第6部-第93章 過去を知る人影
ある昼下がり、施設のロビーで浩一は見覚えのある顔に出会った。
白髪が混じり、少し老けた印象だったが、その目元は忘れようがない。
――高校時代の同級生、岡村だった。
岡村は一瞬目を見開き、それから驚き混じりの笑みを浮かべた。
「……おいおい、浩一じゃないか? まさかこんなところで会うとはな」
胸の奥がざわついた。
過去の自分を知る人間、それも同じ時代を歩んだ相手。
逃げた年月、何も成し遂げなかった事実、すべてが見透かされる気がしてならない。
「い、いや……俺は、その……」
言葉を探す浩一に、岡村は悪びれず続けた。
「昔から大人しかったけど、こうして働いてるのを見ると安心するよ。俺たち、もう五十だもんな」
その言葉に、意外にも責める響きはなかった。
だが同時に、浩一の胸には鋭い痛みが走った。
――五十まで働かずにいた事実は消えない。
だが、それでも今ここに立っている。
「……まあ、色々あったけどな」
かすかに笑い返すと、岡村は頷き、
「また話そうや。昔のことも、今のことも」
そう言って去っていった。
残された浩一は、深く息を吐いた。
同級生に会っただけで、これほど心が揺さぶられるとは。
だが同時に、胸の奥に確かな声もあった。
――過去を知る人間の前でも、今の自分を隠さずに立てた。
それは、小さな一歩だったが確かな自信になった。




