最強の馬鹿のA組戦(前半)
E組の馬鹿どもは燃え上がっていた。
「てめえらのくらすには机があるんだってなぁ?見せつけてんのかゴラ!!」
「九九ぐらいはできるわボケェ!」
それは出来なかったら生きていけないレベルの技能なんだけどな。
――でも、突っ込みを入れてる俺も、結構熱くなってきてて。
「やってやるよ……!」
安物臭のするワイングラス片手に、A組へぶつかっていった。
「みよ!この筋肉!んー大腿四頭筋!」
同じクラスの加藤が、A組陣営に自分の筋肉を見せびらかしている所を発見する。その輝く白い歯が無性に腹立つ。
一方、筋肉自慢をされてるA組の方は3人組で、何やら作戦会議をしているみたいだ。
そして、すこししてからA組3人のうち一人がオズオズと加藤に言う。
「あの、上腕二頭筋をみたいので、ポーズお願いできますか?」
「ほう?上腕二頭筋?そんなところでいいのならば、いくらでも――」
いいながら、両腕を下ろす加藤。おい待て!そんな動かし方したら、零れ――
「はい、どーん!」
「げはああああ」
と、加藤の液が零れる直前、後ろから斉藤がキックをかました。衝撃で加藤は吹っ飛び、結果加藤の液はこぼれ、
「加藤、アウト!」
「おいぃぃいい!斉藤、お前何しに来たんだよ!」
「どうせやられるなら、自分より強い奴にやられたいやろ?」
「意味不明!?お前、加藤気絶しちまってるじゃねえか!」
というか、あれだけの筋肉男を一撃で撃沈させるこいつは何者なんだ。
と、俺と斉藤がそんな会話をしていると、いつの間にかA組の面々はいなくなっていた。しまった、逃げられた。
それには斉藤に気付いたようで、
「なにしとんの赤坂。逃げられたやないか」
「10割方お前のせいだろうが!!」
「じゃあ残りの90割はあんたのせいやな」
「900%!?」
「赤坂は使えへんなぁ」
「誰かさんに手首を壊されたからなぁ……!!」
思い出したら、また痛んできた。畜生。こいつ本当にホモサピエンスかよ。筋力の差がおかしいよ。
そんなことを考えていると、同じプラプラ仲間実がやってきた。
「お前ら、ちゃんとやってるか……って、だめじゃねえか」
はぁ、と息をつく実。
「お前だって何もやってないだろうが、脳みそすかすか野郎」
「トッポより脳の中身が詰まってない貴様よりましだ」
「トッポは最後までチョコたっぷりだしいいいい!」
実はごみを見るような目つきでにらんでくる。ふふん。論破されてさぞ悔しかろう。腹いせに変顔してやろう。
殴られた。
「とりあえず、お前ら、適当なA組のやつから早く奪ってこい」
実はそう言って、ここを離れた。まあ仕方ない。行ってやるか。
俺は斉藤と別れて、移動を始めた。
キモいからほんとやめてよ!
