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第5部-第66章 揺れる決意
配置転換の打診を受けてから、勤務中の景色が変わって見えるようになった。
エントランスで人波を見守っていると、「この場所を離れるかもしれない」という思いが、胸の奥で静かに重く沈んでいく。
常連の客が笑顔で会釈をしてくれるたび、「もうここには立っていない自分」の姿を想像してしまう。
そのたびに、言いようのない喪失感がじわりと広がった。
同僚の間では、最近の浩一の動きが以前より柔らかくなったと囁かれていた。
それは表面上の落ち着きに見えたが、内側では迷いが膨らみ、足取りを鈍らせていた。
休憩室で缶コーヒーを飲んでいると、若い後輩がぽつりと言った。
「浩一さん、ずっとこの現場にいてほしいです」
その一言が、胸の奥に鋭く刺さった。
だが同時に、自分の限界もはっきりと意識してしまう。
夜、布団の中で目を閉じると、二つの未来が頭に浮かんだ。
一つは、この場所に踏みとどまり続ける未来。
もう一つは、裏方で人目を避けながらも、体力を温存して続ける未来。
どちらを選んでも、後悔は残るかもしれない。
ただ、選ばずにいる時間だけが、確実に自分をすり減らしていく――それだけは分かっていた。




