暗黒の遠未来にて
名も知れない惑星の一つをブラック・テンプラーの強襲戦艦が訪れたのは皇帝陛下のお導きがあったからに他ならない。また、その惑星の表面に、金属生命体の痕跡が見られた時、ブラック・テンプラー征戦団はその使命と信仰を込め、ボルタ―の弾を装填した。
伝授者伝授者の一人、キャンパスの元へと惑星への降下命令が来た時、すでに彼は準備ができていた。自らの黒いパワーアーマーに身を包み、洗礼された聖銃ボルタ―と祝福されたチェーンソードを携えて、降下艇の前にいた。すでに同胞団は集まっている。
「我らは皇帝陛下の剣、皇帝陛下の御旗、皇帝陛下の声。皇帝陛下の御名のもとに、異種族を滅殺せよ」
将帥が集まった同胞へと声をかける。
皆が一様に聞いていた。
皆の黒いパワーアーマーの肩当てには、ブラックテンプラー戦団の象徴たる白地に黒い十字架が描かれていた。
「皇帝陛下の為に」
「皇帝陛下の為に!」
征戦団がそう高らかに誓い、降下艇へと乗り込み、惑星表面へと降下する。
「キャンパス」
将帥が一人残るキャンパスへと声をかけてきた。
「お前にはいつも通りアサルトをお願いする。他に奴らにも頼んだが」
ドロップポッド・アサルト。
いわゆる強襲である。正面から進行する降下艇とは別に、ドロップポッドがいくつか敵陣中央へと降下して直接に敵の内部から攪乱する。この征戦団の常套手段でもあった。
「それが役目でありますので」
「頼りにしているぞ。お前の修練士は? どうだ?」
「皇帝陛下の導きとやらです。……失礼、どうにも、遅れているようです。腕は確かですが、協調性に欠け……将帥」
キャンパスが胸に抱える疑問を口にしようとした時、将帥の手がそれを制した。
「おっと、指導から外れるというのは許されない。修練士を育てるのも役目だ」
「しかし」
「確かに前例はある。お前が修練士の一人を育てるのにしくじった。だが、それをいつまでも引きずってはいかん」
苦い記憶がキャンパスの脳内に広がった。
審問庁に一人の修練士を引き渡した時の事は、今でも、鮮明と思い出せる。
それが将帥にも伝わったのか、力強くキャンパスの肩を叩く。
「頼むぞ。皇帝陛下の為に」
「皇帝陛下の為に」
そうやって、キャンパスは悩みを飲み込むほかなかった。
「遅れました、イニシエイト・キャンパス」
修練士マクロニが慌てた様子で現れた。
「遅いぞ。マクロニ。すでに他の皆、同胞は降下した」
「申し訳ありません。実は」
「言い訳は聞きたくない。早く降りるぞ」
ドロップポッドに入り込んだキャンパスに続いて、マクロニが乗り込む。
他の同胞が降下への準備を進めてくれる間、待つほかない。
「……ちなみに、作戦目標は聞いているな?」
マクロニにキャンパスは水を向けた。
沈黙されても困り、委縮されても困る。緊張をほぐすためでもあった。
「はい。今回は惑星表面の異種族の拠点の探索です。おそらくはすでに廃棄されていると思いますが、もしも、残存していたら、敵性生命体の排除と殲滅です」
「マクロニ。希望的観測は不要だ。すでに廃棄されているというのは考えるな」
「申し訳ありません」
「お前は焦りが多すぎる。もっと慎重に動け」
前に育てた修練士はそうではなかった、と続けて口にして自らしまったと舌打ちする。
「前の修練士はどうされているのですか?」
自然とマクロニからそう疑問が出てくる。
「前の修練士、カフェイは剣に長けた男だった。慎重ながらも軽薄だった。気に入らない。軽薄な若者という所は、お前にそっくりだな」
「なら、きっと今も戦っておられるのでしょうね」
「いいや、奴は修練士最後の日、異端に触れた」
異端。
異種族の知識、技術、混沌の知識、サイカーとの接触。
それらすべてが異端審問庁への目に留まる内容だった。
「つまりは」
マクロニがその疑問を発する前に、ドロップポッドは惑星へと向けて射出された。
流星のように筋を描いたドロップポッドは、機械生命体の拠点を直撃し、その深部まで侵入することが出来た。
予想外だった事は、キャンパス達がのったドロップポッドだけが不思議な事に単体で降下してしまっていたことだ。他の同胞たちから離れた場所である。さすがに降下艇とは違う箇所に降りるのは予想していたが、他のいくつかのドロップポッドと離れるのは予想外だった。
そして、もう一つ。
噴煙の中、緑色に輝く金属生命体がその忌々しい音を立て現れた。
キャンパスのパワーソードがその腕を切り捨て、ボルターが金属の頭を吹き飛ばす。
予想していた通りだ。
「予想していた通りですね。これは」
マクロニがそう叫び、ボルトガンを乱射する。
機械生命体、ネクロンの墳墓。いいや、どうでもいい。
「異種族は滅殺する」
皇帝陛下の為に。
