組織
「じゃ、あたしはこれで」
日直の仕事あるんだ、と美菜が手を振って行ってしまった。
夢翔が白狐の背からおりる。ちょっと寂しそうな表情を浮かべていた。
元気な背中を見送ると、開きっぱなしのクリーム色のドアを2回たたいて中に入る。
「失礼しまーす」
天井にとりつけられた扇風機からの風が、上気した体に吹きつけた。
女子が喜びそうな笑顔を浮かべた数学教師が座ってる方に歩く。
「やぁ、よく来てくれたね」
俺、夢翔、白狐の順に見まわした。
「…ここでは話しにくいですね。 少し移動しましょう」
そう言って立ち上がった。
俺たちの間を抜けると、ついておいでの意味で指を二回まげた。
案内された先は、今の校舎を創る前に使っていたという旧校舎の職員室だった。
新校舎が出来てからは誰もここには来てないのだろう。
天井の隅には蜘蛛の巣、床は埃だらけでひどい状態だ。
「やっぱり汚いな…まぁ、かけてよ。イスは掃除しといたから」
そう言われて見ると、俺たちの近くにある3つのイスがキレイ掃除されていた。
イスを引いて腰掛けると、七槐を見る。
七槐は、一息つくと口を開いた。
「単刀直入に言おう。君たちには、バクペゲを倒す組織に入ってもらいたい。」
夢翔の瞳が微かに揺らいだ。白狐は平然としている。
どうして、七槐は俺たちが見えてるって分かった?
見えてるのか?知ってるのか?
何も言えない俺たちに、七槐が言った。
「ここ最近、やつらが異常に活発化してきているんだ。組織といっても、僕を入れてまだ3人しかいない。」
そこまで言うと、胸ポケットから何かを取り出した。
髪飾りだろうか。
「これは、組織である証。まぁ、鍵みたいなものかな?僕のだけど」
朝顔の花が飾られている。その色は澄み切った空のように青かった。
「さっきも言ったけど、3人しかいないんだ。その中で活発化したやつらを倒すのは難しくなってきている。」
「…そんな中で、偶然君たちがやつらを倒してるところを見たんだよ。体育館のね。」
そうか、七槐も体育館のやつに気づいてたのか。
倒しに行こうとしたところに、俺たちがいたって事か…。
「もし君たちが力になってくれるなら、これを持っていて欲しい。」
机の上に、飾りの無い髪飾りが3つおかれた。
七槐が立ちあがる。
「言い返事を期待してるよ。」
そう言うと、俺たちに向かって微笑んで行ってしまった。
残された俺は、混乱こそしていなかったが、しばらく何も言えなかった。
沈黙を破ったのは夢翔だ。
「…組織って、なんか響きがいいね。」
あまりにのん気な発言に、俺はこけそうになった。
そこか!?お前の考える点は!
いや、俺が考え過ぎなのか!?
あの教師を単に嫌いだから、信じられないだけかもしれない。
そんな深刻に思うことでもなかったのか?
なんだか変に考えてしまった自分が恥ずかしい。
夢翔が立ちあがって七槐の残した髪飾りを1つ手に取った。
その途端、ポンッと音を立てて髪飾りが煙に包まれる。
俺と白狐はビックリして、夢翔の方を見た。
夢翔もビックリしているみたいで、目がまんまるになっている。
煙がスゥッと消えると、飾り気の無かった髪飾りになにかの花が付いていた。
牡丹によく似た形で、夕陽のように鮮明な朱色をしている。
「おおぅ…!?」
夢翔はまだ驚いていた。
白狐が心配そうに近寄ると、ようやく意識が戻ってきた。
「触ると花が咲くのかな」
夢翔がぽそりと呟くと、白狐が少し興味を持った顔をして髪飾りを見た。
「りゅうご!りゅうご先にやって!!」
俺を振り返ると、白狐は早く早く、と手招きする。
しぶしぶ手に取ってみると、またしてもポンッと音を立てて煙に包まれた。
煙が消えると、桃色の小さな花がたくさんに飾られた髪飾りが出てくる。
「桜かな。」
夢翔が言った。白狐が頷く。
「龍牙女の子みたーい!」
そう言って夢翔が笑いだした。白狐もけらけら笑ってた。
「なっ、勝手に出て来たんだから仕方ないだろ!」
そう言ったものの、自分でも可笑しくなった。
「ほら、白狐もやれ!」
夢翔が白狐に言うと、白狐は笑いながら手に取った。
ポンッと音を立てて煙が舞う。
そして、煙が消えると、紫色の花がでてきた。
「なんの花だろ?」
白狐が不思議そうに首を傾げて言った。
「桔梗だな」
昔、祖母が庭に埋めていた花を思い出す。
色は違ったが、形が一緒なのですぐに分かった。
「それにしても、これ本物の花だよね~。枯れないかな。」
夢翔がついついと朱色の花を引っ張った。
手元の桃色の花びらを見る。
生き生きと咲いているその花は、朽ち果てることを無視しているように艶やかだった。




