破裂音の証拠
湯けむりが薄く立ち込める配管工事の現場。新しいステンレス鋼管の冷たい光と、苔むした岩盤の温もりが鋭く対立していた。電動工具の甲高い「効率的な流れ」の音色が場を支配する中、少年は、湯脈の心臓部、古い石積みの配管脇で作業する配管師、タキに引き寄せられた。
タキの心の色は、地底の清らかな水と長い歳月を重ねた岩盤の色が溶け合った「水脈の瑠璃色」。彼のハンマーがパイプの継ぎ目を叩くとき、それは神に捧げる鎮魂歌のように厳かで、「湯が最も抵抗なく流れる『静かな低音』」という太古のメロディが響いていた。
しかし、その静かな調和は、開発責任者の「利益の赤」によって破られた。コスト削減のため、タキが「この地の硫黄に耐えられない」と訴えた特殊な安価なバルブが、現場に運び込まれた。
「いいか、タキ。これは予算だ。マニュアル通りにやれ。五年持てば十分だ」
責任者の「利益の赤」が、傲慢さで血のような深紅に変わり、勝利を叫ぶ。
タキの「水脈の瑠璃色」は、湯脈の悲鳴を映して濁り、深い紺色に沈んだ。彼のハンマーは宙で動きを止め、静かな低音のメロディが途絶える。
二. ノイズの刻印
この瞬間、少年は強烈な「ノイズ」を感じた。それは、バルブが設置される箇所から未来に向かって伸びる、魂の断裂音だった。人間が「湯の命」よりも「利潤」を優先する際に生じる、システム全体の未来の『破裂音』。少年には、バルブが腐食し、湯脈が堰き止められる未来の光景が、すでに黒いヒビとして鮮明に見えていた。
タキは何も言わず、諦めの色を帯びた手でバルブを設置する作業を始めた。彼の瑠璃色は、重い沈黙の下に閉じ込められていく。
少年は、自分がこの地で求めていたものが何であるかを理解した。それは、偽りの調和が真実を抑圧する瞬間を見届け、そして、一人で行動することだった。
誰も気づかないうちに、少年はタキの長年使い込まれた配管用レンチに、そっと手を伸ばした。自身の「ノイズの予感」を、指先からレンチへと流し込み、バルブのネジ山に、肉眼では捉えられないミクロン単位の「傷」を刻み込んだ。
タキはレンチを握り、バルブを締めた。だが、その最終トルクで、タキの「水脈の瑠璃色」の心が、予期せぬ「ヌル」という抵抗の甘さ、すなわち「ノイズ」を拾い上げた。
「...規定トルクで締め付けたが、どうも、バルブのネジ山に『湯の流れへの抵抗』を感じます」
タキの「静かな低音」が、岩盤を穿つ深さで響いた。彼の一瞬の「躊躇」は、少年の行動がもたらしたものだった。
三. 真実の具現化
少年は、タキの警告を「沈黙できない決定的な証拠」に変えるため、再び行動した。
彼は、バルブの継ぎ目につながる岩盤に手を置き、地底の湯脈の振動を、バルブの固有振動数に合わせるようにごくわずかに「乱れ」を加えた。
その瞬間、バルブの継ぎ目から、「シャー...」という不協和な音が発せられ、硫黄の匂いを凝縮した「微細な霧」が線香の煙のように立ち昇り始めた。少年が刻んだ「傷」と「振動の乱れ」が共鳴し、未来の破裂音が「今」の証拠として具現化したのだ。
タキの「水脈の瑠璃色」は完全に覚醒した。彼は、責任者の怒号を無視し、誰にも許されないはずの「設置済みのバルブを再び緩める」という決定的な違反行為を、迷いなく行った。
硫黄の蒸気が勢いよく噴き出す。タキは、外したバルブのネジ山を、現場の全員に見えるように示した。安価な真鍮バルブには、少年が刻み込んだ「傷」の箇所から、硫黄による腐食が始まり、黒いヒビが鮮明に走っていることが、高温の蒸気によって露わにされた。
四. 証拠の永続化と完結
責任者の「利益の赤」が上げる怒号と、現場の混乱は、頂点に達していた。
少年は、この混乱の「ノイズ」を「沈黙のカーテン」として利用した。彼は懐から小型の記録装置を取り出し、床に置かれた腐食バルブの黒いヒビを、背景の湯けむりと岩盤と共に、日時入りで静かに撮影・記録した。
この記録は、責任者がこの失敗を隠蔽したり、タキの作業ミスにしたりするのを防ぐ、「真実のメロディ」が未来永劫に響くための、永遠に消せない石碑となった。
タキは、既に「水脈の瑠璃色」に従い、特殊なステンレス鋼管を手に取っていた。彼の「静かな低音」のメロディは、誰の命令にも屈せず、再び力強く響き始めている。
少年は、自分がこの旅で求めたもの――偽りの調和を破り、未来の『破裂音』を、「真実の警告」に変えること――を達成したことを知った。
彼は、誰にも気取られることなく、湯けむりの中にその姿を溶け込ませ、現場を後にした。彼の透き通った瞳は、未来の風景から黒いヒビが完全に消え去ったことを確認していた。
(第3話 完)




