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第6部-第90章 緊急事態
屋外エリア閉鎖から三十分後。
館内の混雑は増したものの、大きな混乱はなく落ち着き始めていた。
浩一は胸をなで下ろしながら巡回していたが、突然、無線が耳を打った。
「至急! 三階展示ホールでお客様が倒れました!」
心臓が跳ねる。
階段を駆け上がると、人だかりの中で高齢の男性が床に横たわっていた。
顔色は悪く、額には汗が滲んでいる。
周囲のスタッフはパニック気味で、どう動くべきか迷っている様子だった。
浩一は膝をつき、男性の肩を軽く叩きながら声をかける。
「聞こえますか? 救急車を呼びます。大丈夫、すぐに助けが来ますから」
無線で救急要請を指示し、近くのスタッフにAEDを持ってこさせる。
手順を一つずつ確認しながら胸骨圧迫を始めると、やがて男性の呼吸がわずかに戻ってきた。
救急隊が到着し、男性は意識を取り戻した状態で搬送された。
その場にいた来場者が「ありがとう」と泣きながら頭を下げてくる。
――50歳ニートだった俺が、今は人の命を救っている。
胸に込み上げるものを押し殺しながら、浩一は深く息を吐いた。
しかし、その心には重い疲労と同時に、確かな手応えが刻まれていた。




