最強の馬鹿の乾杯戦争
「いとおかし!あなものくるわし!」
俺は走っていた。
風を切る頬。めのまえの敵をただ倒すーー乾杯していくことに俺は今までに感じたことのない悦を感じていた。
「あぁ、頭のいい人に勝つってこんなに気持ちいいんだ!」
足が軽い。頭が軽い。全身が軽い!何てことだ。頭を使わないって最高の娯楽だ。
このまま、最後まで走り抜けてしまおう。あはははは。今の私俺なら空だって飛べるーー
「せいっ!」
ほら、体を浮遊感が包んで、、、、え?
「ちょ、ぐはっ!!」
地面に打ち付けられる。肺の中にあった酸素が抜けて、軽く呼吸困難に、って、何冷静に実況してんだ俺は。
え、なに。なにが起きたし。
今まで俺は、超特急でA組の人達を倒して、そう、そのあと空も飛べるとか思った瞬間、飛んでた、と。
ん、なんだ、おかしいところなんてないじゃないか。正直あのときのおれならとべた。
「は!なら俺、テレビに出てモテモテルート、ワンチャンあるな……!あぁ恐ろしい。自分の抑えられない才能が恐ろしい」
「俺はお前のアホさの方が恐ろしい」
俺が未来決定図を思い描いていると、前から声が聞こえた。
未だ体育館のゆかに仰向けの体を起こして、俺は声の主を見る。しかしA組にもまだ男子がいたか。結構倒したんだけどなぁ。
「E組、佐藤涯。京子譚の名の元に、赤坂康太。貴様を粛清する」
「なんで同じクラスの奴に粛清されなきゃならないんだ?俺は」
裏のうらをかいて、まさか同じクラスの奴に襲われるとは。
「さあ、いくぜ?赤坂康太!」
佐藤は言いながら走ってくる。ヤバい、目がマジだ。
俺はとっさにその突進を避けて、交わしざまに奴のグラスに乾杯する。
しかし、佐藤もそこまで甘くなかった。
彼は自分の体を壁にして、グラスを守りつつ、俺に足払い。後に俺のグラスを狙い、乾杯。
だがその攻撃に意味はない。なぜなら、
「お前、、、中身をどこにやった!?」
「胃☆袋」
俺のグラスにはなにも入っていない。飲み干したからだ。
俺は驚く佐藤のその一瞬の隙をつき乾杯。同時に鳴るホイッスル。
「くくく。ふはははは。よくぞ倒した。だが京子譚は永遠に不滅!ははははは」
彼は笑いながら体育館の隅へ歩いていく。その姿は、悔しいが格好よかった。
俺は胸の前で十字架をきり先へと進んだ。
少し進むと五人組の男子の集団を見つけた。
「よくぞ来たな。赤坂康太よ」
「しかし佐藤を倒したくらいで調子にのってもらっては困る」
「佐藤は京子譚No.117。所詮トリプルよ」
「絶対に来ないものがこの世には3つある。それはモテキ、楽しいクリスマスイブ、そして貴様が我々に勝利するときだ」
「ロリータに幸あれ。乾杯」
チン(5人が各々のグラスを合わせる音)。
ゴクゴク(5人がグラスにくちをつけ、飲んでいく音)。
どさっ(5人が一斉に倒れる音)。
ぴー(5にんの失格を知らせるホイッスル)。
「…………………」
「あ、赤坂康太。策士め!卑怯だぞ」
「………………」
「今回は見逃してやる。もっと力をつけ…………オロロロロ」
「…………」
「だが思い上がるな!四天王がきっと!」
「…………」
「ふはははは。ロリハエイキュウニフメツ!」
全員E 組だった。
「んー!!ビューティー!!」
「身長、異常なし。今日も、京子たんのその圧倒的可愛さはこの世に君臨している!」
「君に似合う花はなにかな?いや、君に花なんて似合わない。君
に似合うのは僕だけだ」
「あぁ、早く帰って去年の体育祭(ディレクターズ カット版)見たい」
これは俺が間違ってんの?世界の常識はこんなんだったの?
「ロリコンは世界を支え、ロリにより我らは満たされる。だから少子高齢化が問題となるのだ」
「おい、少子高齢化ってなんだ?」
「高齢ロリ。つまりロリババァが少ないということだ。最近見ないだろ?ロリババァ」
「なるほど。さすが12番」
「ははは。あんまり誉めるなよ」
ば、、、馬鹿だ、こいつら。どうしようもなく、馬鹿だ。
「「「「お前に言われたくないわ」」」」
「心の中が読まれるって怖いね」
ブライバシーもへったくれもない。
「ロリの神よ、我に力を」
12番と呼ばれた男が胸の前で十字をきる。なんか格好いいな。俺もやるか。
「えーと、ブッダ?俺に力を与えたまえ」
あれ、この神様は十字きっちゃいけないんだっけ。
まあ、いいや。神はそんなこと気にしないさ。
「12番近藤。推してまいる!」
はははは。見たことあるよ、近藤。毎日同じクラスで。
毎朝俺にロリ物の同人誌を勧めてくるのはやめてもらいたい。俺はロリより同級生くらいの娘の方がいいんだ。
「情けはかけぬ。きぇえええ」
「いやぁぁぁぁあ」
いちいちお前らは目が怖いんだよ!
