「大丈夫おもしろかった」
「そう?走っただけだけど」
「先生から逃げたのなんて、初めて」
朝から走っておもしろかっただんて、変ってる子だなぁ。
――そういえば俺が初めて先生から逃げたのはいつかな?えー、幼稚園かな?確か「先生は、、、、A?」とか言ったあたりだったと思う。なにがA?紳士の皆さんなら分かるよね。
そんな昔の懐かしい思い出を思い出していると、学校の鐘が鳴った。どうやらドタバタしてる間に授業が終わってしまったみたいだ。
顔を洗いに行くだけのはずだったんだけど、結局一限まるまるサボっちまったなぁ。まぁいいか。
俺は立ち上がり尻に付いた土を払い、綾咲さんに向き直る。
「さて。じゃあ俺は行くね、綾咲さん。また」
「……」
俺の言葉に彼女はコクンとうなずいて立ち上がり、体育館裏から出て行った。さて俺もそろそろ戻ろう。
綾咲さんも割と話やすい事が分かったし、今度見かけたらまた話しかけてみようかな。
――歩き出した俺の手にはまだ、彼女の手の温かさが残っていた。
■
「1限からフケるとは良い度胸じゃねえか、赤坂」
「そんなに眉間にしわ寄せてると、先生の綺麗な顔が台無しでずよ」
「要約して言ってみろ」
「先生は台無し」
「よし、素直な貴様に免じて死で許してやる」
「え、ちょ、先生!今のは口が滑ったっていうか!」
「滅!」
「ぷらすちっくぅぅぅううううう!!!」
更新遅れてすみません。いろいろと春は忙しいですね。
最近は手を染めるを、使った例文で軍手を染めると言う答えが来たとき、私は爆笑していました。