墳墓の奥へと到達した時、すでにキャンパスとマクロニは何体のネクロンを打倒したか数えるのはやめていた。複合的な要因が考えられたが、一つはネクロンの攻撃が止んだこともある。不気味なほどに簡単に進むことが出来た。
「不気味ですね」
と、マクロニが言う。
こうも簡単に足が進むはずがない。
熟練の戦士は知っている。
戦地では、うまくいくはずがない。なにもかもが裏目に出る。
ひときわ大きな空間へと出た時、マクロニが感嘆の声を漏らした。無理もない。そこはネクロンの墳墓の重要な一室ともいえる空間であると一目でわかる荘厳さがあった。張り巡らされた配線やら何やらは、火星の機械教徒が見れば喜ぶだろうとキャンパスは思った。
「あー、あー」
声が聞こえ、そちらへとボルターを即座に撃ち込む。
「マジかよ。勘弁してくれ。こっちは丸腰だぞ」
柱の影から声が聞こえる。カタカタと金属音が聞こえる。
柱の影へとマクロニが回りこもうとした。
と、途端に、陰から黒い影が素早くマクロニへと飛び掛かる。金属の腕がマクロニの首へとかかる。
「ま、丸腰でも強いけどな」
マクロニを盾にするようにぬるりとネクロンが回った。
ネクロンの金属の腕と爪がマクロニの首をしっかりと掴む。さらに他の腕がマクロニに抵抗されないようにがっしりと抑え、宙に持ち上げていた。あくまで首を掴んでいるのは、いつでももぎりとれるように、という事だろう。
「そいつを放せ」
「おっとぉ、それはこっちの台詞だ。虫けら。とっとと武器を捨てろ、でないとわかるよな」
ネクロンの緑色の目がすっとキャンパスを見た。
「おおっと、これはこれは、腐乱死体の信徒か。こんな惑星までご苦労さま」
わざとらしく神経を逆なでする言葉。明らかに挑発だ。
それであっても、ボルタ―を握るキャンパスの手に力がこもる。
「そいつを放せ」
「二度も同じ事を言わせるな、虫けら」
ぐっとマクロニが声を漏らした。
キャンパスの手からボルターが離れ、地面に置かれた。
「聞き分けのいい虫けらは(・∀・)イイネ!!」
「なんだ貴様は」
「私はこの墳墓の、いいや、この惑星の管理者だ。随分と前からここを監視しているようだが。できれば穏便にかえってもらいたい」
「それは無理な相談だ」
「だろうね」
マクロニの首を掴むネクロンの腕に力が入るのが見える。
カタカタと愉快そうにネクロンは指を鳴らす。
と、その時である。
ネクロンの腕が爆ぜた。
見れば、ひとりのマリーンが部屋の入り口からネクロンへと向けて銃を構えている。
鈍く銀に輝くパワーアーマー、白地に黒く重ねられた十字架、そして――
審問庁の肩当て。
「デスウォッチ?」
床に倒れ落ちたマクロニがそのマリーンを見てせき込みながらも呟く。
間違いなく、それは、マリーンの精鋭デスウォッチに他ならない。
ネクロンは右へ左へと動きながら、デスウォッチへと迫るが、ボルタ―を手にしたキャンパスがその隙を見逃すことはない。十字砲火の形をとりながらネクロンへと銃火を浴びせる。最後の抵抗とばかりにネクロンが身をよじり、そして、暗がりへと姿を消した。
マクロニが立ち上がるのを手助けするデスウォッチにキャンパスは近づく。
「助かった。まさかデスウォッチがいるとは」
「こちらこそ、ブラック・テンプラーが来るとは思っていなかった」
「くる? いいや、われわれは、少し前にここに来たばかりだ」
デスウォッチはキャンパスの言葉を聞いて、言葉を失ったようだった。
しばらく、沈黙をして首を横に振った。
「皇帝陛下の導き、とやらだな」
「何?」
自らの口癖を真似されたようでキャンパスの言葉に棘が混じる。
「気を悪くはしないでほしい。実はここで異種族の活動が活発でね。他の戦団へ救援を求めたところだったんだ。だから、皇帝陛下のお導きというやつだ」
若さを感じ、キャンパスはこのデスウォッチがまだ経験が足りないのかと思った。デスウォッチは確かに精鋭部隊とも聞く、しかし、それと同時に戦団の厄介者やはみ出し者の行く先でもあるのだ。
無礼な若者に他ならない。
カタカタと部屋の外から振動が聞こえる。
間違いなく今までいなかったネクロンの大群がこの部屋まで向かってきているのが感じられた。
「伝授者キャンパス。どうします」
「ともかく、作戦は遂行する。後方でのかく乱だ。すぐに本隊が来る」
「なら、俺も協力する。伝授者キャンパス」
「そう呼ぶな、デスウォッチ」
入り口へと歩き始めるキャンパスはそう深いそうに言い返す。
やはり、不快な若者だ。
「デスウォッチと呼ばれるのも悪くはないが、せめて、こう呼んでくれ」
デスウォッチはボルトライフルを構えた。
「カフェイ」
「そうだな。その方が、らしい」
とても不快な若者だ。
マクロニの顔が驚きに満ちている。
「頼んだぞ、カフェイ」
ネクロンの大群はそこまで迫っていた。
そして、暗黒の遠未来では、戦争だけが残された。




