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ああ、ありえない日々  作者: 三毛猫
目覚め
4/6

素質

「龍牙は才能あったみたいだね」

「は?」

昼休みの屋上。3人で昼飯を食べている時、夢翔が急に言う。

俺の時間が一瞬止まった。

「才能ってなんの」

唐突すぎて話が読めない。

パンを口いっぱいに詰めた夢翔に聞いても、返事はすぐに返ってこなかった。

オレンジジュースを飲みながら答えを待つ。

ようやく全部飲み込むと、ストローを銜えながら夢翔が言った。

「アイツらを倒す才能があった。龍牙にはね。」

言い終わると、ストローをかじる。

白いストローの中を、ミルクティーが登っていった。

少し目を伏せると、ほとんど空になった弁当箱が目に入る。

俺はジュースのパックを置くと、夢翔と白狐を見た。

「そろそろ、話してくれてもいいんじゃねえか?」

夢翔の色素の薄い瞳と、白狐の黒い瞳が、微かに見開いた。

空高くにいる雲雀が笛のような鳴き声を出す。

「アイツらの事と、お前らの事。」

夢翔がストローから口を離した。

白狐は視線を下に落とす。

しばしの沈黙の後、夢翔がその静寂を破った。

「あいつらは、総称『バクペゲ』。幽霊とか、妖怪とかその辺とはちょっと違うんだ。」

そう言うと、夢翔は胸ポケットから鈴と御札を取り出す。

「あいつらは、動きを封じた後に完全に封印する必要がある。封印と言っても、最終的には御神に捧げる物だけど。」

話しながら鈴を持つ。チリンと音が鳴った。

「動きの封じ方は、妖怪とかと同じ。だから、御札とかも効くんだ。けど、封印は違う。」

顔をあげた。夢翔と目が合う。

「封印は、何かの神が憑いた『物』でしかできない。あたしの鈴には、『青龍』がいるんだ」

鈴の色は、空と海を足したような、きれいな青色をしていた。

「物って、何でもいいのか?」

なんとなく思いついた疑問を口にすると、夢翔が首を横に振った。

「う~ん。音がでるものかな? 楽器みたいなもの。」

鈴を持ち上げてチリチリと鳴らす。

「じゃあ、その神ってのはどうやったら憑くんだ?」

知れば知るほどに、疑問がわいた。

夢翔がん~と首をかしげた。

「音を気に入られたら、その神が憑く。」

音を気に入られたら?じゃあ神はしょっちゅう人間が弾いてる物を聞いてるのか。

正直ちょっと信じがたいが、事実を目の当たりにしては否定もできない。

「神が憑いた楽器とかって、どうやったら分かる?」

目に見えない物をどうやって認識するのか、という疑問もわいた。

「あっちから語りかけてくるよ。」

夢翔がためらわずに答える。

「語りかけるって?」

どういうふうに。

その質問に、夢翔は首をかしげた。

「龍牙はもう聞いたでしょ?」

その言葉を理解するのに3秒ぐらいかかった。

「龍笛。あれには『朱雀』が憑いてる」

夢翔がパンの袋を手に取った。

「じゃなきゃ、御札が使えた事に説明がつかない」

ビリっと袋を破くと、キツネ色をしたパンを一口かじる。

御札って、さっきのアレか?

思いついた言葉を言えって…

「…! あの時のか!」

ハッとした俺に夢翔が頷く。

「そう、あの札は特別でね。『神憑き』じゃないと使えないんだよ」

「じゃあ、俺って…」

「『神憑き』だね」

信じられないけど、否定できない現実に、俺も入ってしまったらしい。

確かに御札を突き刺した時、声がした。

その声に重なるように自分も言葉を唱えてた。

「神憑き…」

呆然とその言葉を繰り返していた。

夢翔がふと視線を落としてボソッと呟いた。

「試してたんだ。龍笛を聞いたときから、龍牙には何かあるって思ってたから」

 その時、白狐が目を細める。

そして俺たちを見ると人差し指を立てて唇の前に置いた。

この話は終わり。その合図である。

人が来たのだ。

「あ、ここにいた!」

「美菜…」

にこやかな笑顔を浮かべて、美菜がひょっこり顔を出した。

「七槐先生が、そこの三人呼んできてって!職員室に。何かしたの?」

「何もしてないけど… なんかしたのかな。」

白がきょとんとした顔をする。

俺だって分からん。

「…行ってみるか」

状況が見えないのでとりあえず立ち上がった。

「…夢翔~、動きづらい」

「ふぇい」

そういえば美菜が来てから夢翔が喋ってない。

何かと思えば、こいつ、思春期の男子よりも女子の事を意識してしまうらしい。

白の腰に腕を回して顔を背中に埋めていた。

美菜がそんな夢翔を見て、また笑いをこらえてた。

「やれやれ」

白が苦笑しながら夢翔をおんぶした。

女子の中では背は高めの夢翔も、白にかかれば小さい女の子だ。

 屋上から職員室は結構距離がある。

人通りも多いから、こんな声がときどき聞こえた。

「ね、夢翔ちゃんと白くんって付き合ってるの!?」

「うそ!あたし白くんタイプなのにー!」

ひそひそ話だろうが、少なからず俺と美菜にはばっちり聞こえてた。

当の本人たちは全く聞こえていなかったが。

それにしても、何の用だろうか。

俺としては関わりたくない人物だけに、足取りは重かった。


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