――と、そこに中性的なイケメンボイスが鳴り渡った。
「退け!そいつは私の友だ。私は道をたがえた友を、正さなければならない」
「「「「か、会長!!」」」」
藤村隼人の登場。なんなんだ、これは。
あまりの超展開に唖然とする俺をまっすぐに見つめ、彼は続ける。
「残念だよ、康太。君を手に掛けないといけないことが」
隼人は至極残念そうな顔で、俺に人指し指を突きつける。だ、誰だこいつ。
「しかし、私はやらなければならない。君のために!!」
隼人は、きらきらと光る純粋な目で、俺を見つめる。なんだその光。いままで見たことないぞその目。
しかし、俺だって退くわけにはいかない。ここで俺が倒れたら、その隙にA組にやられてしまう。
「隼人!!聞いてくれ!!つぼみより花のほうが美しいと思わないか!!(オブラートに包んでいます)」
「違う!!能の世界でも言っておろう!時分の花、、、幼いころに咲く花があるということを!」
「なんだよ、そのコアな知識!?」
「康太、俺の言葉は通じないというのか!」
彼は心底悔しそうに俺をにらむ。周りのやつらもにらんでくるし、あれ、俺が悪いの?
ん?というか今なにやってるんだっけ?なんでワイングラス持ってるんだ?
隼人は、自分の持ってるグラスを力いっぱい握りしめ、叫び、
「言葉でわからぬのなら、こぶしで伝えるまで!」
なぐり――ちょ!!
俺の顔面すれすれ、そこをひとつの拳が通る。おい、いまのよけてなかったら、クリーンヒットだぞ!
友達との殴り合いがはじまるとか、本当おれは何やってるんだ。
と、そんな軽く老後が心配になる記憶力の俺を救ったのは、
「康太さがれ!」
「実!」
我らが組長、実だった。
「早く行け!康太。A組をもぎ取るんだ!」
「らじゃー!」
こうして、俺と京子譚の戦いはいったん休戦となった。
「みつけたぞ、綾咲」
俺は体育館の隅のほうにたたずむ少女に向かって言った。
名前を呼ばれた少女は驚くわけでもなく、ただ、無表情に俺に返す。
「……よく来れた」
「E組はとある教師にスパルタされてるからな。強いんだ」
一瞬、檀上の木下に目線を送る。目が合う。あぁ、このあと生徒指導室行きだ。なぜ見てしまったのか。絶対、「なぜ下克上中に私をみたのか」という題材で、原稿用紙4枚書くことになるな。
って、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないけど、現実逃避だ。このスキルこそ、俺がワーストたる由縁である。
「綾咲。ようしゃはしないよ。覚悟!」
俺はすでに空のグラスを前に振りかぶって、走り出す。ワーストがベストを狙う。完璧なまでに下剋上だ。
最初の一撃で決める。あまり時間をかけると、実が京子譚のやつらに倒されちまう。
だっ、と地面を蹴り、小柄な少女の右手にあるやけに武装された、ぐらs――あれ?A組のグラスってあんなにごつかったっけ?
透明なガラスの部分が見えないんだけど。え?なんかグラスの横から2本の手がのびて、え?
ぱきゃ
その手におれのグラスは、粉々に潰され、きらきらと空気を舞う。
「私の、勝ち」
俺に小さな手で作ったVサインを向けてくる綾咲。
瞬間、鳴り渡るホイッスル。
「赤坂康太――――及び、組長、明智実、アウト」
「康太?大丈夫?白目剥いて、より馬鹿に見えるよ?」
「…………」
「ダブルピースつける必要ないよ?起きてるなら早くおきなよ」
「ピカピカピカリン」
「それいうと削除くる可能性あるからやめて、康太」
「しんしんと降り」
「やめて」
「……ココハドコ、ワタシハダレ」
「ここは現実、あなたは馬鹿」
「黙って聞いてれば!失敬な!」
「だまってなかったよね!?ほら、E組が負けたのはあんたのせいじゃないよ」
「いや、こいつのせいだぞ、高坂。こいつが高橋を攻撃したのが悪いんだ」
「実も追い打ち掛けないで!!このままだと、康太が単細胞生物まで退化してしまう」
「もとからそんなもんだろ」
「…………」
「高坂、攻撃するのかフォローするのかどっちかにして!!」
「うるさいわ、康太。ほら行くぞ。貴様を捕まえろと命令が出ているんだ」
「え?誰から?」
「…………」
「無言で目をそらさないで!?」
「ま、ま、まぁだだだだだ大丈夫ささささ」
「きょどらないで!!なに?これから俺に何があるの!?」
「死」
「はっきりと言わないで!!」
「つべこべ言うな。これしか方法がないんだ」
「生贄か、俺は!」
「お前が死ぬのが、一番社会的に損失が少ないんだ」
「馬鹿が社会的なんてぬかすな!いやだ、行きたくない!」
「よう、赤坂。あまりに明智が遅いから私から来てやったぞ?」
「予想はついてたけど、やっぱこの人かあああああ!!」
「康太。君に本物の花というものを教えなければならない」
「こいつもかああああああ!!」
「諦めろ、康太」
「くそ、なんで俺なんだ!!こういうのは組長が責任とれよ!!」
「いいじゃないか、赤坂。反面教師の役目を全うできて」
「先生は黙ってて!」
「いや、今から黙るのはお前だ」
「すべての根源。原始にして終末。君にそれを教えよう」
「いやだあああああああああああ」
さくしゃのあとがき
リアルが多忙でした。
とか言えるほど、リア充ではない私です。普通に筆が進まなかったです。すいません。乾杯戦争はこれで終わりです。次回からまた、にちじょうかいですがよろしく