第5部-第55章 初現場
研修から三日後、浩一は初めての現場勤務に向かった。
配属先は駅前の大型商業施設。人の出入りが多く、警備員の人数も多い。
更衣室で制服に着替えると、胸元に付けられた社名入りのバッジがやけに重く感じた。
先輩警備員が巡回ルートや持ち場を説明してくれる。
「今日は立哨メインだ。エントランスの出入口で来客対応も頼む」
午前十時、施設が開くと同時に、人の波が押し寄せた。
老若男女が行き交い、キャリーバッグの音や子どもの笑い声が混ざり合う。
その雑踏の中で、浩一は背筋を伸ばし、周囲を見渡し続けた。
正午前、突然、店内の奥から子どもの泣き声が響いた。
母親らしき女性が血相を変えて駆け寄り、「息子がいなくなったんです!」と訴えてきた。
先輩が即座に無線で連絡を取り、浩一にも周辺の捜索を指示した。
館内を走るわけにはいかないため、早歩きで人混みをかき分ける。
食品売り場の端で、小さな男の子が一人で立っているのを見つけた。
「お母さん探してたんだろ? こっちにおいで」
浩一の声に、男の子は涙目で頷き、手を握ってきた。
無事に母親の元へ返すと、女性は何度も頭を下げた。
その光景を少し離れて見ていた先輩が、「初日にしてはよくやったな」と笑った。
勤務終了後、控室で制服を脱ぐと、全身が重だるかった。
それでも、心の奥では「役に立てた」という温かい感触が残っていた。




