招待
あれから、頭に入らない授業を終えた放課後。
「――さて、これからどうする?」
夢翔が聞いた。
手元にある教科書をカバンに詰めている。
「…組織に入るか入らないか?」
俺は夢翔に聞き返した。
ていうか、髪飾り取っちゃったからもう組織に入ってるんじゃないだろうか。
そんな風に思ってる俺をよそに、夢翔がコクンと頷く。
「入っていいんじゃない?」
白狐がそう言いながら髪飾りを取り出した。
桔梗はあれから全く変わることなく、いきいきと咲いている。
「―――ん?」
白狐が声をあげた。そして
「稲荷の八霊 恐みも白す。我を導け。この花の名の下に」
フッと消えた。花弁に包まれて。
俺と夢翔の時間は、一緒に5秒くらい止まった。
「えっえぇ!?白狐が明日空にに向かって朝食つくる番なのにどうして!!」
夢翔はかなり混乱してる。
でも、俺だって混乱してる。
どうしたらいいだろうか。
探そうにも何処からどうやって探せばいい?
白狐、白狐何してたっけ。
確か組織に入るか入らないかの会話してたら、急に言霊唱え始めてそれで…。
「あっ」
閃いた。
髪飾りか?
俺はポケットから髪飾りを取り出した。
相変わらず綺麗な桜の花。
その時。口が勝手に動いた。
「雨空の天女、我を攫え。流とともに。この花の名の下に」
その途端。
桜の花弁が舞ったような気がして、思わず目を瞑った。
「龍牙!」
あ、夢翔に言ってない。
「りゅうご~。起きて~?」
「…ん…?」
のん気な声がして目を開けると、白狐がイスに座ってる。
…何か角度がおかしい。
ん?俺が床に寝てるからか。
高い天井が俺を見降ろす。
「ぐらぐらする?」
白狐がまたのん気に聞いてきた。
そう言われてみれば、少しぐらぐらする。
頷くと、「まだ横になってて」と言われた。
素直に天井を見上げる。
すると、目の前に人影が…
「…夢翔?」
「うわゎゎ!!」
ドスン!と俺の上に落ちて来たのは、さっきまでテンパってた夢翔だった。
よくアニメとかで、頭をぶつけたら星が散るけど今そんな感じ。
「り、龍冴、ごめん・・・」
夢翔が申し訳なさそうに覗き込む。
両手を差し伸べてきたので、その手を掴んで立ち上がる。
やっと部屋の全体が見えた。
和やかな日本式の家屋に、なぜか洋風の家具。
俺は畳に寝ていたわけだ。
奥の麩から物音が聞こえた。
3人で顔を見合わせて頷くと、その麩に手をかける。
「―――やぁ、やっぱり来てくれた」
開くか開かないか、そんな時に聞こえたあの教師の声。
ニヤリと笑んだ口元、普段かけているはずのメガネを取っているからか雰囲気が違う。
そして、和装。別人だ。
「入っておいで」
その言葉に、なんの躊躇もなく夢翔が踏み入れた。
続いて白孤、最後に俺。
麩を閉めた瞬間殺気を感じた。
影が横切った、気がする。
「・・・物騒」
白狐が呟くのが聞こえたと思ったら、ドカンと床に二人なぎ倒された。
トッ、と床をける軽い音がしたと思ったら、夢翔が最後の一人の顔面に着地する。
ぐえっと変な声を出して、襲ってきた3人はのびていた。
「どうやら本物みたいだね」
七槐はホッとした顔をして懐から眼鏡を取り出して掛けた。
「最近物騒でさ、テストさせてもらったよ」
合格、と言って立ち上がる。
「君たちには色々説明したいんだ。能力とかも、教えて欲しいしね」
七槐の言葉に、夢翔が首をかしげた。
「のうりょく?」
「―――今は、ついておいで。ここは受付みたいなもの、本部に案内するよ」
すっと七槐が掛け軸みたいなものを避けた。
暗い道が続いている。
その中へ、俺たちは進んでいった―――




