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ああ、ありえない日々  作者: 三毛猫
目覚め
5/6

組織

「じゃ、あたしはこれで」

日直の仕事あるんだ、と美菜が手を振って行ってしまった。

夢翔が白狐の背からおりる。ちょっと寂しそうな表情を浮かべていた。

元気な背中を見送ると、開きっぱなしのクリーム色のドアを2回たたいて中に入る。

「失礼しまーす」

天井にとりつけられた扇風機からの風が、上気した体に吹きつけた。

女子が喜びそうな笑顔を浮かべた数学教師が座ってる方に歩く。

「やぁ、よく来てくれたね」

俺、夢翔、白狐の順に見まわした。

「…ここでは話しにくいですね。 少し移動しましょう」

そう言って立ち上がった。

俺たちの間を抜けると、ついておいでの意味で指を二回まげた。


 案内された先は、今の校舎を創る前に使っていたという旧校舎の職員室だった。

新校舎が出来てからは誰もここには来てないのだろう。

天井の隅には蜘蛛の巣、床は埃だらけでひどい状態だ。

「やっぱり汚いな…まぁ、かけてよ。イスは掃除しといたから」

そう言われて見ると、俺たちの近くにある3つのイスがキレイ掃除されていた。

イスを引いて腰掛けると、七槐を見る。

七槐は、一息つくと口を開いた。

「単刀直入に言おう。君たちには、バクペゲを倒す組織に入ってもらいたい。」

夢翔の瞳が微かに揺らいだ。白狐は平然としている。

どうして、七槐は俺たちが見えてるって分かった?

見えてるのか?知ってるのか?

何も言えない俺たちに、七槐が言った。

「ここ最近、やつらが異常に活発化してきているんだ。組織といっても、僕を入れてまだ3人しかいない。」

そこまで言うと、胸ポケットから何かを取り出した。

髪飾りだろうか。

「これは、組織である証。まぁ、鍵みたいなものかな?僕のだけど」

朝顔の花が飾られている。その色は澄み切った空のように青かった。

「さっきも言ったけど、3人しかいないんだ。その中で活発化したやつらを倒すのは難しくなってきている。」

「…そんな中で、偶然君たちがやつらを倒してるところを見たんだよ。体育館のね。」

そうか、七槐も体育館のやつに気づいてたのか。

倒しに行こうとしたところに、俺たちがいたって事か…。

「もし君たちが力になってくれるなら、これを持っていて欲しい。」

机の上に、飾りの無い髪飾りが3つおかれた。

七槐が立ちあがる。

「言い返事を期待してるよ。」

そう言うと、俺たちに向かって微笑んで行ってしまった。

 


残された俺は、混乱こそしていなかったが、しばらく何も言えなかった。

沈黙を破ったのは夢翔だ。

「…組織って、なんか響きがいいね。」

あまりにのん気な発言に、俺はこけそうになった。

そこか!?お前の考える点は!

いや、俺が考え過ぎなのか!?

あの教師を単に嫌いだから、信じられないだけかもしれない。

そんな深刻に思うことでもなかったのか?

なんだか変に考えてしまった自分が恥ずかしい。

夢翔が立ちあがって七槐の残した髪飾りを1つ手に取った。

その途端、ポンッと音を立てて髪飾りが煙に包まれる。

俺と白狐はビックリして、夢翔の方を見た。

夢翔もビックリしているみたいで、目がまんまるになっている。

煙がスゥッと消えると、飾り気の無かった髪飾りになにかの花が付いていた。

牡丹によく似た形で、夕陽のように鮮明な朱色をしている。

「おおぅ…!?」

夢翔はまだ驚いていた。

白狐が心配そうに近寄ると、ようやく意識が戻ってきた。

「触ると花が咲くのかな」

夢翔がぽそりと呟くと、白狐が少し興味を持った顔をして髪飾りを見た。

「りゅうご!りゅうご先にやって!!」

俺を振り返ると、白狐は早く早く、と手招きする。

しぶしぶ手に取ってみると、またしてもポンッと音を立てて煙に包まれた。

煙が消えると、桃色の小さな花がたくさんに飾られた髪飾りが出てくる。

「桜かな。」

夢翔が言った。白狐が頷く。

「龍牙女の子みたーい!」

そう言って夢翔が笑いだした。白狐もけらけら笑ってた。

「なっ、勝手に出て来たんだから仕方ないだろ!」

そう言ったものの、自分でも可笑しくなった。

「ほら、白狐もやれ!」

夢翔が白狐に言うと、白狐は笑いながら手に取った。

ポンッと音を立てて煙が舞う。

そして、煙が消えると、紫色の花がでてきた。

「なんの花だろ?」

白狐が不思議そうに首を傾げて言った。

「桔梗だな」

昔、祖母が庭に埋めていた花を思い出す。

色は違ったが、形が一緒なのですぐに分かった。

「それにしても、これ本物の花だよね~。枯れないかな。」

夢翔がついついと朱色の花を引っ張った。

手元の桃色の花びらを見る。

生き生きと咲いているその花は、朽ち果てることを無視しているように艶やかだった。


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