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第6部-第70章 新しい役割
日曜日の朝、出勤してロッカーで制服に着替えていると、上司の田村が声をかけてきた。
「浩一さん、今日の午後からイベント会場の入口担当をやってもらいたい」
イベント会場――人の出入りを制御し、トラブルを未然に防ぐ重要なポジションだ。
以前の浩一なら緊張で体が固まっていたかもしれない。
だが、このところの小さな成功体験が背中を押し、「やってみます」と自然に口にできた。
午後、会場前には長蛇の列ができていた。
浩一は列を整理しながら、笑顔で来場者に声をかける。
時には子どもたちに手を振られ、保護者に礼を言われる場面もあった。
途中、入場券を持たないまま列に並んでいた男性が、少し語気を強めて食い下がってきた。
浩一は落ち着いて事情を説明し、別の窓口へ案内した。
周囲に不安や混乱を広げずに対処できたことに、自分でも驚いた。
業務終了後、田村が軽く肩を叩いた。
「安心して任せられたよ。こういう現場の空気を和らげるの、得意なんじゃないか?」
その言葉に、浩一は久しぶりに胸を張れた。
――俺は、まだここで役に立てる。
そう確信できたのは、何ヶ月ぶりのことだった。




