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第6部-第82章 決断の日
翌朝、目覚ましより早く目が覚めた。
カーテンを開けると、東の空がうっすらと明るく染まり始めている。
眠気は不思議なほどなく、胸の奥で何かが静かに燃えていた。
朝食を終え、スーツではないいつもの制服姿で出勤する。
だが今日は、いつもより足取りが軽かった。
事務所に入ると田村が振り向き、「お、来たな。どうするんだ?」と目で問いかける。
「……やります」
自分でも驚くほど迷いのない声が出た。
田村はニヤリと笑い、「そうこなくちゃな」と背中を叩いた。
すぐに本社の人事担当者へ電話が回され、浩一は受話器を手にした。
「お話をいただいた件、正式にお受けします」
言葉にした瞬間、心臓が大きく脈打ち、背筋を冷たいものが走った。
それは恐怖ではなく、確かな緊張感だった。
昼休み、山崎がパンをかじりながら「新しいとこ行くんですって?」と笑う。
「はい。でも、ここのことも忘れませんよ」
その言葉に、山崎は「じゃあ俺も負けないように頑張ります」と笑い返した。
勤務を終え、夜道を歩く。
街の灯りがやけに鮮やかに見える。
――もう後戻りはできない。
その事実が、足を前に押し出してくれていた。




