第5部-第59章 常連としての安心感
勤務を始めて三か月。
商業施設の入口に立つ浩一の姿は、すでに見慣れたものになっていた。
常連客の中には、会釈や「おはようございます」と声をかけてくれる人もいる。
最初はぎこちなかった返事も、今では自然に笑顔を添えられるようになっていた。
館内のスタッフとも顔見知りが増えた。
飲食店の店長が巡回中に「今日は混みそうですよ」と声をかけてくれる。
清掃員のおばさんが、休憩時間に缶コーヒーを差し出してくれることもあった。
同僚の若手からも、
「浩一さんって落ち着いてるから、何かあったとき安心なんですよ」
と言われるようになった。
その言葉は、思いのほか心に響いた。
自分の存在が、少しでも誰かの役に立っているという感覚は、長い引きこもり生活では味わえなかったものだ。
もっとも、立ち仕事による膝の痛みは相変わらずだった。
時折、夜の布団の中で足を伸ばすと、筋肉がつることもある。
それでも、明日のシフトがあるという事実は、日々の生活に規則と張りを与えてくれていた。
ある日、館内で小さな落とし物を拾い、インフォメーションに届けたとき、受付の女性が
「助かりました。浩一さんがいてくれてよかった」と微笑んだ。
その一言が、胸の奥にじんわりと広がった。
気づけば、施設の一員として、確かに自分の居場所ができつつあった。




