決意と生還
命からがらの、夕日を背に浴びながらの撤退。少年達は、ほうほうの体で現実世界へ帰還を果たした。そしてそのまま、へたり込む。通行人が不思議そうな顔をしていたが、三人にそれを気にする余裕などなかった。
三人とも例外なく限界であった。体力、気力そして最も重篤なのが脳の疲労であった。少年達は帰還を喜びを分かち合う事もなく足早に帰宅し泥のように眠るのであった。
そしてそんな命をかけた戦闘の翌日、示し合わせる事なく三人は再び集まっていた。翌日といっても、極度の疲労は数時間程度で抜けきらず目覚めたのは昼過ぎであった。そして最終的に集まれたのは夕方であった。
「夕日を見るとフラッシュバックすると思ったけど案外平気だね」
あの時と同じように三人並んで座りながら明は言う。あの日、モールに突入する直前寝そべっていた公園の芝の上で琉希は答える。
「いや、俺は1人だったらフラッシュバックしてたな」
「……同じく」
夕焼け空を雲が流れてゆく。そして、無言の時間がしばらく続き、明は唐突に言う。
「強くなりたいね。あんな事にならないように、失わないように」
この場に居ない4人目を思い浮かべているのだろう。明は言う。
「一回目で足が吹っ飛ぶんだ。ダメージ計算が出来ない奴じゃない。死ぬ覚悟で時間を作ってくれたんだよな」
「……そうだろうね。あれ確実に十分超えてたもん」
あの時五分いや十分持たすと言っていたコタロウは、十分超の時間を三人に与えてくれた。
「……あれがあったから、ホントの意味で覚悟が決まった」
あの時、そこまで本当は執着する気じゃなかったんだとちゃーは軽く言う。
「そこら辺はピンと来ねぇけど、正直。なんか生き延びたってより、死にぞこなったって方がしっくりこねぇ?」
「能力使えなくなって、ダウンしたら敵同士潰しあった感じだったもんね」
「完全にガス欠になったからタゲ外れたんだろうな。つまり彼奴ら、だいぶ単純なルールで動いてそうだ」
琉希は昨日の、人型の影が急に自分達を襲わなくなった理由について考え込み始めた。
「空っぽは同族より優先度低いか、認識出来ないか、か。有り得そうなのは。どちらにせよ幸運としかいいようがねぇ」
答え合わせをしてくれそうな人は居ないので正解は出ない。
「……人型が合体した黒い靄。カモってたのと同じなんだろうか? 足し算パターンも有りうるくね」
「勘弁してよね。足し算パターンだった時、今の僕らじゃどうしようもなくなっちゃうから」
「……最優先は能力の真価の発揮か」
「あぁ、そうだな。アレを早くモノにしよう。限界の淵で掴んだなにか、それで俺らは強くなれる」
琉希が握った拳を見つめながら言う。
「……確かに。覚醒してた」
「あれどうやってやってたの?オーラ移動させるやつ」
明は昨日、琉希の回復の最中。琉希の背中を守るオーラが薄くなり、その分前が厚くなるのを見ていた。
「分からん。ただ出力下がったオーラで受けきらなくちゃ行けなくて、けど総量は増えない。だから守らなくていい所から持ってこようって思ったんだ」
「なるほど」
「けど、思っただけで意図してやった訳じゃない」
「まぁそうだよな。僕もあの瞬間、回復のロス画無くなってるって自覚はあったけどね。同じ事今出来ないもんね。てか出来なかった」
明と琉希はそんなもんだよなと肩を竦める。追い詰められたあの瞬間の自分たちは、思ってたより難しい事をしていたのだと二人は実感した。
「ちゃーは?」
「……俺はあの感覚がまだ残ってる。同じ事するのは無理にしろ近しい事は出来ると思う。ゲームでも一度できた事ってまた出来るから」
そりゃあ百出来るとは言わないけどと付けたし、ちゃーは言う。しかし、これは天才肌で感覚派のちゃーなればこそだろう。
