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第5部-第65章 配置転換の打診
昼の巡回を終えて事務所に戻ると、上司の田村が「ちょっと話せるか」と声をかけてきた。
会議室の扉が閉まると、空気が急に重く感じられた。
「浩一さん、最近疲れてるように見える。無理してないか?」
予想していた質問だったが、言葉が詰まる。
「……大丈夫です」
そう答える声は、自分でも弱々しいと感じた。
田村は机に置かれた資料を指で叩きながら続けた。
「今の持ち場は人の流れが多いし、突発的な対応も多い。もし希望するなら、もう少し負担の軽いバックヤード警備に回すこともできる」
バックヤード――店舗の裏側や搬入口での警備は、来客対応こそ少ないが、冷たい空気と単調な作業が続く。
社会復帰を意識してこの仕事を始めた自分にとって、それは一歩後退のように思えた。
「考えておいてくれ。無理をして長く続けられないより、環境を変えてでも続けた方がいい」
田村の声は柔らかかったが、その奥に“判断を迫る”色があった。
帰宅後も、その言葉が頭から離れなかった。
窓の外では冬の夕暮れがゆっくりと街を包み込んでいく。
カーテンを引きながら、浩一は自分に問いかけた。
――これが、守るための選択なのか。それとも、逃げるための選択なのか。




