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第6部-第88章 嵐の日
その日は朝から空が鉛色に沈み、天気予報は午後からの暴風警報を告げていた。
よりによって、大型イベントの初日。
来場者数は通常の倍以上が見込まれ、キャンセルはほとんど出ていない。
午前10時、最初の団体客が到着するころには、すでに風が建物を鳴らし始めていた。
外のテント会場では展示準備が進められていたが、強風でパネルが倒れそうになるたびにスタッフが走って支える。
「浩一さん、このまま続行でいいんですか?」
若手スタッフの声には、明らかな不安がにじんでいた。
だが、経営側からは「中止は避けたい」との指示が下りている。
館内に戻ると、来場者の列が入口からあふれかけていた。
外に並ばせれば危険だ。かといって、中に入れすぎれば通路が塞がる。
浩一は深く息を吸い、館内アナウンス用のマイクを手に取った。
「皆さま、安全のため順番にご案内いたします。スタッフの指示に従ってお並びください」
その声は落ち着いていたが、胸の内では嵐と同じくらい激しい緊張が渦巻いていた。
――ここでの判断ひとつで、今日のすべてが決まる。
窓の外で、雨が横殴りに叩きつけ始めた。
嵐の日は、まだ始まったばかりだった。




