episode3 カチューシャ
とりあえず、ショッピングモールの3階についた私たち。
「…ねえ、本屋さん行ってきていいよ。私、この辺フラフラしてるから」
別に…何でもないことなんだけど。
広樹と、一緒にいて、遊びに来ていて、2人きりになっちゃったっていうことなんて、別に何でもないはずなんだけど。
なぜか、2人きりになるのを避けてしまう。
「いいよ。俺、別に欲しい本あるわけじゃないし。梓と一緒の方が楽しいしさ!」
でも、広樹は、この状況を楽しんでいるみたいで…
どこから見る? と言って、近くのヘアアクセサリーのお店に入ってしまった。
人にどこ行くって聞いたくせに。なんなんだよもう。
でも、ほっとく訳にもいかないから、私もそのお店に入った。
…それがまた、私好みのお店だった。
正直、広樹なんてそっちのけで、私は商品に見入っていた。
「梓」
…と、今まで黙っていた広樹が、急に口を開いた。
えっ、何? と、顔を上げた瞬間…
「やっぱり。それ似合う」
私の頭に、何かが置かれた。
鏡を見てみる。
「これ…」
それは、カチューシャだった。
それも、かなりかわいい。私が先に見つけていたら、絶対に即座に買っていたような。
どうしよう。買おうかな。ていうか、迷わず買いたいんだけど。
でも、広樹が持って来たものを買うっていうのも、なんか、なんかなぁ…
「………」
私はそんなことを考えていて、しばらくカチューシャを見つめながら黙ってしまっていた。
「かして」
「!?」
いきなり、私の手の中から、カチューシャが消えた。
そしてそれは、広樹の手の中に。
「俺が買ってあげるよ。それ、気に入ったんだろ?」
は?
突拍子もない広樹の言葉に、私の頭はショートした。
「いや、いいって! てか、別に誕生日とかでもないのに!! は? え、もう意味わかんないよ!」
もはや、自分でも何が言いたいのかわからない。
でも、そんな私の叫び? を無視して、広樹はレジへと足を向けた。
「はい」
数分後、キレイな包みに入ったカチューシャを渡される。
「…ありがとう」
受け取ろうか悩んだけど、結局私はそれを受け取ってしまった。
「つけてあげる」
さっと、また私の手からカチューシャを取って、包みを開け、私の頭にのせた。
今使うんなら、包んでもらわなくてもよかったでしょ…
…なんて、突っ込んでる場合じゃない!!
「本当にもらっちゃって良かったの?」
私は、お店を出ながら広樹に聞いた。
「俺があげるって言ったんだから。気にすんなって」
広樹はそう言ってくるけど…
「広樹は何か、欲しいものないの?」
やっぱり、もらいっぱなしっていうのは、気が引ける…
「え? 特にないよ。ってか、本当に気にすんなって」
広樹は、きっと何を言っても、もうこれしか言わないんだろうな…。
「でも…」
私は、下を向いた。
何かないかな? お昼ごはんおごるとか? それとも…
───!!
それは突然の出来事だった。
「じゃあ、このままでいさせて? お礼として」
広樹はそう言うと、普通に歩き出した。
ちょっと待ってよ! この状況!!
今、私と広樹…手、繋いでるんですけど!?
何かないかと考えていたら、いきなり手を握られた。
「大丈夫。佑介たちに会う時は、手離すから」
いやいやいや! そういう問題じゃないでしょ!!?
「いや…あの、でもね?」
私は人生で1番じゃないかってくらい、頭がごちゃごちゃになった。
「あ、あそこ行こうぜー?」
でも、広樹は全然気にせずに、むしろ元気になって、どんどん進んでいった。