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第5部-第68章 自信のかけら
翌週の土曜日、館内はイベントの影響で朝から混雑していた。
入口付近では、ベビーカーを押す客と買い物袋を抱えた客が行き交い、足の踏み場もないほどだ。
浩一はエントランスで人の流れを整理しながら、意識的に深呼吸を繰り返していた。
午後、無線で「お子様が迷子になった」との連絡が入った。
発見場所は一階の玩具売り場付近。
浩一は即座に現場へ向かい、周囲を見回しながら歩いた。
少し離れた通路の隅で、泣きそうな顔をした女の子が立っているのを見つけた。
しゃがみ込み、目線を合わせて優しく声をかける。
「お母さん探してるのかな? 一緒に行こう」
女の子は小さくうなずき、浩一の手を握った。
インフォメーションカウンターに連れて行くと、すぐに母親が駆け寄ってきた。
母親は涙目で何度も「ありがとうございます」と頭を下げた。
その姿を見た瞬間、胸の奥に温かいものが広がった。
事務所に戻ると、田村が軽く笑って言った。
「いい動きだったな。ああいう時の対応は、浩一さんが一番向いてるかもしれない」
短い言葉だったが、それは思っていた以上に心に響いた。
――まだ、やれるかもしれない。
そう感じたのは、本当に久しぶりのことだった。




