75/145
第6部-第75章 覚悟の芽生え
体調不良で早退した翌日、浩一はまだ少しだるさを感じながらも、決まった時間に起きて制服に袖を通した。
玄関で靴を履いていると、母が湯気の立つ味噌汁を差し出してきた。
「ちゃんと食べて行きなさい。昨日みたいなこと、もうないように」
その声には、心配と同時に、息子を信じる温かさが混じっていた。
出勤すると、山崎が真っ先に駆け寄ってきた。
「もう大丈夫ですか? 昨日、みんな心配してましたよ」
同僚たちも軽口を交えながら気遣いの言葉をくれる。
それは、以前の自分にはなかった職場の光景だった。
午後の巡回中、ふと館内のガラス越しに自分の姿が映った。
制服の肩は少し落ち着き、歩く姿も以前よりゆったりしている。
――これが、今の俺なんだな。
その瞬間、胸の奥で静かに言葉が芽生えた。
この場所を守りたい。ここで生きていきたい。
不安は消えたわけじゃない。
だが、それ以上に、自分を必要としてくれる人たちがいるという事実が、足元を固めてくれていた。
勤務を終えて帰路につく足取りは、不思議なほど軽かった。
春の夜風が頬を撫で、どこか新しい季節の匂いがした。




