第1部-第9章 不合格通知
試験から二週間後の午後、ポストに一通の封筒が届いていた。
白地に大学の校章が印刷された、薄い封筒。
それを見た瞬間、浩一の胸に重い石が落ちたような感覚が走った。
母が台所から顔を出す。
「来たの?」
「ああ……」
封を切る前から、答えはわかっていた。合格なら、もっと厚い封筒で、入学手続き書類が同封されているはずだ。
手の中で紙がわずかに震える。
刃物で切るような音とともに封を開け、中の紙を引き出す。
――不合格。
たった四文字が、やけに大きく目に飛び込んでくる。
目を凝らしても、結果は変わらない。
その瞬間、体の奥から力が抜けていくのを感じた。
「どうだった?」
母の声が背中に届く。
「……ダメだった」
振り返らずに答えると、少しの沈黙があった。
「そっか……お疲れさま」
その声は優しかった。でも、その優しさが、かえって胸を締め付ける。
夕方、机の上には開いたままの受験票と参考書が散らばっていた。
どれも薄く埃をかぶり、ページの間には折り目も少ない。
窓の外は曇り空で、冷たい風がカーテンを揺らしていた。
布団に横たわり、天井を見上げる。
――もう一年やるべきか。
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、すぐに消えた。
一年やったところで、自分が変われる自信はなかった。
その夜、母が作った味噌汁は、いつもより少しだけ塩辛く感じた。
けれど「しょっぱい」とは言わなかった。
母の前で泣くこともなかった。ただ、何も言わずに箸を置いた。
窓の外では、冬の星が冷たく光っていた。
それは、もう自分には関係のない遠い光のように思えた。