第5部-第60章 突発的なトラブル
それは昼下がりの巡回中だった。
館内放送が突然「お客様にお知らせします。至急、係員までお知らせください」と繰り返し流れた。
その声色には、普段の穏やかさがなく、わずかな切迫感が混じっていた。
インフォメーションカウンターに駆け寄ると、スタッフが青ざめた顔で言った。
「高齢のお客様が倒れたと通報が入りました。場所は三階の休憩スペースです!」
浩一は無線で全員に状況を伝えながら、エスカレーターを早足で上った。
三階に着くと、ベンチに横たわる男性の周囲に人だかりができていた。
男性は意識がなく、額に汗がにじんでいる。
「救急車を呼んでください!」
そう叫び、近くの若い警備員に119番を指示した。
浩一は以前研修で習った心肺蘇生の手順を思い出し、呼吸の確認を行った。
幸い、弱いながらも呼吸はあった。
救急車が到着するまでの数分が、異様に長く感じられた。
到着した救急隊員に状況を説明すると、「迅速な対応でしたね」と短く言われた。
その言葉に安堵がこみ上げたが、同時に膝が小さく震えていることに気づいた。
トラブルが収まった後も、心臓の鼓動はしばらく治まらなかった。
日常は、ほんの一瞬で非常事態に変わる――
その現実が、改めて重く胸にのしかかった。




