第6部-第97章 信頼を得るために
翌朝。
施設に向かう足取りは重かった。
昨日の陰口がまだ胸に刺さっていたからだ。
だが同時に、心の奥底に奇妙な熱も残っていた。
――このまま笑われ続けるのは嫌だ。
母の言葉に背中を押されるように、浩一は腹をくくった。
午前中の仕事を終えたあと、休憩室で主任の佐藤に声をかける。
「……あの、もっと仕事を任せてもらえませんか」
佐藤は驚いたように目を見開いた。
「浩一さんが? 急にどうしたんですか」
「信頼を得たいんです。今のままじゃ、俺……ただ居るだけで、誰にも信用されない」
言い切った自分に、浩一自身が驚いた。
だが佐藤は真剣に頷き、しばらく考え込む。
「……じゃあ、来月の地域交流イベントを一緒に企画してみますか?」
その言葉に、浩一の胸が高鳴った。
これまで裏方の雑用ばかりだった自分が、初めて「前に出る仕事」を任されようとしている。
「や、やります……!」
声が震えたが、その目には確かな決意が宿っていた。
帰宅後、母に報告すると、母は静かに笑った。
「そう。なら、失敗してもいいから最後までやりなさい」
その一言に、浩一は深く頷いた。
――五十歳にして初めての挑戦。
それは小さなイベント企画かもしれない。
だが彼にとっては、人生を取り戻すための大きな一歩だった。