そんな叫びが聞こえたので、声の元に行ってみると――
「金ならある!妹になってくれ!」
「無理!なにこのイケメン!だれか警察、」
「おっと、それ以上はいけないよマイリトルシスター。もう二度と俺はかつ丼なんて食べない」
あぁ……。見なかったことにしよう。そっとこの場を離れれば、大丈夫。あら不思議なにもなかった。
さぁ、どんどん行こ――
「あ、あんたでいいわ!私を助けて!」
「なんで絡んでくんだよぉぉぉおおお!俺だって助けてほしい気分だよ!」
高いキンキン声で助けを求めてくる、少女――否、幼女。そしてその後ろを追いかける――
「あ、康太じゃないか。大丈夫だった?」
藤村隼人。こいつ、ついに手出しやがったか。
「なあ、隼人。こんなちっちゃい娘怖がらせて、恥ずかしくないのか?」
「私は一向に構わん!」
ドヤ顔で言いやがった。こいつドヤ顔で言いやがったよ。大事なことなので二回言いました。
しかし、ロリが絡むとなぜこいつはこんなに残念なんだ。金ならあるとか言ってたぞ。イケメンボイスで。
俺は自分の後ろに隠れている幼女――高橋京子を見る。
高橋と俺は中学からの付き合いで、実は隼人もである。そのころから隼人は危なかった。
高橋の容姿は長いツインテールで、吊り目な目。隼人を威嚇する八重歯。そして、驚異的な背の小ささ。
実は高橋はD組の古島さんと並んで、学年二大ロリ。さらに、三年の四十万さん、一年の副島を加えて、文月ロリ四天王と言われるレベルの有名人だ。
隼人から聞いた話では、それぞれの人にファンクラブがあるそうで、日夜ロリ談義を酌み交わしているようで、人気も中々。
俺は、この話を聞いたとき、この学校のロリコンの多さに唖然とした。
ちなみに、隼人は大手ファンクラブ『京子譚』の会長であることを自慢げに話していた。自慢げに話してきた意味が分からない。
とまぁ、その本人を目の前にして、隼人が抑えきれなくなったのが今の現状ということだ。
何やってんだコイツ。
「ほら赤坂!やっちゃいなさいよ!」
「あのな、高橋。俺とあいつは同じクラスだから攻撃は……」
「じゃあ、せめて俺を踏みつけてくれ!」
「おーけー。俺の命に代えてもコイツはヤル」
「康太!?ヤルってなに!?少なくとも友人に使う言葉じゃないよね!?」
このくそロリコンめ。イケメン顔が腹立たしい。
……ん?あれ、というか今俺の後ろに高橋――A組の人がいるんだよな。
ちら(後ろを見る)
目が合う。
「な……なによ?」
少し頬を赤く染めて、高橋は言う。隼人がなにやら興奮し始めていたが、無視だ。
「……ごくり」
今がチャンスなんじゃないだろうか。
高橋は、今、隼人を警戒しすぎて、俺にたいしてはもはや無防備。これなら、いくらハンデがあろうとも、やれる。
ちら。
「?(高橋が首をかしげる)」
しかし――そんなことをやっていいのだろうか。仮にも信頼されている俺が。戦争とはいえ。
手に汗が滲む。どうするべきか――!
と、そんな葛藤を突き破ったのは、
「E組、残り10人です」
俺は体を反転させ、高橋の持つグラスに乾杯した。
カランと軽い音を立て落ちていくグラス。飛び出す赤い液体。そして、
「高橋、アウト!」
うるさく鳴り響くホイッスル。
「ごめん、高橋。今度埋め合わせするから!今は許してくれ!」
俺はその場から走り去った。
「よくやったぞ、康太。猿にしては上出来だ」
「実……」
俺とずっと同じ学校である実も、もちろん高橋の知り合いである。それでも彼は俺を責めることはしなかった。
「実」
「なんだ?」
「絶対勝とうね」
「――あぁ」
実は口元に笑みを浮かべ、同意した。
そうだ。俺は信頼してくれてた人を裏切ったのだから。
もう勝つしかないんだ。
――そのためには。
「実、ルール上はこの赤いのを零さなければいいんだったよね」
「……あぁ。そうだが。何か思いついたのか?」
「よし。実、乾杯してくれないか?」
俺は自分のワイングラスを実に突き出す。
と、そこまでして、実は俺がやろうとしていることに気づいたらしい。笑いながら自分のグラスを突き出した。うん、ここら辺は長年の付き合いのおかげだな。
――よし。
「じゃあ、俺達の勝利を誓って」
ぐっとさらにグラスを突き出す。そして二つのグラスがぶつかり、心地よいきれいな音をたてた。
『乾杯!』
そして俺は、グイッとグラスを煽り、赤い液体を全て飲み干した。
さくしゃのあとがき
次回で終わるかと思います。乾杯戦争