第5部-第58章 夜明けと疲労
午前五時を過ぎた頃、東の空がわずかに明るくなり始めた。
巡回中、ガラス扉越しに見える街の景色は、夜の影を少しずつ後退させていく。
ビルの谷間から差し込む淡い光が、冷たい床に細長い帯を作っていた。
無線で「本日の夜勤終了です」という声が入ると、緊張が一気に解けた。
制服のポケットから小さくため息が漏れるように、力が抜けていく。
更衣室で着替える手は、思った以上に重く、ボタンを留めるのにも時間がかかった。
肩や腰は鉛のように硬く、立ちっぱなしの影響が全身に染み込んでいた。
外に出ると、通勤の人々が駅へ急いでいた。
その流れの中に混じりながらも、浩一の歩みはゆっくりだった。
人々の顔にはこれから一日が始まる活力が宿っているが、自分にはもうその力が残っていない。
コンビニで温かい肉まんを買い、店先でかじる。
湯気とともに口の中に広がる塩気が、徹夜明けの体に沁みた。
ただ、それが活力になるというより、ようやく一息つける合図のように感じられた。
家に着くと、母はもう起きていて朝食を作っていた。
「お疲れさま」とだけ言い、あとは何も聞かずに味噌汁を差し出す。
湯気越しに見えた母の横顔は、どこか安心しているようにも見えた。
そのまま布団に倒れ込むと、次に目が覚めたときは、すでに夕方だった。




