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ああ、ありえない日々  作者: 三毛猫
目覚め
2/6

宿泊

「おじゃましまーす」

「誰もいねーから」

部屋を指差して、あがれと言った。

今日は両親がいないから都合がいい。

だがしかし、白狐の後ろにいる人影が気になる。

「なんで、お前もいるんだよ」

「いや、お前の両親いなさそうだったし、今日泊まるとこないし」

白狐の陰からちょっと顔を出して夢翔が言った。

まぁ、親が旅行なら別にいいか。

―いろいろ聞きたい事もあるし。

ぞろぞろと俺の部屋に行くと、夢翔はベットに腰掛けた。

白狐はその隣に座る。俺は自分のイスに座った。

「なぁ、今日でてきたアイツらの事だけど…」

そこまで言って二人を見ると、こっちの話を聞いてない。

二人の目線の先を見ると、自分の龍笛(横笛)があった。

昔、祖父に作ってもらった特注品だ。

夢翔が俺を見る。白狐も俺を見る。

「…なんだよ。弾けってか。」

二人一緒に頷く。打ち合わせでもしてたかのようにぴったりと。

「やれやれ」

ため息交じりにそう言うと、立ち上がる。

龍笛を手に取り、唇をあてた。

「ちょっとだけだぞ。夜だし」

二人の返事を聞く前に、静かに笛が鳴りはじめた。



笛じゃない、他の音が一瞬。聞こえた気がした。



「…終わり」

そう言って龍笛を置くと、二人を見る。

夢翔が目をキラキラさせながらこっちを見ていた。

「すごいな!龍牙すごいな!」

小さい子みたいにはしゃいでほめる。

なんか、照れくさかった。

「どーでもいいけど、早く風呂入れ。」

顔を見られたくなくて、わざと顔を反らして言った。

夢翔は相変わらずキラキラしながら部屋を出る。

風呂の場所は探すだろう。

出ていったのを確認してから、イスに座った。

白狐を見ると、寝てる。多分演奏してるときから。

まだなんか照れくさい。頭をかきまわして自分を落ち着かせる。

「なんなんだよ…」

「なにがだ」

一瞬時が止まった。いつの間にか白狐が起きてた。

白狐があくびをしてるところを見ると、さっきまで寝ていたことは確かだ。

「なぁ」

「ん」

白狐が口を開く。

「お前、夢翔好きか?」

また時が止まる。

好きかって、出会って初日でそれはないだろう。

友達としてって事か?どうなんだ?

とりあえず答える。

「友達だったら面白い」

「そうなのか?」

白狐が目を丸くして俺を見る。

俺はとりあえず頷いた。

すると、白狐がズカズカと近づいてきた。

「アイツの友達か!?」

その言葉に違和感を覚えたが、頷いた。

いきなり体が宙に浮く。

なんつー力してんだこいつ。

175センチ以上の俺を簡単に持ちあげやがった。

「って、おい。降ろせ」

さすがに自分と同じ年ごろの男に持ち上げられるのはダメだろ。

白狐は素直に降ろした。

「お前いい奴だな! 名前なんだっけ、りゅうご?」

「りゅうがだ」

そうそう、といいながら白狐は上機嫌でベットに座った。

俺はまた自分のイスに座る。

「なぁ」

さっき感じた違和感。

まるで、いままで誰とも親しくしたことがない みたいな言い方。

「夢翔ってここに来る前は、どこに?」

白狐が目を伏せた。

重たい沈黙が長い時間続く。

「それは…」

「どひゃーーーー!!」

やっと白狐が口を開いたと思ったら、とんだムードクラッシャーだ。

俺は驚いてイスから落ちる。

白狐はベッドにひっくり返ってた。

「なんなんだよお前!!」

俺が叫ぶと、夢翔は濡れた髪を振り乱して言った。

「階段!階段にゴキブリが!!」

どっから持って来たんだか、新聞紙を丸めて俺に渡す。

こいつ、あのバケモノは平気なのにゴキブリは嫌なのか。

意外に思いつつ廊下に出る。夢翔が後ろからヒョコヒョコついてくる。

上から5段目に黒光りするものがいる。

つぶすのはさすがに嫌だな。

軽ーく叩いて気絶させた後、新聞で丁寧に包んできちんと燃えるごみに捨てる。

…このゴキブリめ。

せっかく聞けそうだった話が、聞けなかったじゃねーか。

もう出てくることは無いであろうそれを少しにらむと、ごみ箱のふたを閉じた。


その夜は何も起きなかった。

夜、誰も知らないところで 龍笛が光っていたこと以外は―


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