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糞仁爆破編

 使い回しの青色一号が散布された空は美国の吉祥寺州Bostonシティーに蓋をしている。

 その空を支える柱、コンクリートのパルテノン神殿は労働が祈りになった経緯と似ているが、おれたちの生活はあの頃より酷いんじゃないかと思う事がある。

 いや、あのころの人々はまだ考える葦だった。いまのおれたちは考えるのを止めたイソギンチャクだ。

 だから、とにかくここを出なきゃならない。


 深夜超特急バス「大きくてスイマセン」号に並ぶ列は炊き出しや配給よりも長い。

 通常なら三日かかるところを、金で買った順番に入ってもまだ数時間は待ちそうだった。

 手持ちの本を読み終えたおれは、それを交換した煙草を吸ったりチンポをいじったりして待っていた。

 するとひとりの奇妙な男が歩いてくるのが見えた。

 その男は鼻下から喉元まで伸びた綺麗なフマンチュ髭を撫でながら歩いていて、周囲を睥睨しながらテキサスブロンコ風のハードな服を脱いで丁寧に畳むと、全裸になり、ゆっくりとした堂々たる大股で男子便所に入っていった。


 隣の男をに訊いた。

「おれは何かの悪夢を見たのか?」

 隣の男は笑った。

「まるで誰かのな」

 良かった、おれはまだ狂っていない。

 便所に目を戻す。

 ここ数年のマスク生活ですっかり忘れていたが本来の公衆便所は酷い悪臭がする場所で、日に一人は吐く奴がいる。

 あんな場所に全裸で入るとはきっと気が狂ってるに違いない。それとも奴の故郷ではそれが礼儀作法なのか?


 だが3秒後には公衆便所のことなんか忘れていた。

 運良く寿命が尽きるより先に列は解消される。おれが立った受付窓口の中には不機嫌そうな男が座っている。

 誰だって労働は厭だが、お前の賃金は俺たちの消費から出てるんだ、少しくらい愛想良くして欲しいもんだと願う。

「バスが定刻通りかって?冗談じゃねぇ、飛行機にでも乗るつもりか?」

 ニガみ走ったアフリカ系アメリカ人の男が分厚いプラスチック製の窓を挟んだカウンターから怒鳴った。


 その分厚いくちびるを見ながら心底ウンザリした気持ちになる。

 これが私営職員の態度なのか?

 国営ソープの黒服だってもうすこしまともな口の利き方ができる。

 だがコイツをぶちのめしたところで、「大きくてスイマセン」号のチケットが買えなくなるだけだ。

 今どきじゃ希少種の白人でさえやらない、肩をすくめる気取ったポーズをした。

「悪かったな、そんなに怒るなよ」

「日本人とアラブ人は時計を外すべきだな」

 そう言ってニガみ走ったアフリカ系アメリカ人の男は手で俺を追い払い、おれの後ろに並んだ他のアフリカ系アメリカ人の男と談笑を始めた。


 美国の吉祥寺州Bostonシティーのスラムにある中華街で、英語も覚束ない中国人から買ったチケットは偽物だった。

 使えないレベルの贋作チケットを掴まされたおれも間抜けだが、レンブラントにつくらせる訳にもいかない。

 だからあの女をリバー吉原サイドの風呂屋に売り飛ばしてやった。

 スターアニスだとかウコンやらの香辛料臭さも生活臭も、ローションと泡でロンダリングされて流しちまえ。


 ──くそ、途中で食ったパンダエクスプレスの弁当が腐ってやがったのか?

