第6部-第95章 地域とのはじめの一歩
週末、施設では地域の子ども向けイベントが開かれることになっていた。
手伝いを頼まれた浩一は、正直なところ気が重かった。
大人の前でさえ緊張するのに、子どもやその親たちと顔を合わせるなど、長年避け続けてきた世界だったからだ。
だが、断るわけにはいかない。
当日の朝、受付に立つ浩一の前に、次々と親子連れが訪れる。
笑顔で迎えるスタッフたちに混じり、浩一はぎこちなくも「こんにちは」と声をかけた。
最初は誰も彼に関心を示さなかった。
だが、ひとりの少年が駆け寄ってきて言った。
「おじさん、これ折り紙どうやるの?」
差し出された紙飛行機。
浩一は思わず手を取った。
――昔、机の下で時間をつぶすように折っていたことを思い出す。
「こうやって、端を合わせて……」
気づけば夢中で手を動かしていた。
完成した飛行機を少年が飛ばすと、見事に会場の奥まで飛んでいった。
「すごい! おじさん上手!」
周囲の子どもたちが歓声を上げ、次々と折り紙を持って集まってくる。
気づけば、浩一の周りには小さな輪ができていた。
「俺が……子どもに囲まれてる?」
信じられない光景に戸惑いながらも、胸の奥に温かな何かが広がっていく。
イベントが終わるころ、スタッフの一人が笑顔で声をかけた。
「浩一さん、子どもたちに大人気でしたね。助かりました」
浩一は照れくさく首をかきながらも、小さく頷いた。
――地域とつながる一歩を、自分は踏み出したのかもしれない。