「……だから俺。コタロウの死を無駄にはしない」
ちゃーは先程の自信に溢れた表情から一転、フードを深く被り直しながら言う。
「そうだな。笑われちまうよな。このまま醜態晒すようじゃ」
「確かにね。ちゃんとしなきゃだね」
そうして三人は決意に満ちた瞳で、沈みゆく夕日を見つめるのであった。
「あの〜そんなにセンチな空気出されると……とっても出ていきにくいにゃんけど」
三人の背後からここ何日かで聞きなれた、高く澄んだ女の声が聞こえる。三人は慌てて背後を振り返る。
そこには、白い毛を蓄えた青い瞳のペルシャ猫が五体満足で存在していた。ただ、その表情はとても気まずそうであった。
「コタロウ!生きてたんだ。でもどうして?」
明が駆け寄り、コタロウを抱き抱える。そのまま手や足をペダペタと触り実物かどうかを確かめる。
「ちゃんと皆に言ったにゃん。一晩寝れば治るってにゃん」
三人は昨日の事を思い返すかのように宙を見つめる。
「ひょっとして足吹っ飛んだ時のアレ?」
明は恐る恐るコタロウに聞く。コタロウは正解と言わんばかりに首を振る。
「……いやどう考えても強がりとしか」
琉希がうんうんと頷く。
「僕への優しい嘘だと思ったんだけど」
「足が治るなら全身も行けるに決まってるにゃん。決まってるはずなのにゃん」
涙を浮かべながら言うコタロウ。身体の一部が再生する身であっても、全身再生は一か八かであったのだろう。
「良かったよコタロウ。無事で」
「三人も無事でよかったにゃん」
「あ、でもそれはそれとしてセンチになってたところは忘れてね。恥ずかしいから」
雰囲気をぶった切り、真顔で明はコタロウに言う。その迫力に押されたのかコタロウはこくこくと首を振る。
「良かった。忘れないならちゃーの手を煩わせなきゃ行けなくなってたよ」
「……何さす気だよ」
「明、明。記憶って外部からのダメージじゃあんま消えないらしいよ」
「再生したてホヤホヤの頭、吹き飛ばそうとしてたにゃん!リス狩り厨の方がまだ優しい木にゃん」
明は抱いたコタロウを強く抱き締めて言う。
「ほんとに死んだと思ったんだから」
「ごめんにゃん。三人とも凄い成長してたにゃんね。見てたにゃん」
コタロウは言う。力尽きる本当の直前のアレの事を言っているのであろう。
「早く言えよ。守れなかったって本気で思ってたんだぞ」
「ごめんにゃん。伝える口がなかったにゃん」
その言葉に、琉希は二の句が告げなくなったようで、お前それは卑怯だぞといい沈黙する。
「……人型と遭遇すまでゲーム感覚で居てごめん」
「それはホントに謝った方がいいにゃんね!!特に二人に!」
コタロウはちゃーに吠える。そんなやり取りに二人は苦笑いをする。
「というかずっと疑問に思ってたにゃんけど、ちゃーはなんでちゃーなのにゃん?」
コタロウが今更も今更な質問をする。シリアスな雰囲気どこへやらではあるが、渡りに船と思ったのだろう琉希が答える。
「こいつのゲームのプレイヤーネームの『 茶畑大明神』から取ってんだ」
「にゃん?じゃあ本名とは全然関係ないにゃん」
「うん、関係ないよ。1文字もあってないかも」
その質問には明が返答する。それにコタロウは、なんじゃそりゃとでも言いたげな表情を浮かべる。
「……本名和真だからかすりもしてない」
「ほんとに関係ないにゃん」
そしてこのまま四人は、なんて事ない会話を日の落ちるまで続けていた。それは、四人ともが死地から無事生還した事を確かめ合うかの見えた。
しかし、死ぬギリギリのおもいをしたのにも関わらず三人は引き続きコタロウと行動を共にするのであろう。何故なら、彼らが求めているのは平凡ではない日常でしか味わえないワクワク感であるのだから……