 地溝油くせぇゲップが出る。

 腹が痛い。

 おれは辺りを見回して、結局は悪夢みたいなテキサスブロンコが突入したその便所に入る事にした。


 

 便所の中は換気の悪い地下らしく、蒸れた汗や埃と、安物のアルコールの匂いが立ち込めてアンモニア臭を押し潰していた。

 蛍光灯は明滅していて、割れた鏡がヒステリー女の目みたいに光る。


 やたら位置の高い小便器に向かう。

 排水が悪く、下の受け皿には濁った水が溜まってフィンセント・ファン・コッホの星月夜に似た渦を描いている。

 見ているだけで胸糞が悪くなる。



「チンチャンチョン、ウェイ・パァ!ってホビット語ではなんて言うんだ?」

 隣の便器で用を足しながら色白の大男が笑いながら言う。

 周囲のションベン野郎たちもニヤニヤ笑っていた。

 おれは大男を見上げて微笑み返した。

「オランダ人は身長を気にし過ぎて祖父の金玉に礼儀を忘れたのか?」

 オランダ野郎の金玉を顎でしゃくりながら聞き返すと、便所の中は歓声で盛り上がった。


 オランダ人が豪快なションベンで便器をガウディみたいに彫りながら笑う。

「黄色いチビのホビット野郎、いい度胸してやがる」

 おれはションベンで便器の汚れを落としながら山水画を描く。

「ほらな、祖父のキンタマに礼儀も治世も忘れてきやがった。チビもホビットも同じ意味だろ?首に載せてるのは飾りばっか派手で仕方ねぇ」



 どっと笑うションベン野郎たち。

 大便器の個室ではドアを叩いて盛り上げてくる輩までいた。


 レスバで劣勢になった空飛ぶオランダ野郎はシミだらけの腕で力こぶを作ると軽く凄みだした。

「ミゼット野郎、いい気になってんじゃあねぇぞ」

「少しは人間のフリが上手くなってきたな」

 おれは身体の向きを変えて、いつでもションベンをオランダ野郎にぶっかける体勢を整えた。



 止まることのないションベンが小便器から溢れ出そうになっている。

 その緊張感もさることながら、おれとオランダ野郎のスチェンカ寸前な一触即発っぷりに勃起を隠せない男たちが固唾を飲んだ。

 扉で隔てた大便器の個室からは、脱糞か薬物か陰茎を挿入した事による快感から出た唸り声が聞こえる。


 誰かが口笛を吹き、軽い合図をする。

 ギラギラとしたレザーの制服を着た見回りの警察官がやってきて、付けられる因縁を探して回ったが、見える範囲には特に何もなかった。

 だが扉の向こうは違う。

 例の音を聴いたHGポリスが苦笑いしながらドアを叩く。

「大丈夫か?」

 中のビチグソ野郎がボエミアンな声で歌う。

「あぁ、もうすぐ来るわコレ」



 淫売の息子ポリスが便所を出ると、男たちはすぐさま熱気を取り戻した。

 ヒートアップした公衆便所の熱気で汗もションベンもすぐさま立ち昇り、低い天井に雲を作りそうな有様だった。

 オランダ野郎はおれの飛び道具を警戒しながら口火を切った。

「おい生意気なホビット野郎、傘を差してやろうか」

 掛け合いも下手くそときた。

 おれは鼻で笑うとチンポを振ってションベンの雫を切った。



「汚ねえ雲でも吸ってラリってんのか?」

 言い終わると同時にチンポを如意してオランダ野郎の水月を強襲した。

 直撃を食らった巨大なオランダ人はションベンを撒き散らしながらゲロを吐き、ついに小便器から溢れ出たゲロとションベンがタイルの床を流れていく。

 汚ねえモネみたいになったオランダ人はそのまま排水口に飲み込まれていった。


 貰いゲロをする根性無しのアングロサクソン共が他人のゲロを避けながらタップダンスを踊り、その埃が舞い上がってまた部屋を彩る。

 そして大便器の個室から悪夢の全裸のテキサスブロンコが躍り出ると、ゆっくりと膨張してから爆発して飛び散りジャクソン篠原ポロックと言った具合のアート性で便所を派手に汚した。


 おれは如意したチンポを不如意してジッパーの奥にストレンジラブをした。

 やれやれ、むかしの京王線仙川駅前にあった公衆便所はこんな感じだったなと思いながらダビデ像より美しい手を洗って顔を上げて鏡を見ると、そこに映っていたのはヘラヘラと愛想笑いをしている黄色い小さなホビット野郎だった。

「屁ってのは糞の粒子なんだろ、それなら理論上では粉塵爆発もありうるのか」

 おれは笑いながら煙草を咥えて火をつけた。

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