表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/145

第1部-第7章 模試E判定の壁

九月の終わり、朝の空気は少し涼しくなっていた。

 予備校の廊下には、先日行われた全国模試の結果が貼り出されている。受験番号と偏差値、判定がずらりと並ぶ紙の列。

 浩一は人の少ない時間を狙って、その前に立った。


 ――E判定。


 番号の横にある文字が、やけに濃く、冷たく見えた。

 志望校はもちろん不合格圏。第二志望も、第三志望も同じだ。

 紙を見つめるほど、胸の奥で何かが鈍く沈んでいく。

 隣では別の生徒がB判定を見つけて笑っている。鉛筆の匂いとインクの匂いが混じった空間に、居場所がなくなった気がした。


 教室に戻っても、授業内容はほとんど耳に入らなかった。

 先生の声は遠く、黒板の文字は霞んで見える。

 午後の授業をサボり、自習室にも行かず、そのまま予備校を出た。

 駅前のゲームセンターに入り、明滅するネオンと機械音に紛れる。

 クレーンゲームでぬいぐるみを狙う高校生たちの笑い声が、やけに楽しそうに響く。


 その日から、予備校に行く日が減った。

 朝は布団から出られず、昼過ぎに起きてコンビニで弁当を買い、ゲームやネットで時間を潰す。

 夜になると、母が用意した夕飯を黙って食べる。

「勉強、進んでる?」

「……まあ」

 母は信じているのか、それ以上は何も聞かなかった。


 十月の模試も、結果はE判定。

 判定用紙の下に印字された「合格可能性20%未満」という文字を見ても、もう驚きはなかった。

 机に向かっても集中できず、ペンを握ったまま窓の外を眺める時間が増えた。


 冬が近づくにつれ、街の色は灰色に沈んでいった。

 受験日程表だけが、机の端で静かに時を刻んでいる。

 ――たぶん、もう無理だ。

 その言葉を心の中で繰り返しながらも、浩一は何もしないまま一日を終えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